第九節 倉庫作業は・・・
よろしくおねがいします
平々凡々な日常を過ごしていたある日の昼休み、ギルド食堂の職員用休憩室で、お昼の賄を食べていたとき、ギルド食堂の店長であるクロラルさんがやってきました
「ツナちゃんとアスフィーネちゃん悪いんだけど、
しばらくギルド倉庫の方へ手伝いに行ってくれないかい?
管理がなってないとかで、ちょっとした問題になってて、
その対策に人手がいるらしくてね・・・」
私とアスはお互いの顔を見つめ会い・・・頷き・・・そして、
「「わかりました」」
と、クロラルさんに元気よく答えました
ギルド倉庫とは、冒険者や探索者たちが持ち込んでくるドロップアイテムや素材に魔力結晶等を保管しておく倉庫のことで、扱う物量の多さと、入出庫の煩雑さで、ここのギルドで忙しい部署の一つです
◇
翌日、アスと一緒にギルド倉庫に向かいました
倉庫は、食堂と同じギルドの敷地内ですが、職員寮や食堂からは少し離れたところにあるため、私たちは滅多に通らないところにあります
アスと他愛のない話をしながら倉庫に向かっていると、頑丈な煉瓦作りの外観をした倉庫が見えてきました
「結構大きな建物だね・・・」
「大変な仕事を引き受けたのかもしれないね・・・」
私とアスはそんな感想を口にしつつ、食堂よりも大きな倉庫内に踏み込みました
そこには、ドロップアイテムをベースに、大小さまざまな魔力結晶が辺り一面に散りばめられ、倉庫の採光窓からの光に照らされて、乱反射を起こし、見ている者に錯覚と幻覚を引き起こさせます
呪具の類が混ざっているのか、時折、悲鳴や呻き声が聞こえてきます
また、各々のアイテムが独自の絶妙なバランスを保っていているような見事な配置は、どれか一つでも取り外せば、たちまちその者を飲み込んでしまうような危うさを醸し出していました
そんな、天井に届かんという位に積み上げられた、ドロップアイテムと魔力結晶でできた山が聳えたっていました
その山には生ものの類がなかったのは幸いでした、もしあったなら相当の異臭と、おぞましいものを見ることになったことでしょう
場合によっては、魔物が発生していた可能性があったかもしれません
ドロップアイテムの山を見てしばらく呆けていたのですが、視界の端で一人の作業員が、何か書かれた紙切れを片手に山の近くを行き来しているのが見えました
そうして、山の近くを行き来していた作業員は、何かを見つけたような素振りをしたかと思うと、私が作業員に声を掛けるよりも先に、無造作にドロップアイテムの一つを手に取ったのでした
その瞬間、ゴゴゴゴゴゴという地響きと共にドロップアイテムの山が崩れ始めました・・・
私の方に向かって・・・
「なっ・・・」
なんでこっちにと叫ぶ間もなく、ドロップアイテムの雪崩に、私は巻き込まれたのでした
◇
数十分は掛かったでしょうか・・・
アスと先ほどの作業員に助けられた私は、酷い目にあわされ多少イラついているのを我慢しつつ
「助けていただいてありがとうございます」
「なに、良い言って事よ、
さっきみたいな雪崩はいつものことだから気にすんな・・・がはははっ」
ドロップアイテムの山から聞こえてきた悲鳴や呻き声は、私のように雪崩に巻き込まれた他の倉庫作業員の方からのものかもしれません
しかし、この作業員の細かいことは気にしない豪快な態度と言葉に、ますますイラッとしました
「ギルド食堂の方から応援にきた者ですが、
ここの責任者の方はどちらに見えるのでしょうか」
「あぁ、俺がその責任者のアルバンだ、応援よろしく頼むは・・・がはははっ」
作業員に、食堂から応援に来たものだと告げ、ここの責任者を教えてもらおうと聞いてみると、自分がそうだと誇らしげに名乗ってきました
作業員改めアルバンさんは、
筋骨隆々な体型をした禿げ頭の小父さんで、袖なしのシャツにジーパンという、如何にも脳筋ポイいで立ちをしていました
こめかみを指で押さえ、沸々と沸いてくるイライラ感を抑えこみ、倉庫が何故こんな状態になったのかを問いただしてみました
「俺がここの責任者になった頃は、割と片付いていたんだが
ドロップアイテムを、棚の空いているところに適当に置いて行くうちに
だんだんと、どこに何があるのか分からなくなっちまってな
それでも棚のあちこちをひっかきまわしてどうにか対応してたんだがよ
ある日、棚の一つを壊しちまって、ドロップアイテムが散乱しちまったんだ
だが、ドロップアイテムを依頼人に引き渡す納期は待ってくれねえから
修理も、片づけも、後回しにしていたら、いつの間にかこうなっちまった
最近では、まともにドロップアイテムの管理もできなくなっちまっててな
依頼人たちから、『いつまでたっても依頼品が届かない』って
クレームがでちまって、上の方で問題になっちまった訳だ
何でこうなったんだか・・・」
その話を聞き終わった私は、
「終始、あんたの自業自得でしょうが!」
「お姉ちゃん、落ち着いて・・・とにかく落ち着いて・・・深呼吸よ・・・ヒッ・ヒッ・ふぅよ」
怒り心頭でアルバンさんに詰め寄ろうとした私でしたが、アスが腰に抱き着き制止するのでした
◇
何とか落ち着いた私は、アイテムの山を仕分けし整頓する手伝いを始めました
ちまちまと仕分けしていては、いつまでたっても終わりそうになかったので、一つ手を打つことにしました
アルバンさんには、できるだけ大きさのそろった大きめの木箱と木札をできるだけ多く用意するよう、お願いしたところで、私はアイテムの山の前に立つと、円柱状障壁でアイテムの山を囲むと宙に浮かせました
障壁で囲ってしまうと中にどれだけ重いものが入っていようと重さに比例した魔力を消費しますが、割と簡単に動かすことができてしまう、障壁の便利な特性の一つです
ある程度の高さまで浮かせたら障壁の底面を逆円錐台状にゆっくりと変形させ、その下に用意してもらった木箱を一つ設置します
障壁全体を適度に振動させ、障壁の最低面部の透過条件設定を、小さいアイテム・・・例えば鉱石・・・が一種類が透過するように設定します
やや強引ではありますが、障壁による振動付きホッパー擬きが完成しました、
あとは、木箱がいっぱいになれば、他の木箱に交換し、落下するアイテムがなくなれば、新しい木箱を設置して、透過条件設定を別のアイテムに変更します
もし、目詰まりを起こしそうなとき等は、格子状障壁を逆円錐台部のところに展開し、それを下から上に移動させるなどをして、適宜撹拌します
そんな感じで仕分け作業を始めました
◇
ドロップアイテムもさまざまな大きさの魔力結晶や、数の少なかったアイテムぐらいになったとき、障壁内で伸びている生物らしき何かを見つけました
両掌で掬いだしてみると、二頭身位の容姿で背中にトンボのような羽を二対つけた、まるで妖精のような生物でした
横からのぞき込んできたアスが、
「妖精ね、こんな街中で珍しいね」
と言ってきました
しばらく観察していると、妖精が目を覚ましました
私とアスが見守る中、妖精は眠たげな目で辺りを見まわしていましたが、私と目が合ったところで、おもむろに立ち上がると私に向かって、強烈な右フックを放ってきました
私は、ついさっきまで両手が塞がっていたこともあって、回避が間に合わず、もろに食らってしまいました
体重の乗った良いパンチでしたが、相手は掌サイズの小さな妖精です
たいしてダメージは受けませんでした
私は尚もパンチを繰り出そうとする妖精の襟首を摘まみ上げました
妖精はかなり激怒していたようで、襟首を摘まれながらも暴れていたので、暴れ疲れるまで待つことにしました
かなり待ってようやく疲れたようで、ぐったりとしている妖精に事情を聞くことができました
名前をフィリアといい、気ままな放浪旅をしていて、ダンジョン探索を一度体験してみたくなって、この街に来たらしいのですが、小さな妖精一人では、探索はままならず、住処もどうしようと考えていたとき、丁度、あのアイテムの山を見つけ、勝手に自分の住処にしてしまったようです
もちろん、無断居住・不法占拠であることに間違いはありませんが・・・
そして、今日は朝から気持ちよく昼寝をしていたら、天変地異も斯くやの大地震に巻き込まれたらしいです
それは恐らく仕分け作業時の振動と撹拌のせいですね・・・
そんな状況で気を失い、そして、気が付けば、私の顔が目の前にあったそうで、魔物化した大精霊が復活したかと思い決死の突撃を行ったそうです
確かに目じりがつり上がり若干きつそうな印象がする顔立ちではありますが
そこまで酷いことを言われるなんてかなりショックです
後でアスに慰めてもらおうと思いました
◇
フィリアの説明を聞き終えたあと、このフィリアをどうするのか、アスと相談していると、
「あたしの住処をあんたが奪ったんだから、
あんたが新しい住処を提供するまで憑りついてやる」
フィリアはそう言い放つと、私の掌の上から、ふわふわと飛んでくると思ったら頭の上にへばりついてしまいました
慌てて剥がそうとしましたが、耳に必死にしがみ付いて結局できず困っていると、アスから妖精にそんな能力はないと耳打ちされたので、引き剥がすのを諦めて、残りの仕分け作業を完了させることにしました
◇
仕分け作業がようやく終わり、
「後は整頓かぁ・・・」
と、呟いていると
アルバンさんが私の下にやってきて、
「いや~、ほんとに助かった・・・また頼むわ」
と、軽い調子で言ってきたので
「また頼むわじゃないわよっ」
アルバンさんに障壁で保護した拳で右フックをきめ、アルバンさんを大地に沈め、整頓の方はしっかりとやらせようと考える私でした
そんな様子を見ていたアスと、いつの間にか頭の上から離れたフィリアが
「あいつ、いつもあんな感じなの?」
「いつもじゃ無いけど時々残念なのよね・・・お姉ちゃん」
「あんたもなんだが苦労してるのね・・・」
そんな会話をしていたのでした
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あと、作中のホッパー云々はご都合主事の産物です