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第三節 邂逅は・・・

よろしくおねがいします

お尻の辺りがなんとなくムズムズする気がして目が覚めました


(よかった。まだ、生きてるみたい)


生きていたことに安堵しつつ、ゆっくりと体を起こし辺りを見回してみましたが、頭がボンヤリしているし、視界もボンヤリとしています

なにか無いものかと目を凝らして、辺りをもう一度見まわしてみると、知らない部屋にいることに気が付きました


ここは、白を基調とした華美な装飾の類の無いシンプルな部屋のようで、正面には大きな窓があり、薄手のレースのカーテンの隙間からは柔らかな日差しが差し込んでいます

ベッドサイドテーブルに椅子やクローゼット等があり、どの家具も質素ながらも高級感あふれるものでしたが、全てが丸みを帯びた形状で、材質も木だったのおかげなのか、長閑で心が落ち着く雰囲気を醸し出しています


(気を失っている間に、またどこかに運ばれたのかな?

 それにしても、今寝ているベット、クッションがほどよく利いてすごく

 寝心地が良かったですし、シーツからは、ほのかにお日様ような匂いがして

 清涼感がたまらなかったですね

 それに、ベッドサイドテーブル等の家具類も、アンティーク調でなかなかに

 落ちつきます

 こういうのが安らぎの空間というものなのでしょうね

 まるで高級リゾートホテルのスイートルームみたいです

 泊まったことないですけど)


部屋の調度品等に関心していたところ、正面の窓から、春先に吹くような爽やかな風が入り込んできました

風を感じ窓の方を見てみると、レースのカーテンが大きく捲り上がり、その隙間から外の景色を見ることができました

そこには白樺の森が広がり、その先には山頂が白く雪化粧した山々がならび、雲一つない昼の青空には、白く輝く月が輝いていました


(白樺の森なんて初めて見た気がします

 あの山々もあそこまで雪が残ってるなんて

 かなりの高さのようです


 あんな山々、住んでいた近所にはなかったので

 ずいぶん遠くに運ばれたみたいですね


 それにしても、きれいな月だったなぁ


 昼間なのに、いつも見ていた月よりも大きくて白く輝いていて、

 それが二つも

 ・

 ・

 ・

 二つ!?


そうだ、これはあれでしょう

 見た人が心を落ち着かせられるように配慮した

 リラクゼーション映像か何かですね


 きっとそうです

 そうにちがいないです

 そうだとだれか言って)


おかしな景色に対して、ボンヤリする頭で必死に理由を考えていると、今度は微かに薬品のような独特の匂いが、鼻をくすぐりました


何故か嗅ぎ慣れた懐かしい匂いの気がして、その匂いの素を手繰ってみると、私の左後ろにあったベットサイドテーブルの上に、水の張った手桶とタオル、それと、薬と思われる薄紫色の液体が入ったお椀が置かれているのを見つけました


(この薬っぽい匂いの素はこれかしら

 それにしてもすごい色してるわね

 それに、よく見てみると

 微かに震えているような気がするんだけれど

 ほんとに薬なのかしら)


薬ぽいものについて考えていたところ、何か動くものを視界に端に捉えました

何だろうとそこに目線を向けてみると、黄色みの強い茶色い物体を気持ちよさそうに抱き枕にしている、五歳か六歳くらいの黒髪の女の子が寝ていました


(なにこの子、かわいい・・・)


気持ちよさそうな寝顔を見て、何気に頭を撫でようと、そーっと手を伸ばしたとき、寒かったのでしょうか、女の子がすこし身じろぎしました

そのとたん、得も言われぬ心地よい感覚が全身を駆け巡り、思わず手を伸ばした格好で固まってしまいました


(何だったんでしょうか、今の感覚は・・・)


あらためて女の子を見てみたのですが、特に変わったところはありません

それではと、女の子が抱き枕にしている黄色みの強い茶色い物体に目をやると、それは狐の尻尾のようで、それがどこからやってきているのか目で追ってみると、なんと私から生えているではありませんか

その事実に唖然としながらも、ひょっとしてとの思いから手を頭の上に持っていくと、動物の耳と思われる感触と、耳を触られたという感覚が同時に伝わってきました

いや、伝わってきてしまいました


女の子を起こさないようそっと手桶の水面を鏡代わりにして、自身の姿を写し覗きみてみると

そこには、狐耳を完備した推定八歳くらいの少女がうつっていたのです


女の子を起こさないようそっと元の位置に戻り、改めて自身の手を見て、掌を閉じたり開いたりしたり、体のあちこちを触って確認し、ようやく確信しました


「もふもふだと~~~っ!」


思いのほか大きな声で叫び声をあげてしまいました


(さっきの外の景色といい、もふもふといい、まるで、

 異世界転移した挙句に美少女化したみたいじゃないですか

 いったい誰得な状況ですか、これは

 どうしてこうなった

 しかしながら、尻尾から伝わってくる感覚はなんだか

 癖になりそうな気持ちよさです)


自身が異世界転移した上に、容姿がまるっきり別なものに変わってしまっていたことが信じられず、動揺していたところ、さっきの叫び声に驚いたのか、女の子が目を覚ましてしまいました


女の子は、目をこすりつつ体を起こしてきて、私を見るなり「ちゅかまえた」と、舌足らずな呟きとともに、腰のあたりに抱き着いてきて、また眠ってしまいました

その仕草を間近で見ることになった私は


「なにこの子、かわいい」


先ほどの動揺を忘れてしまうほどの何かを、その女の子に感じてしまいました



起きてしまったことは仕方がないと諦念し、女の子の頭を撫でながら愛でつつ現実逃避していると、部屋に熊耳をつけた体の大きな女性が白衣を着て現れました


女性は私たちが寝ているベットの傍にある椅子に腰かけると、少し笑顔を浮かべながら、おもむろに話しかけてきました


「私はここで薬師をしている、熊獣人族のベアルスというの、

 狐獣人族のあなたのお名前を教えてくれるかな」


(そうでした

 異世界転移した上に、モフモフ完備の美少女化をしたのでした

 目の前のベアルスさんて方も熊耳をつけて、自分のことを熊獣人族とか

 言ってますし、これは由々しき問題です

 そうなるともっといろんな情報が欲しいかな

 でも、その前に名前・・・名前かぁ)


元の名前と今の姿では、ものすごい違和感しか感じなかったので、なにか別の女の子らしい名前にしようと考えた時、なぜかあの缶詰のことが不意に思い浮かび


「ツナです」


と、答えていました


「ツナちゃんっていうの

 ここら辺では聞かない名前ね

 でも、シンプルでかわいいわね」


(咄嗟に言ってしまいましたが、仮初の名前でも褒められると、

 なんだか嬉しいですね)


「ところで、どこか痛いところや気持ちの悪いところとかはあるかな?」


(ここは適当に話を合わせたほうがいいでしょう)


そう考え、首を横に振って返事をしました

そして、情報を集めるべく疑問に思っていることを聞いてみることにしました


「あの、ちょっといいですか?」

「なにかな、遠慮しないでなんでも言って」

「ここは何処なんでしょうか

 それと、このかわいい子は一体誰なんですか?

 持って帰ってもいいですか?」


そういいながら私は、今も腰に抱き着いて寝ている女の子に目線をおくります


「持って帰るってどういうことよ

 駄目に決まっているでしょ」


ベアルスさんは、慌てて制止してきましたが、「コホン」とわざとらしく咳払いを一つして、質問の答えを返してくれました


「ここは『精霊の集う神殿』の治療室で、その子はアスフィーネと言って、

 ここで保護している『星詠みの巫女』よ

 この神殿近くの森に、薬草を取りに行こうとしていた時

 通り道にある池のほとりで倒れているツナちゃんを見つけて

 知らせてくれたのよ」

「神殿?巫女?」


普段、聞かないような言葉に、首をかしげていたところ


「知らないかな?

 ごく稀に、体の何処かに魔力が結晶化した魔力結晶っていう石を持って

 生まれてくる子がいて、そういう子は、大抵なにかしらの特別な力を

 持っているの、例えばものすごく遠くのものが見えるとか、

 力がとっても強いとか、動物たちと会話ができるとかね

 私たちは、精霊様から力を与えてもらった子という意味で

 『御子』と呼んでいるわ

 だけど、世の中にはそういうふうに考えない人たちがいてがいてね

 そういう人たちは気味悪がって悪口をいったり、死んじゃうくらいの酷いことするから

 みんなで守りましょうってできたのが、この神殿になるわけ

 星詠みの巫女っていうのは、未来に起こる出来事を予知できる力を持つ

 御子のことをいうのよ

 だけどね、聞いた話だけど、予知できる内容は自分では選べなくって、

 いまのところ役に立ったことがないらしいわ」

「そうなんですか」

「そしてツナちゃん・・・

 あなたもその御子の一人よ、胸の真ん中あたりに

 石があるでしょう、それが、あなたの魔力結晶よ」

「えっ」


そう言われ、改めて胸のあたりを確認してみると、確かに胸の中心、心臓の真上辺りに、白銀色で小判型の石がありました


「あっ、ほんとだ」


今まで聞いたことのない事ばかりで余計に困惑した私を気にする風でもなく、今度はベアルスさんが質問してきました


「こっちも、ちょっといいかな、

 どうしてあそこで倒れていたのか教えてほしいんだけど」

「私もどうしてそこにいたのか分からないというか

 よく思い出せません」

「そうなの、まだ、本調子じゃないからのかも知れないわね、

 まあ、そのうち思い出すかもしれないし

 あっ、そうそう、それでね、あなたが倒れていた傍に、バスケットが

 置いてあってね、中を見てみたら、眼鏡と短剣とアンクレットが入っていたの

 それでね

 ちょっと目を離したすきに、アスフィーネちゃんがアンクレットを

 勝手に付けちゃって

 慌てて外そうとしたんだけれど、どういう訳か取れなくなっちゃったのよ、

 大切なものだったらごめんね」

「いえ、大丈夫です」


そういうと、ベアルスさんはベットサイドテーブルの下に置いてあったバスケットの中から眼鏡を取り出し、手渡してきました

受け取った眼鏡は赤いラウンド型アンダーリムで、今の私には少し大きいサイズでした

とりあえず掛けてみると、ずーとぼやけたままだった視界がはっきりとしました


改めてベアルスさんの方を見ていると、にっこりと笑って短剣を手渡してきました


「これがその短剣なんだけれども

 見覚えある?」


受け取った短剣は、今の私にはちょっと大きなものでしたが、収められている革製のケースから、それを抜き出してみたところ、


(なんでだろう初めて見る短剣のはずなのに、

 ものすごぐ手に馴染むような感じがします

 新品のようですが・・・

 作りもかなり頑丈なようです

 それにしても、刀身が真っ黒ですね

 こうして見ていると、どんなものでも切り裂いてしまいそうな

 冷酷な感じがしてなんだか怖いです

 でも、大切なものを何があっても守り通そうという高潔さも感じられます

 なんだか不思議な短剣ですね)


そんな感想をいだきました

一通り眺めた後、短剣を革製のケースに戻し、「見覚えありません」と感想を言い、ベアルスさんに短剣を返しました


「短剣は危ないから、私が預かっておくわね」

「はい、お願いします」

「さてと、話も済んだことだし、まだ疲れているかもしれないから、

 もう一度寝たほうがいいかもしれないわね」

「そうします」


ベアルスさんに促されるままに、ベットに横になりました


(そういえば、

 異世界なのに普通に言葉が通じていたような、

 姿が変わったせいなのでしょうか

 まぁ、面倒がなくていいかも)


微睡のなか、言葉が通じていたことを特に追及することもなく、私はアスフィーネという少女に抱き着かれたまま再び眠るのでした



翌朝、お尻の辺りがムズムズする感覚で目が覚めました

寝ぼけた頭をスッキリさせるために、上体を起こして伸びをしました

そして、ムズムズする原因を探ろうと、目線をお尻の辺りに向けると、私の尻尾を抱き枕にして寝ているアスフィーネの姿がありました

ムズムズする原因はこれかと一人ごちていたら、寒かったのかアスフィーネが起きてしまいました


「おはよう、アスフィーネちゃん」

「おはようございます?」

「まだ、寝ぼけているのかな?」

「あなたはだあれ?」

「ツナっていうの、よろしくね」

「よろしく?」


そう言うと、アスフィーネは私の尻尾をモフモフし始めました

その感覚は、とても心地よく、自身の姿が変わったことを強く意識してしまいました

しばらく、モフモフされる感覚を堪能していたのですが


「ツナちゃん、アスフィーネちゃん、おはよう

 朝ごはん持ってきたわよ、冷めないうちに食べなさい」


二人分の食事を載せたワゴンを引いて、ベアルスさんがやって来てきました

私は朝ごはんを食べようとしましたが、アスフィーネが私の尻尾をモフモフして放そうとしませんでした


「アスフィーネちゃん、ごはんを食べる時はツナちゃんの尻尾を放してあげて、

 でないと食べにくいでしょ」


ベアルスさんが注意すると


「は~い」


と返事をして、しぶしぶ私の尻尾を開放してくれました



それから、体調が良くなるまでの二日間は、何をするにしてもアスフィーネと一緒でした


例えば、気分転換に室内を散歩しようとしたときには

「一緒にいく」

といって、私の後ろをトテトテと付いて歩いてきましたが、その愛くるしい姿に、思わず思いっきり抱きしめてしまいました


またある時、昼寝をしようとしたときには

「一緒に寝るの」

といって、私の尻尾を抱き枕にして先に寝付いてしまいました

その愛くるしい寝姿に、頬が緩んでしまいました



この世界に迷い込んでから三日目の朝、ベアルスさんの定期健診を受けていたところ


「体調の方はもう問題はないわね

 記憶の方はどうかしら、何か思いだした?

 住んでいたところとか、お母さんやお父さんの名前とかなんでもいいのよ」

「いいえ、何もありません」


私は、本当のことを打ち明けることができずにいました

やはり、異世界云々の話は、突飛すぎて信じてもらえないと思うし、なにかの病気ではと勘違いされて、しばらく生温かい目で見守られるのも勘弁してほしい

ですので、べアルスさんの質問に、申し訳無さそうに否定する回答をしたのでした


そんな私の考えに気づいているのかべアルスさんは、ほんの少しの間、残念そうな表情をしていましたが、すぐに笑顔をみせ


「そうなの

 それじゃあって言うのも変だけど、

 もしよかったら、ここに住まない?

 手伝ってほしいことがあるのよ

 丁度、人手がたりなくて困っていたところなの

 アスフィーネちゃんもこんなに懐いてるし

 どうかな?」


ベアルスさんは私に神殿での定住を薦めてくれました


私はこの三日間、これからの身の振り方についていろいろと考えていました

まず、元の世界へ帰るという選択肢は無しです

仮に元の世界に帰れたとしても、あの禿・・・もとい・・・部長の尻拭いで、繰返すたびに苛酷になっていくデスマーチに、強制参加されられるのは確実、それは是が非でも避けたいですし、読みかけのラノベの続きや、ハードディスクの中身が未処理なことに、未練はないのかと問われれば、はっきり無いときっぱり言い切れないことはないのです

それにあの生活では、いずれ過労死か孤独死になるの確実

なので、この世界で生きていくということになるのですが、自身はまだ子供といっていい外見ですし、この世界のことについて知らないことだらけなので、この神殿でお世話になるしかないと思っていたのですが、病気でもない私が、いつまでも診療所でお世話になるのは非常に心苦しく、どうしたものかと結論が出せないでいました


ですので、ベアルスさんの提案は非常に嬉しいものでした

それに、突然現れた、どこの誰ともはっきりしない私を、怪しむでもなく、邪険に扱うでもなく受け入れてくれたベアルスさんに、お礼ができるのも非常に良いことです

そして、なによりも、たった三日間しかたってないのに、アスフィーネと別れることがこんなに寂しと感じるなんて思わなかったです


ということで


「よろしくお願いします」


べアルスさんの神殿に定住するという提案を快く受け入れるのでした

ありがとうございました

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります

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