#01
たぶん私は、母の口癖がずっと苦手だったんだと思う。
『芽夢はイイ子だから、お母さんとの「約束」守れるわよね?』
自分のことになのに推定口調なのは、物心つく前からずっと言われ続けてきたその言葉は、当時の私が生きていく上では呼吸同然の常識だったから。
『芽夢! 今回のテスト、よく頑張ったわね! ちゃんと「約束」を守れて偉いわ。流石はお母さんの子ねぇ……!』
約束を守ると、母は私を抱き締めて笑顔で褒めてくれた。
凄く嬉しくて、心がぽかぽか温かくなる。
私はそれが好きで、だからどんな約束も守ろうと必死に頑張った。
『……ねえ、お母さんと「約束」したわよね? なのにどうして? この酷い点数はなに?』
約束を破ると、母は涙を流しながら私を睨んで怒鳴りつけた。
凄く悲しくて、心が冷たく寒くなる。
私はそれが嫌だった。
だって、そういう時の母の顔を見ていると、苦しく辛くて怖くて不安で悲しくて頭が真っ白になってしまって、どうしたらいいのか分からなくなるから。
『……ねえ、おかあさん。「約束」って、どうしてまもらなくちゃいけないの?』
『そうねえ……。ねえ、芽夢。信号が赤の時は道路を渡っちゃいけないわよね?』
『うん。車がきて、あぶないから。青になるまで、またないとダメなんだよ?』
『そうよね、そういうルールよね。もしそのルールを破ると、どうなると思う?』
『えっと、車にひかれて……痛い?』
『そうね。ルールを守らなきゃいけないのはね、ルールを破ると怖いことや嫌なことがあるからなの。ルールを守ることは自分を守ること。「約束」も同じよ。お母さんと芽夢の間にルールを作って守りましょう、一緒に幸せになりましょうってするのが「約束」。だからね、お母さんが芽夢と「約束」をするのはぜんぶ芽夢の幸せの為なの』
『……じゃあ、もし「約束」まもれなかったら……こわいこと、あるの?』
『そうね……もし「約束」を守れなかったら、芽夢は不幸になってしまうかも。でも大丈夫よね、芽夢はイイ子だもの。お母さんとの約束、守ってくれるわよね?』
私は、幼い頃から大人の言いつけや約束事を守る聞き分けのイイ子だった。
そんなつまらない自分のことが本当は嫌いで、違う私に成りたくて、変わりたくて……だから私は、あの日見つけた理想の私を追いかけてステージに立ち続けている。
今も、昔も——私はずっと、あの星の海を自由に羽ばたく翼が欲しかった。