#02
中学三年生の夏。母に内緒で桜花と一緒に受けた『ナナイロサクラ』のオーデションに見事合格し研修生になった私には、世界の全てが輝いて見えていた。
『わぁ……これがサクラ劇場かぁ。凄いなぁ、感動しちゃうなぁ』
アイドルとしての活動を許すのは高校まで。成績が落ちたらアイドルは辞めること——そんな母との「約束」を守るつもりなんて端から一ミリもない。
……母との「約束」を守る事に何の疑いも抱いてなかった今までとは違うんだ。
そんな大きな決意と小さな叛逆が、何だか私を大人にしてくれたような気がしていた。
『メグってば、さっきからそればっかりだね』
『だって私たち、憧れの場所に立ってるんだよ? 興奮するなって方が無理な話だよ』
『ここに立つ事はぼくたちの目標じゃないよ。ここはあくまでスタートライン。でしょ?』
『それは……そうだけど。でも、嬉しいものは嬉しいんだから、仕方ないじゃない』
レッスンは毎日吐く程厳しかったけど、辛くはなかった。
隣を見れば、同じ夢を目指す親友がいる。
歌もダンスも、新しいことを全力で学んで吸収していくことが楽しかった。
皆が努力と呼ぶ積み重ねや反復は得意分野で、周りはそんな私に期待してくれたから。
まだ一人のお客さんもいない無人のステージで、私はどこまでも自由で無敵だった。
『ねえ桜花聞いて! 私も今度のライブで、桜花と一緒にデビューできるかもしれないの! 桜花と一緒にあの曲でデビューさせたいって、くじらさんが——』
『……遅い。待たせすぎ』
『あう……』
『……でも嬉しい。ぼくらの未来があのステージから始まるんだね。ここから、一緒に』
期待されている。認められている。求められている。
母との「約束」を守らなくても、私にはちゃんと価値がある……!
誰かに強制された訳じゃない。縛られてもいない。私自身が頑張りたくて、自由にどこまでも羽ばたきたくて、だから練習して練習して練習して練習して練習してその果てに——
『……メグ、ごめん。くじらさんもすみません。こんな大事な時に、疲労骨折だなんて……』
『ううん、仕方ないわ。でも、困ったわね……例の曲は二人のために書き下ろした新曲だったのだけど、こうなってしまったら今から他の人に振り覚えをして貰うしか……』
『……くじら、メグのパートならぼくも覚えてる。メグがいないならぼく一人でいい』
——「サクラフブキ、ユメメブキ」が、生まれた。
『あの曲はぼくらの曲だ。だから——メグが流した涙の分まで、ぼくが歌うよ』