#04
『——君さぁ、困るんだよね、こういうの』
『ナナイロサクラ』の新リーダーとしての初ステージを終えた私の元を訪れた番組プロデューサーは、苛立ちを隠そうともせずそんなことを言ってきた。
『暗黙の了解っていうか、大人の事情っていうかさぁ……言わなきゃ分かんないかなぁ?』
意味が分からなかった。
私のパフォーマンスに落ち度はなかった。むしろ客観的に見て歌もダンスもこの場の誰よりも上手かったし、目立っていた。実力的に頭一つ抜けていたとすら思う。
審査員たちが付けた高得点がその証拠なはずだった。
『だからさぁ、それが問題なんだよね』
状況が分からず混乱する私に、プロデューサーは心底つまらなそうに言う。
『虹坂桜花や久良野くじらが卒業した落ち目のナナイロサクラってのはさぁ、話題性抜群のイイかませ犬……つまりは、他の子たちの引き立て役なんだよ』
それでようやく、私は彼が言わんとすることを理解した。
『君みたいな大して可愛くもなければ若くもない微妙なアイドルが微妙な結果を残してさ、〝ああ、やっぱりナナイロサクラはもう終わりなんだな〟って皆で嘲笑う……そこへ満を持して新たなスター登場! そういう流れにしたい訳なのよ、こっちは』
——降り注ぐ光の雨の中、煌びやかな衣装を纏ってきらきら輝くアイドルの姿に憧れた。
可愛くて、きれいで、かっこよくて……ステージの上で笑顔を振りまき躍動する彼女たちは、まるで背中に翼が生えているみたいに自由で、心の底から楽しそうに見えたから。
あの日のステージに見つけた私の理想像をがむしゃらに追いかけてここまで来た。
『売り出したい子なんて、最初から決まってるんだ。だからさぁ……』
努力を重ね失敗して挫折して後悔して……それでもようやく、私も煌びやかな星の海を自由に羽ばたく翼を手に入れることができたんだって、そう思っていた。
『正直言って誰も求めてないんだよね、君のことなんて』
結局、番組プロデューサーの不興を買った私のパートはオンエアではその殆どがカットもしくは編集され、私は予選敗退。『ナナイロサクラ』の低迷を決定付ける結果となった。
『ナナイロサクラ』の名を背負えば、今後も比較され続けることになる。事務所の判断によりグループ名は『floraLison』へと変更され、私は自らの意思でリーダーを辞任。
その後しばらく、叶メグムというアイドルが地上波放送に映ることはなかった。
それが、この世界に存在する暗黙の了解を——〝ルール〟を破った私への罰だった。




