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第一七節 特別注文は・・・

よろしくおねがいします

変異種討伐騒動が、いつしか過去にあった騒動の一つとして語られるようになったころ、とある探索者が、私の勤めるギルド食堂を訊ねてきました

その探索者は、数々のダンジョンを攻略し、このアルステイムのダンジョンの最下層到達記録保持者であり、傍若無人な行動や種族、それに圧倒的強さから、畏怖の念を込めて「元魔王」の二つ名が送られていたりします

最近は、新しいダンジョンが見つかったとかで、そちらのダンジョン探索を行っていたらしいのですが・・・

その元魔王が、初めて会った時と変わらない姿で、私の目の前に現れました


私は食堂にひょっこり現れた元魔王の顔を見るなり、手に持っていた食器やらを放り投げ、悲鳴を上げながら、休憩中のアスの後ろに逃げ込み、悪霊退散などとブツブツ呟いて震えだしました


私は、かつてのトラウマ級の恐怖体験を思い出してしまったのです


――――――――――――――――――――――――――――――


あれはギルドの職員として、ギルド食堂で働くようになってから、季節が二巡りほどした頃だったでしょうか・・・


昼間から、酒を飲んだくれていた探索者が、酒が足りないとか、料理が遅いだの言って暴れだし、給仕の手が足りないと、たまたま手伝いをしていたアスに襲い掛かりました


この頃は、成人前の小さな子供で、今ほど自在に障壁を使いこなせていなかったので、暴れる探索者を適当な広さの四角い障壁の中に、私自身と一緒に隔離してしまいました

アスを守るための咄嗟の行動とはいえ、この飲んだくれ探索者と対峙する形になってしまった訳です

そして、この騒ぎが、見世物になった瞬間でもあります


最初は状況が良く分からなかった飲んだくれ探索者も、状況を理解するとニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてきました


「お嬢ちゃんが相手してくれるのか?」

「いえ、そういう訳では無くてですね」

「俺様はこう見えても心が広いほうだ

 一晩おとなしく俺の相手をしてくれるのなら

 この場は納めてやってもいいんだぜ」

「・・・このロリコンが!」

「わけのわからないことを言ってないで、さっさと俺様の相手をしろ!」


説得らしい説得もできないままに、飲んだくれ探索者が私に襲い掛かってきたのでした


飲んだくれ探索者は、両手を大きく広げたかと思うと、一気に距離を詰めて抱き着いてきましたが、私は障壁でかわしたりして、やり過ごしていました

しかし、その様子をエール片手に面白がって障壁の外側から見物していた、探索者や冒険者から、まくしたてるような野次が飛んできました


「どうした!、どうした!」

「小娘一人捕まえられんで、探索者なんかやれんのか?」


その飛んできた野次に、完全に逆上した飲んだくれ探索者が刃物を取りだしたため、あわや、殺生沙汰になるところで、飲んだくれ探索者の両手、両足が凍り付き、動けなくなってしまったとか思うと


「刃物を振り回して、小さな女の子に乱暴するなんて、無粋ねぇ」


と言いながら、煽情的な体系と淫靡な格好の紅い髪で赤い瞳をした女性探索者が食堂の入り口から現れ、障壁の中央へ飛び込んできました


騒動の様子を見ていた見物客からは


「チッ、ここまでか」

「何でこの時期にこんなところに」


とか口々に漏らしていましたが、見物客の皆さんは、一様に元の席へと戻っていきました


凍り付いていた飲んだくれ探索者は、魔術を解除してもらうと青い顔をして逃げ出していきましたが、障壁にぶつかり逃げ出すことに失敗して腰を抜かしてしまいました

女性探索者が、迷惑料込みの飲食代をしっかり支払わせたので騒動は終わったと思い、私はおもむろに障壁を解除したところ、飲んだくれ探索者は、「す~いませんでした~」と悲鳴を上げながら、食堂から逃げ出していってしまいました


私はアスの無事を確認した後、女性探索者の下へ、お礼に伺うと


「お姉さんの名前はブラッチェというの

 世間では元魔王なんて二つ名で呼ばれているわ

 よろしくねぇ

 それでね、お姉さんと一緒にいいことしない

 君のそれにちょっと興味があるんだけど」


怪しい文句で誘いをかけてきました

いくら危ないところを助けてもらったとはいえ、ここは健全なギルドの食堂です

しかも、まだ日も高い時間帯ですし、そういう如何わしい誘いに乗る訳にはいきません


「私はツナといいます

 こっちは私の義妹のアスフィーネです

 この度は、危ないところを助けて頂いてありがとうございます

 ですが・・・「いいですよ」」


お誘いを断ろうとしている私をよそに、いつの間にかやってきたアスがあっさりと了承してしまいました


「やった~」


両手をあげ子供のように喜ぶ元魔王を横目に、私はアスに一体何を考えて了承したのか注意しようとしたのですが、アスは抱き着いてきて上目づかいで「お願い」と言ってきたのです

私の思考は、このお願いでほぼ停止してしまいました

アスが可愛い過ぎです

今にして思えば、これが私を死地に追いやった決め手だったのかもしれません



気が付いたときには、元魔王とアスと私の三人で、ギルド・アルステイム支部の支部長の前でお茶を頂いていました


眉間に皺を寄せ困惑気味の支部長と、ニコニコ笑顔の元魔王がにらみ合ている横で、やや緊張しながらお茶を頂いていたのですが、しばらくして、支部長が元魔王に探るような雰囲気で話しかけました


「この子が君の選んだ候補者かね」

「はいそうです」

「しかしまだ子供ではないか、いくら何でも無理なのではないか」

「いいえ、ある意味、私を超えるかもしれない可能性を秘めています」

「いや、しかし・・・それはそれで問題があるような」

「大丈夫です、探索者としてのノウハウもしっかりと教育します」

「だが・・・」


私たちには特に説明のないまま話が進んでいき、何かを渋るような支部長にしびれを切らした、元魔王が


「そこまで言うなら、問題ないことを証明して見せましょう」

「おい、待て、ちょっと、お~い」


そう言うや否や元魔王は、私とアスを小脇に抱えると、さっそうと支部長室を飛び出していってしまいました

引き留めようと手を伸ばす支部長を置き去りにして・・・


後にも先にも支部長のあれほど焦った顔を見たのは、あの時だけだったように思います



盛大に疑問符を浮かべていた私は、いつのまにかダンジョン第一階層の階層扉前で元魔王と対面していました

そんな私たちをあまり気にしていないような元魔王が、突然に真剣な顔そして目線を私に合わせてくると


「これからも、アスフィーネちゃんを守ってあげたい?」

「もちろんです」


突然の元魔王の問いかけに、私はすぐさまはっきりと答えたました


「そう・・・でも、今のままではダメね、そう遠くない未来で失うことになるわ

 いまの自分の力を十分に使いこなせるようにならないとだめよ

 いまから、お姉さんが一から鍛え上げて、誰にも負けないくらい強くしてげるわ

 ちなみに、今、ここのダンジョンはどこまでいけるの?」

「今日、初めてダンジョンにきました」


そんなやり取りの後、しばらく考え込んだ元魔王は、


「下層くらいまで余裕で行けると思うんだけどなぁ

 まぁ、いけるところまで行ってみるか」


と呟き


「君は障壁を張ることに集中してしっかり付いてくるように」


といい、いきなり何の準備もなく第一階層の攻略を始めました


その日から、いつ終わるとも知れないダンジョン探索の日々でした

水や食糧に武器など、探索に必要なものは、現地調達したり、元魔王が持っていたものを使用したりして対応しつつ、アスと二人で探索者として必要なノウハウを叩き込まれていきました

やがて中層まで探索が進んだ頃になると、私たちは熟練の探索者の域にまで成長していました


この頃になると、元魔王は、アスを支部長にあずけて、私と二人きりで探索をするようになりました

そこから先の記憶は曖昧でして、開放型の階層を走り回っていたような、魔物からひたすら逃げ回っていたような、元魔王について行くため必死に走り回っていたような

とにかく日夜、あちこちを走り回っていたよう気がします


ギルドで、「元魔王が子供とダンジョンで鬼ごっこをして遊んでいる」という噂が流れたり、元魔王が、アルステイムのダンジョン到達階層記録を更新したのが、この頃だったりします

因みに、その記録は今だに更新されていません



ようやくダンジョン探索から戻り、再び支部長の前に、元魔王と私とアスの三人で対面したのですが、元魔王は得意満面の笑顔で支部長を睨んでいるのに対し、私は服はボロボロで目は血走り、つややかな毛並だった尻尾は、色褪せところどころに円形の禿ができている状態で、再会したアスに抱き着いたまま、誰彼構わず睨み付けていたそうです


「これで問題ないことは証明できたでしょ」

「それはよく分かった

 だが、別の問題が発生しているように見えるが?」

「まだ、不足ですか?」

「いや、わかった認めよう

 この子を特別注文対応の一員に加える」

「当たり前です」


ダンジョン探索から戻ってきた頃の記憶はほとんどなく、後でアスから聞いたことでなのですが、そんなやり取りがあったそうです

元魔王の二つ名の由来は、伊達でも誇張でもなかったのです

本当に、いったい何があったんだ

私の身に・・・



後日、支部長から経緯が経緯だったので特別注文対応の件について、新ためて意志確認をされたのですが、不思議とやめる気にはなりませんでした

おそらく初めてダンジョンに入ったときに交わした元魔王の言葉のせいなのかもしれません


因みに、元魔王がなぜ私を誘ったのかといいますと

元魔王も、特別注文対応に参加していたのですが、中層以上の深い階層で対応できる人員不足を懸念していた支部長に、候補者の推薦を頼まれていたそうで、たまたま見つけた私に目を付けたという訳らしいです


――――――――――――――――――――――――――――――


とりあえず落ち着きを取り戻した私でしたが、いまだにアスの後ろに隠れていたりします


「変異種討伐騒動の話を聞いて顔をみにきたのよ

 二人とも元気そうでなによりだわ」


久しぶりに会った元魔王と、近況や噂などの話をしていたのですが


「あぁ、よかったら、いま攻略しているダンジョンの手伝いをして・・・」


元魔王が話を切り出したとき、さきほどよりも強烈な悪寒が走り、気が薄れてきて、アスにしなだれかかってしまいました


「お姉ちゃんもこんな調子なので、その件はもう少し時間をおいてからで

 お願いできないでしょうか」


(そこははっきりと断ってくれないかな・・・)


意識が薄れゆく中、アスの先延ばしにするだけの返事を聞き、憂鬱になるのでした

ありがとうございました

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