第一二節 魔術具設計技師は・・・
よろしくおねがいします
ある昼下がりの特別注文からの帰り道で、街を行き交う人たちに、声をかけている少女を見かけました
その少女は、矮人族のようで、オレンジ系のツナギを着ていて、ショートカットの赤い髪に、くりっとした赤い瞳が印象的な、若干あどけなさの残る顔立ちをしていました
何となく気になったので、しばらく様子を見ていたのですが、少女は魔術師らしき人に声をかけては、断られ・無視され・ひどいときには突き飛ばされたりもしていましたが、どんなに酷い態度を取られても諦めずに、幾人もの魔術師らしき人に声をかけ続けていました
そんな少女のもとに、どこからともなく下卑た表情を浮かべた怪しげな魔術師風の人が現れ、少女と話し始めました
距離が少し離れていたので、話の内容はわからなかったのですが、話がまとまったのか、少女は深く腰を折り何度もお礼をすると、魔術師風の人と路地裏の方に移動し始めました
私は、魔術師風の人の下卑た表情が気になり、何か起きるのではと不安になり、こっそりと後を追うことにしました
少しばかり路地裏を進み、人気のないと所にやってきたところで、魔術師風の人は纏っていたローブの下から、素早く刃物を取りだすと、少女に襲いかかりました
少女は、身を守ろうと手で頭を庇うようにして、その場にしゃがみ込みました
私は少女の身が危ないと判断し、すぐさま障壁で少女を保護し、大声で衛兵さんを呼ぶふりをしました
魔術師風の人は、私の声に気づき、襲うことを止めて、焦ったように辺りを見回すと、慌てて逃げ去りだしました
私は魔術師風の人がいなくなったのを確認すると、少女の側に駆け寄り、障壁を解除し声をかけました
「もう大丈夫ですよ・・・さっきの人はどこかに逃げていきましたから・・・」
「・・・へっ・・・たっ、助かったぁ・・・」
少女は、私に助けられたと分かると、安堵した様子をみせましたが、襲われたことが余程怖かったのか、若干震えていました
「いつまでもここにいても仕方がないでしょう・・・
私の職場で良ければ、案内しますよ・・・
ここよりは落ち着けると思うし・・・
あと、襲われた事情とか聞きたいし・・・」
「・・・あっ・・・はい・・・」
私は、少女を落ち着かせ、ゆっくりと事情を聞くため、少女をギルド食堂の休憩室へを案内するのでした
◇
少女は名前をコリンといい、魔術具設計技師の新人だそうです
近々、魔術具競技会というものが行われるらく、そこで腕を認められると、自分の店を持てる可能性が見えてくるらしいです
コリンも、そこに出場するべく魔術具開発を頑張っているとのこと・・・
で、魔術具開発は、設計技師と魔術師のペアで行うのが基本らしいのですが、コリンには、ペアになってくれる魔術師がまだいないそうです
最初は、知り合いの魔術師と組んで行う予定だったのですが、最近になってに急に断られてしまい、慌てて他の魔術師に頼んでみたのですが、なぜかことごとく断られてしまったそうです
親方の伝手のある魔術師にも頼んでみたのですが、もう相手は決まっているなどの理由で、すべて断られてしまったそうです
ギルドの方に協力者募集の依頼も出してみたのですが、受けてくれる人はだれも来なかったそうです
仕方なく直接頼み込もうと、冒険者や探索者の魔術師に声をかけまくっていたら、あの魔術師風の人が現れ、ペアになってくれることになり、詳細の説明をするため、魔術師風の人の自宅に向かったのですが・・・
結果、あのように襲われることになったと言う訳です
説明が進むにつれ、コリンの顔が徐々に暗いものになっていってしまいました
「私で良ければ手伝うよ・・・
こう見えても、一応、一通りの魔術は使えるから」
コリンのあまりにも暗い表情を見てしまったせいか、思わずそう話しかけていました
それを聞いたコリンは、それはもう飛び切りの笑顔で涙を流しながら喜んでくれました
(なにがそこまでコリンを駆り立てているのでしょうか・・・)
◇
食堂のシフトが休みの日、コリンの工房に向かいました
工房は、しっかりした木造のわりと大きな建物でしたが、まったくといっていいほど活気のようなものが感じられませんでした
気を取り直して工房に入ると、すぐにコリンの親方らしき初老の男性が出迎えてくれました
「いらっしゃい・・・お前さんがコリンに協力してくれる魔術師かい?」
「はい、ツナと申します・・・よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、コリンをよろしく頼む・・・
あの子は、この工房を昔みたいに繁盛させようと無茶をするからのう・・・」
「そうなんですか・・・」
そこへ、奥からコリンが現れました
「お祖父ちゃん・・・じゃなかった、親方・・・・どうしたの?」
「おぉ・・・コリンか・・・お前さんに客じゃよ・・・」
「えっ・・・あっ、ツナさん、いらっしゃい・・・
ここで長話もあれだから奥へどうぞ・・・」
快く迎え入れてくれたコリンは、私を工房の奥へと案内してくれました
作業場の片隅に設けられた、打合せ用のスペースに案内されると、コリンは競技会についての説明を始めました
競技会というのは、アルステイムの街の魔術具ユニオンが、技術力の向上と後進育成のために隔年で行っている伝統的行事で、新人向の課題は現行の魔術具の改良とのこと
大抵の魔術具設計技師は、冒険者や探索者向けの武器や道具の改良しているそうで、熾烈な競争が起こっているそうです
しかし、コリンが目をつけたのは、一般市民向けの魔術具である魔術具コンロです
なんでも、この街の生活水準をより一層向上させるような製品を売り出し、それを足掛りにして、かつて何十人も職人を抱えていた頃のような活気を、この工房に取り戻したいと熱く語っていました
◇
早速、今の魔道具コンロの問題点を話し合ったところ、大型で燃費が悪い癖に、火力が弱く、火力調整もできないという問題点がはっきりしました
(うちにある魔術具コンロも、だいだいたいそんな感じだなぁ)
私たちは、それらの問題点について、改良を進めることにしました
◇
数週間後の食堂のシフトが休みの日、再びコリンの工房に行ってみると、すっかり意気消沈しているコリンの姿がありました
理由を聞いてみると、火力を調整する機構について色々と試行錯誤し、かなり良いものができあがり、今日、私に見せるため準備していたらしいのですが、昨夜未明に工房に泥棒が入り、試作品を盗まれてしまったそうです
どんなものだったのか聞いてみると、火力の違う火の魔術が発生するプレートを差し替えて火力を調整するというもので、後は耐熱性に優れた特殊な金属プレートに、私が準備した鍵の模様を加工すれば完成するところだったらしいです
災難だったねと慰めつつ、まだまだ改良点があるよと励まし、やる気を取り戻してもらいつつ、改良検討を進めることにしました
(ふむ・・・鍵の模様そのものを改良しないと、
良いものにはならないのかもしれない・・・)
そう思い至った私は、火の大きさが違う火の魔術を三つほど展開してみました
「えっ、青い炎・・・」
「着目するところはそこじゃないですよ・・・鍵の模様のよく見て・・・」
私はコリンに鍵の模様の違いに注目するよう促しました
「あっ、ここだけが模様が違う」
コリンは、火力設定を司る鍵の模様を指し示しました
「そこの部分を、簡単に切り替えられる機構を作れば
もっと簡単に火力調整ができるようになるかもしれないわ・・・」
「そうね・・・やってみる・・・最優秀新人賞を目指して頑張るぞ!」
そこには、気合を入れ直し、意気揚々を検討を始めるコリンの姿がありました
もう大丈夫かなと思い、自宅に帰ることにしました
その前に泥棒対策のため、私は工房全体に雷の魔術を付与した障壁を展開し、悪意のあるものが入れないよう透過設定を施していくのでした
因みに魔術を付与した障壁の透過設定ですが、付与魔術を障壁に付与する方法について、あれこれと継続的に検証していた際に発見した性質の一つです
◇
数週間後、ギルド食堂で給仕の仕事を行っていると、満面の笑みを浮かべたコリンがやってきました
「ツナさん・・・、ツナさん・・・、やっと・・・やっと完成しました」
その言葉を聞き、私はギルド食堂の店長のクロラルに一言断りを入れ、すぐさま工房に向かいました
工房の近くまで来ると、一人の男性が工房の玄関前で伸びているのが見えました
私は慌てて介抱に向かおうとした時、男がムクリと起き上がり、手を額に当てながら、辺りを見回しました
そして、私と目があったかと思うと、逃げるように慌てて立ち去りました
何だったんだろうと訝しみながらも、工房に入り、コリンに案内されつつ、工房の奥の打ち合せコーナーに向かうと、そこには、できあがったばかりの改良型魔術具コンロがありました
早速、コリンからの説明を受けつつ試作品の色々を確認し、これなら問題なさそうだと私は確信しました
「あとは、売り込みの仕方だよね・・・」
「売り込みの仕方ですか?」
「うん、せっかくいいものを作っても、
売り込みが下手だとその良さが伝わらないからね」
そうやって、私たちは売り込みの方法をいろいろと相談するのでした
「後は競技会の結果を待つだけだね」
「はい、楽しみです」
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