第八節 ギルド職員は・・・
よろしくおねがいします
ギルドで働かせてもらえるよう、ベアラスさんの知り合いの下へ、私とアスとベアラスさんの三人で向かっているところです
この街はアルステイムと言い、ギルドはそのアルステイムの中央広場の一角にあるそうです
そのため、街の東の端にあるベアルスさんの治療院からは、中央広場から十字に伸びた大通りにいったん出てから向かうことになり、結構な距離を歩くことになります
始めは木造の家々が並んでいた街並みも、やがて中央広場に近づくにつれ、煉瓦造りの家々が軒を連ねるようになり、それに合わせるかのように、鍛冶屋などの工房から、露店や商店が犇めき合うようになり、剣や弓などの武具を身に付けた人を見かけるようになりました
(ギルドってどんなところなんでしょう、なんだかワクワクします
建物に入るなり『ここはガキの来るところじゃねぇ』とか言いながら、
昼間っから飲んだくれてる強面のおっさんが絡んできたりするのかしら
それとも、美人な受付のお姉さんに可愛がられたりするのかしら
ひょっとして、適正試験でものすごい適性が見つかったりしたりして
ハッ・・・私って魔力多いし、魔術も初級だけど全属性使えるし、
固有魔術もあるから、いきなり高ランク認定されたりなんかしたりして
どうしよう・・・
ウッ・・・
アスが『お姉ちゃん、また変なこと考えてる』的な胡乱な目でこっちを見てる
どうしよう・・・)
私は、そんなどうしようもないことを考えながら大通りを歩いていました
そうやって気がつけば、一軒の食堂の前に到着しました
「ツナちゃん、アスフィーネちゃん、ついたわよ」
「ここですか?」
ベアラスさんの言葉に、私は確認の言葉を返します
隣を見れば、いかにも冒険者ギルドっぽい建物がありますが、目的地は目の前の食堂のようです
「えっ・・・ギルドで働くって、冒険者になることではないんですか?」
と、ベアラスさんに尋ねると
「まだ子供のアンタたちに、そんな危ないことさせる訳ないじゃないの」
と、笑われてしまいました
食堂に入ると、ベアラスさんは近くにいた給仕の人に、店長の居場所を聞くと、水汲みに行っているとのことでしたので、勝手知ったる他人の家とばかりに、建物の奥へと向かっていったので、私たちも慌ててついていきました
食堂の裏手に出て、少し行くと共同井戸のところで、小母さん達がおしゃべりをしていました
「クロラル、久しぶり、腰の具合はどうだい」
「おや、ベアラスじゃないかい、腰は問題ないよ、
それよりも、随分かわいい子たちを連れてきたね、あんたの孫たちかい」
「何寝ぼけたこと言ってるのよ、まだそんな年じゃないわよ」
いきなり、随分な挨拶から始まりましたが、聞けばクロラルさんとベアラスさんとは幼馴染の関係だそうです
だからでしょうか、付き合いが長いとこういうやり取りも軽く流せてしまうのでしょうね
「こないだ話してた子たちを連れてきたのよ
いろいろ面倒見てやってちょうだい」
「この子たちが、うちで住み込みで働かせたいって言ってた子たちなんだね」
「とっても仲の良い姉妹なのよ」
「そうなのかい」
クロラルさんは、少し屈み込み視線を私とアスに合わせました
「こんにちは、
あたしはここの食堂の店長をしているクロラルってもんだが
名前は何て言うんだい?」
「私はツナです」
「義妹のアスフィーネです」
「そうかい、ここで働きたいっていうことだが、何ができる」
「皿洗いや水汲みにジャガイモの皮むきができます
配膳なんかも任せてください」
クロラルさんはしばらく、考え込んで
「大丈夫そうだね
まあ、出来なくても、みっちり仕込んであげるから安心なさい」
大方のことはベアラスさんとクロラルさんとの間で話が済んでいたようで、すぐに働かせてもらえることが決まりました
◇
「それじゃ、まずは、住むところを案内しようかね・・・ついておいで」
私たちは、クロラルさんに案内されてこれから住むところになる場所へ向かいました
「ベアラスさん、何から何まで面倒を見ていただいてありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいのよ、こんなかわいい姉妹を見捨てるなんてできないし、
頼まれてた人手の件も片付いたから気にしなくていいのよ」
ベアラスさんにお礼をいいつつ歩いていたら、共同井戸から五分ほど離れたところにあるアパート風の建物に到着しました
アパート風の建物は、漆喰の白い壁が栄える三階建ての真新しい煉瓦造りの集合住宅で、ギルド職員が寝泊まりする職員寮らしいです
そこの三階の一番奥に、私たちの部屋が割り当てられました
部屋の扉をあけながら、クロラルさんが
「今日からここが、あんたたちの部屋だよ
必要なものは大体揃えておいたから、大丈夫だと思うけど、
他に必要なものがあったら言っとくれ、用意するから」
「随分と、いい部屋ね、
日当りもいいし、ここなら安心して生活できるわね」
「こんな立派な部屋に住まわせていただいてありがとうございます」
「いいの、いいの、その代わり、しっかり働いてもらうからね」
「あんまりクロラルが無茶言うようなら、このベアラスに知らせなさいよ」
ベアラスさんやアスは、口々に感想やお礼を言いいました
「それでね、早速だけど仕事は明日からお願いするわね
とりあえず、迎えに行くから、
それまでにそこのクローゼットの中にある制服に着替えて待っといで
あとは、今日の夕食と、明日の朝食は、自分で作ってもいいし、
そこいらの商店か屋台で買ってきたものでもいいから適当に済ましといてくれ
あっ、思い出した
ベアラス、手続きがまだ少し残っているからちょっと来てくれないかい」
そういうと、クロラルさんとベアラスさんは別の話があるのか私たちを置いて、部屋を出て行きました
二人を見送った私たちは改めて割り当てられて部屋を見て回りました
割り当てられた部屋は
大人が一人で暮らした場合、ちょっと広いかな程度の大きさで、シンプルなデザインのキングサイズベットが一つに、質素な長テーブルが一つに椅子が四脚、クローゼットが一つと、食器棚には、皿やフォークなどの食器が適量すでに揃えてもらってありました
それに簡易キッチンもあって、そこにはコンロや冷蔵庫の魔術具が設置されていました
至れり尽くせりの待遇に、クロラルさんとベアラスさんには感謝の気持ちでいっぱいになりました
「生活に必要な物は一通りそろっているね」
「うん、大丈夫そうだね」
一通り見て回った私たちは、そう呟き、手荷物・・・といっても、治療院で療養していたときにベアラスさんが用意してくれた着替え数着くらいですが・・・それを鞄からクローゼットに移し替えて、引越しは完了しました
「あとは何する」
「今晩と、明日の朝のごはん買いにいこうよ」
アスと話し合い、今晩と明日の朝の食事を買い出しに行くことになりました
お金の方は、ベアラスさんから、餞別にといくらかもらっているので大丈夫です
職員寮から、大通りに出て、露店や屋台を見て回りました
「あっ、ここの串焼きなんかがいいんじゃない」
「あそこにパン屋さんがあるよ、後で見てみようよ」
「この飾りきれいね買っていきましょうよ」
「無駄遣いはだめです・・・お姉ちゃん」
などとアスと楽しく買い物と夕食を済ませました
その夜、アスと一緒のベットの中で
「明日から、ギルドの食堂で働くのか・・・」
「どんなところかな・・・」
「楽しいところだったらいいね」
「クロラルさんも優しそうだったし、良いところだよきっと」
明日からの生活について話しながら眠りにつくのでした
◇
「お姉ちゃん・・・起きてください・・・」
翌朝、アスに起こされ目を覚ましました
「おはよう、アス・・・今日は早いのね」
「今日からキルドの食堂で働くんだから早く起きなきゃ」
「そうだったわね」
早速、クローゼットの中から真新しい制服を取り出し着替えました
制服は、紺を基調とした膝丈のエプロンドレスで、サイズは測ったようにぴったりでした
私たちは、昨日の買い出しで買っておいたパンで朝食を済ませると
クロラルさんが迎えに来るのを部屋でおしゃべりしながら待つのでした
◇
「迎えに来るの遅いね」
「私たちのこと忘れてたりして」
「まさか、そんなことあるわけないでしょ・・・」
そんな冗談を言いつつ待っていたのですが、日がだいぶ上がった頃になって、ようやくクロラクさんが迎えに来てくれました
「すまないね・・・迎えに行く時間を言い忘れちまってて・・・」
「いえ、大丈夫です」
「そかい・・・じゃあ案内するわね・・・」
私たちは、クロラルさんの案内でこれから働くことになる食堂へ向かうのでした
職員寮を出て、共同井戸の横を通り抜け、陽の光を浴びながら五分ほどで目的の場所に到着しました
そして、裏口から建物の中に入り、バックヤードの様なところに通されました
そこで、先頭を歩いていたクロラルさんは、私たちの方へ向きを変え
「ここが、ギルドが運営する食堂、通称「ギルド食堂」だよ
あんたたちはまだ子供だから、今くらいの時間から、
日没くらいまで働いてくれたらいいわよ
仕事も皿洗いや水汲みと、昼間の給仕の応援くらいをお願いするわね」
そう言うと、こんどはホールや厨房に向かって声をかけました
「調理長に給仕長、すまないけどちょっと来ておくれ」
さほど時間もかかることなく、恰幅の良い壮年の男性と、ピンと背筋の伸びた壮年の女性が現れました
「店長、何か御用でしょうか」
代表して男性が声を掛けてきたので、クロラルさんが私たちを紹介してくれました
「この子たちが、昨日話してた子たちだよ、いろいろと教えてやっておくれ」
「「わかりました」」
「ツナです、よろしくお願いします」
「アスフィーネです、姉共々よろしくお願いします」
「ここの厨房を任されている調理長のマッカイだ、よろしく」
「ここの給仕長をしているトレーズです、よろしくね」
挨拶が済むと、早速、仕事だとばかりに、マッカイさんは私たちを厨房へと案内してくれました
「さあ君たち、こっちに来て食器を洗う手伝いをしてくれるかい?」
「「わかりました」」
私たちは、食器洗いに水汲みやジャガイモの皮むきにと精を出しました
神殿にいたころと同じことをするので、手慣れたお仕事です
そんな感じで食堂での日々が始まったのでした
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気が付けば、月はすでに真上を当の昔に過ぎていったようです
かなりの間、思い出に浸っていたようです
私が、この世界に迷い込んでから、いろいろあって
気が付けば、この世界における成人を迎える年になっていました
神殿の情報は、今も集めているのですが、どこにあるのかすら分からないのが現状です
アスは、神殿の皆なら大丈夫だよと言ってくれていますが・・・
ギルドの人たちも優しいし、探索者の人たちも、粗暴な人もいたりしますが、皆気のいい人たちばかりです
ここでの生活も悪くないのですが、だからこそ、いつ、また、あの時のような魔物がやってきたらと思うと、言いようのない不安に駆られてしまいます
ふと、お尻の辺りがなんとなくムズムズする気がしたので、視線を向けると、いつものように私の尻尾を抱き枕にしつつ、安心しきった表情で静かな寝息を立てて眠るアスの寝顔がありました
そんなアスの頭をひと撫でした後、私は再び眠りにつくのでした
せめてこの子との平穏な日々がいつまでも続くことを願いつつ・・・
ありがとうございました
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