第一〇節 魔術具工房見学は・・・
よろしくおねがいします
ギルド倉庫でのドロップアイテム仕分け作業も終わりが見えてきたころ、当初予定していた期間より早く作業が終わりそうなので、滞っていたその他の業務も手伝ってほしいとの要請があり、手伝うことになりました
その滞っていた業務の一つに、街外れにある魔術具工房へ魔力結晶を届けるというものがあり、今、配達係のギルド職員が御者を務める荷馬車に揺られながら、アスと一緒に向かっているところです
魔術具と言いうのは、魔力結晶などの魔力を動力源に動作する道具の総称で、コンロや照明器具に冷蔵庫などいろいろなものがあります
件の工房は、繊細な意匠と他とは一線を画する明るさの室内灯の魔術具を販売する店として割と有名で、ギルド食堂の照明も、ここのものだったりします
ただ、ここの職人は、極度の恥ずかしがり屋なのか、奥にこもりっきりで、売り場の方には全く出てこないらしく、お客さんとの応対などは、もっぱら、若いお弟子さんがおこなっているそうです
若い妖精族の女性が、創作系の魔術を駆使して作り上げているとか、儚い感じのする魔術師の少女が、こころを込めて、丁寧に手作りしているとか、食堂の給仕たちの間では、そんなうわさ話が流れています
かく言う私も、気になっている一人であったりします
もっとも、その人物像というよりは、魔術具の作り方の方にですが・・・
◇
「ごめんください、ギルドのものですが、何方かいらっしゃいませんか」
「おぉう、今行く」
店に入り、ギルドからきた旨を伝えると、やや擦れた低い声で返事が帰ってくきました
店の奥から現れたのは、頭が禿げ上がり頬髯を蓄え目の下にかなりの隈が出来上がっている小柄な中年小父さんでした
私は、若い弟子とやらはどこに行ったのかと辺りを見回してしまいましたが、アスに肘をつかれて、姿勢を正しました
その行動の意味を察したのでしょうか
「弟子なら今は飯食いに行っとる・・・
儂はここの職人のスチクロだ、要件をサッサと言え」
無愛想な態度で話してきました
繊細な魔術具を作っているのが、噂とはまったっく違う人物に落胆しつつも
「失礼しました、私はギルドから来たもので、
ご注文いただいた魔力結晶をお届けに参りました」
そういいながら、魔力結晶の詰まった木箱と伝票を、スチクロさんに手渡しました
スチクロさんは、木箱からおもむろに、魔力結晶を取りだすと
「ようやく届いたか・・・どれどれ・・・」
と、魔力結晶の品質を、検査し始めました
しばらくして
「この質なら問題ないな・・・」
と、言いながら、伝票に受け取りのサインをしてくれました
そして、伝票を受け取った私は
「もしよかったら、こちらの工房がどのような方法で照明の魔術具を
作っているのか見せてもらえないでしょうか
このお店の魔術具は、どれも明るくてきれいで、
一度、その作り方を見てみたいと思っていたんです」
「ふむ・・・、ちょうど休憩中じゃったし、
まあ・・・いいじゃろう・・こっちじゃ」
「やったね・・・」
「ありがとうございます・・・よかったね、お姉ちゃん」
あっさりと許可がもらえ、よろこぶ私を案内するべく、工房の奥へと移動し始めるスチクロさんでした
◇
工房の作業場には、昼食後の休憩中らしい職人の人たち(お弟子さんかな・・・)がちらほらと居て、昼休憩をしていました
ただ一様に、目の下に隈ができていたのが印象的でした
人気のある工房なだけあって、みなさん忙しいのでしょう
そんな職人さんを横目にスチクロさんの説明を聞きながら作業場の更に奥へと向かいました
取り付け金具部分とか、セード部分とか、光源部分とか、作業自体は割と分業が進んでいて、いま、私たちに説明しているスチクロさんは、照明の魔術具の要である、光源になる部品の加工を担当していて、なんと、この工房の親方だそうです
そのスチクロさんは光源になる部品の加工方法について得意げに語りだしました
「まあ、作業自体は単純なんじゃが・・・
金属板にな、魔術師が用意した鍵の模様を、罫描きして、
一文字、一文字、彫り込んでいくんじゃ・・・
なるだけ、深さや幅が均一になるよう彫り込んでいくのが
質のいいものになり職人の腕の見せ所じゃな・・・
そして彫り込んだ溝に細かく砕いた魔力結晶を擦り込み、
薬液で定着させれば光源部分が完成するわけじゃ」
「すごい緻密な作業をされているんですね」
「一人前に早く・正確に彫金ができるようになるには、
十数年くらいかかるじゃろうな・・・
ただ、最近は、納期を優先すれば質が下がるし、
質を優先すれば納期が遅れるという
どっちつかずの状況が悩みの種じゃわい・・・
品質にかかわる部分なだけに、生半可な職人に任せる訳にもいかないし
客の応対も若い連中にまかせっきりなうえに、
朝から夜遅くまでやっても終わりゃしねぇ・・・」
とぼやきつつも、照明の魔術具を一台組み上げていきました
「それは大変ですね・・・因みにこういうやり方はどうですか?」
私は近くにあった魔力結晶を擦り込む前の加工済み鉄板を手に取り、障壁で型を取ると、何も加工していない鉄板を挟み込み、めいっぱいの圧力でプレスしました
「プレス加工という加工方法なんですが・・・、
使う材料とか加工条件とか、検討しないといけない課題は多いと思いますが
安価で大量に作ることができると思いますので、
お悩みは解決できるとか思うのですが・・・」
そう言いながら、加工した鉄板をスチクロさんに手渡しました
スチクロさんはまじまじと加工された鉄板を眺めると
「儂の職人人生が・・・」
親方は呟き、加工された鉄板を手に持ったまま放心してしまいました
また、やっちゃったかなと思った私は
「貴重なお時間をありがとうございました
大変勉強になりました
時間もよろしいようなので、それでは失礼いたします」
謝辞を述べて、慌てて立ち去っていきました
店を出る直前に、一部始終を見ていたほかの職人たちが
「親方!?」
一斉に叫ぶ声が聞こえたような気がしましたが、どういう意味を含んだ叫び声だったのかは、何も聞こえていないと、ギルドへ急ぐ私たちには知る由もありませんでした
ありがとうございました
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