#03
初期メンバーの大量卒業により、『ナナイロサクラ』の人気は急速に低迷した。
大き過ぎる変化は良くも悪くも停滞を許さない——でもそれは、スポットライトに縁のなかった私のようなアイドルにとっては現状を打破する大きなチャンスでもあった。
『それでは早速歌って頂きましょう! J-pop最強アイドル決定戦、トップバッターは一昨年に電撃引退した虹坂桜花の魂を継ぐ『ナナイロサクラ』新リーダー、叶メグムで——』
桜花がアイドルを辞めてから一年半。私は、『ナナイロサクラ』の新リーダーとしてとある歌番組のステージに立っていた。
当時の私は実績こそなかったものの、最古参メンバー故の経験値と、歌とダンスの技能が高く評価されており、後輩たちからの推薦もあっての大抜擢だった。
今日は『ナナイロサクラ』を代表してのソロでの出演。この番組で結果を残して『ナナイロサクラ』を低迷から救う——それがリーダーである私に与えられた使命だった。
……ここまで長かった。眩いスポットライトを一身に浴びながら、心の底からそう思う。
期待に応えたい。
その一心で努力を重ねてオーバワークから怪我をして、療養中に同期がどんどん先へ進んでいく姿に焦りを覚え、またオーバーワークを重ねて怪我が再発して……思えば、私のアイドル人生は、スタートダッシュで大きく躓くところから始まってしまった。
それでも、今までの歩みは一秒たりとも無駄になっていないと今なら思える。
足を怪我していた間はボーカルトレーニングに集中することが出来た。
怪我を繰り返し悔しい思いをした中で、自分の身体との付き合い方やメンテナンス方法も学んだ。今では効率的なトレーニング方法や身体が壊れない負荷の限界も熟知している。
歌もダンスも誰にも負けない自信があった。
いいや、もう負けちゃいけないんだ、私は。
大好きなくじらさん達が去ってしまった『ナナイロサクラ』を守るために。
——「私、いつか桜花みたいなトップアイドルになる」
そして、桜花との大切な約束を守るためにも、絶対に。
……誰かが言っていた。『ナナイロサクラ』はもう終わりだって。
虹坂桜花も久良野くじらもいない。人気があった初期メンバー全員が卒業したあのグループに、未来なんてないって。
そんなことない。『ナナイロサクラ』はまだ終わってなんかいない。
くじらさん達が、虹坂桜花がステージを去っても私たちはここにいる——会場に響く私の歌と鋭いステップは、審査員たちの心を確かに震わせ、終わったはずの『ナナイロサクラ』はもう一度華麗に花開く——はずだった。




