第一六節 ポーション精製は・・・
よろしくおねがいします
今日は、このアルステイムの街に転移してきたとき、お世話になったベアラスさんの治療院へ、向かっているところです
先日起こった、変異種討伐騒動の際に無茶をしてしまい、帰還そのものはできたものの、自室に着いたとたん倒れ、七日間ほど昏睡状態になっていたようで、目が覚めた時にアスに大泣きされてしまいました
今回の騒動では、魔力切れで済んだのですが、この先、怪我をしない保証はないし、またアスを泣かせるようなことになってしまうのは避けたいので、できることはやっておこうと思いいたったわけです
そこで、応急処置方法や傷薬や解毒薬・ポーションの精製方法など、治療院を開いているベアラスさんにいろいろと教えてももらおうと思ったわけです
ついでに、特別注文で消費したポーションの補給もする予定です
特別注文で使用するポーションや武具といったものは、通常、ギルドから支給されるのですが、今は在庫が不足していて必要な数量を支給してもらえなかったので、やむなく自力で調達をすることにしたからです
もちろん、かかった費用は、必要経費としてギルドに請求するつもりです
◇
目的の治療院に到着
治療院にしては、こじんまりとした佇まいで、あの大きな体のベアラスさんには狭いのではないかと思ってしまいます
院内に入ると、診察室があり、その奥には薬房と寝室に、二階の居室へとつながる廊下が伸びていましたが、ベアラスさんの姿は見当たりませんでした
診察時間にはまだちょっと早いので、まだ奥の居室の方にいるのかもしれません
「ベアラスさ~ん、ポーションの作り方教わりに来ました~」
診察室から奥の居室に向けて、声を掛けると
「いらっしゃい、今行くからそこでまってて」
快活な声色の返事が返ってきたので、言われた通り待っていると、いつかの熊耳をつけた体の大きな女性が、以前よりもよれよれになった白衣を着て現れました
「いらっしゃい、今、ポーションの作り方を教わりに来たって聞こえたけど」
「はい、実は・・・」
と、変異種討伐騒動から、ここに来た理由を説明しました
「そうだったわね、あの時は大変だったわね・・・
アスフィーネちゃんが 『お姉ちゃんが倒れたまま起きないの』って
言いながら、慌てて飛び込んできたもんだから
私も慌てて、ツナちゃんの部屋に向かったら、入り口のところで
倒れていたものね・・・」
「その節はお騒がせして申し訳ありませんでした」
「倒れた原因が、魔力切れだったからよかったものの・・・」
「そういう訳で教えてもらえませんか」
「でもね、アスフィーネちゃんの動揺ぶりを思うと・・・
一番いいのは、ツナちゃんが無茶をしないことだっていうのは、
分かってるんでしょ」
「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・」
諭すような言葉に私は、心底申し訳なさそうに答えました
その答えに、ベアルスさんは安心したような表情を浮かべると
「まあ、覚えておいても無駄じゃないから、教えてあげるけどね」
そんなやり取りの後、私のポーション作りの勉強が始まるのでした
◇
まず、場所を診療室から薬房へと移します
薬房へ入ると、至る所に薬草が陰干しされていて、独特な匂いがしていきましたが、それが、ここの治療院らしいと、私は考えてたりします
魔力回復用のポーションはかなり高度な技術が必要とのことだったので、まず初めに軽度治療用ポーションの作り方から、教わることになりました
手順は至ってシンプル
一.十分に乾燥させた薬草を粉に引く
二.粉に引いた薬草粉末を魔力飽和水に適量入れる
(目安は水一に薬草粉末:〇.五)
三.適当にかき混ぜたら一煮立ちさせ、自然に冷めるのを待つ
四.不純物を濾しながら、適当な瓶に詰める
後は腕次第
初めてつくり方を教わって、最後の「腕次第」と聞いたときには、「随分適当だなぁ」とか思いましたが、薬草に含まれている薬効成分や、魔力飽和水の魔力量など、計れないものが多くて経験によるところが多く、「この経験によるところを言ってるんだな」と、ひとりごちていました
以上の手順を踏まえ、私はポーションの精製を始めました
◇
まず、魔力飽和水を準備します
魔力飽和水とは、魔力が限界まで溶け込んだ水のことです
大きめの中空立方体状障壁を展開し、その中に水の魔術で水を障壁内の3割くらいまでいれ、残りの部分を魔力で充満させます
そして、炭酸水を作る要領で、障壁を目いっぱい圧縮加圧します。目安は障壁内が水でいっぱいになるくらいです
ここで圧縮具合を間違えると、後の工程で大変なことになるので注意が必要です
次に、中空立方体状障壁をもう一つ展開し、そこに乾燥した薬草を投入、その際、余分な水分や異物が入らないように、障壁の透過条件設定を調整しておきます
風の魔術を使って、障壁内の薬草を粉砕して粉にします
きめが細かい方が、出来上がったときの効果が高まるらしいので丹念に粉砕します
そして、出来上がった粉を、魔力飽和水の詰まった障壁に投入し、火の魔術で一煮立ちして自然に冷めるのを待ちます
最後に、底にたまった不純物を、障壁の透過条件設定を調整して排出したら、障壁を、小瓶サイズに、分散・変形させ木蓋で栓をすれば完成です
これが、試行錯誤を重ねた私なりの作り方になります
道具を使用しないのは、現地調達ができるようにと考えたからですが
何か問題でも
ベアルスさんに出来栄えを確認してもらうと、
「初めてにしては随分いいものができているわね、
それにしても、魔力障壁を随分器用に使うのね」
と褒められ、気を良くした私は、次々にポーションを作っていき、気が付けば、夕暮れ時になっていたので、必要分のポーションを買取って、慌てて帰宅するのでした
◇
数か月後、私は支部長に呼び出されました
執務室に入ると、眉間に皺が刻み込まれた支部長が、執務机に座って仕事をしていましたが、こちらに気付くと、見覚えのあるポーションの瓶を引き出しから取り出し、私の前に置きました
「これは最近、質のいいポーションを安価で売り出すようになった
治療院から購入したものだ・・・
なんでも下級ポーションのはずなのに、中級ポーション並みの
効果を発揮するとか・・・
ギルドの方でもこれを常備しようと考え、担当職員が交渉しに
いったんだが、 その治療院の医師が精製したものではないらしく、
すぐには対応できないかもしれないと答えが返ってきたそうだ
ダメ元で、誰が作ったのか尋ねてみたら、うちの職員が作ったもの
だということだ
担当職員が、どういうことかと激怒していたぞ」
この世界では珍しくギルドは副業を禁止いています、なんでも公平性を担保するためだとか何とか・・・
私は、背中に嫌な汗が流れました
支部長は間違いなく、そのポーションをだれが作ったか知っていて、あえて遠まわし言っているんだと考えた私は、腰を直角に折り曲げ、白状しました
「申し訳ありません・・・私が作りました」
支部長は深いため息をして、経緯を話すよう促してきたので、私は、包み隠さずに説明しました
話を聞いた支部長は、
「担当職員にはこちらから言っておく
因みに、他に何か作れるポーションはあるかね」
支部長が尋ねてきたので、作れるようになったポーションを私は列挙していきました
支部長はそれをメモしつつ、幾つかのポーションに印と数量を書き込み私に渡してきました
「印をつけたポーションをそこに書いてある数量分、
一〇日以内にギルドに収めることを今回の罰とする」
と言い渡してきました
そこに書かれた数量に、いくらなんでも無理だと抗議しようとしたのですが
「材料は、こちらで用意しておくから遅れることがないように」
と厳命してきました、そして、
「治療院には、今まで通りに通てもかまわないが、
新しくできるポーションが増えた時は報告するように」
いつにないやさしい声色で付け加えてきたのですが、これから作るポーションの数量のことで頭がいっぱいになっていた私には、支部長の最後の言葉はあまり聞こえていませんでした
その日の夜、アスは大量のポーションに囲まれ突っ伏する私の星詠みの夢を見たとか・・・
ありがとうございました
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります




