8.頼み事①
すっかり投稿していない事を忘れていたので、今投稿させて頂きます。
フーヤとルーン=ルナティックが出会ってから約二ヶ月後。
「はい、今月の分」
紙袋が机にどさりと置かれる。
ここはヴェルトヒェン王立魔術学校の空き教室。
二人の会う場所として先月の時から使っている場所である。
最も、校長室の時と前回と今回で二人が会うのはまだ計三回だけであるが。
「待ってた」
フーヤはそう言いつつも座っていた椅子から立ち上がって、本を確認し始める。
「それにしても、持ってない本を手に入れる時の充実感って何事にも変え難いものだよね。まあ、手に入れた本はフーヤくんにあげてる訳だけどさ」
ニコニコしながらルーン=ルナティックはつぶやく。
いつの間にかフーヤの呼び方も変わり、砕けた口調のまま気楽な感じで話している。
フーヤの方も丁寧な口調ではなくなっているようだ。
彼女の目の前には毎度ながら、お茶の用意がしてある。
今回は緑茶のようで、フーヤの分までしっかりと用意していた。
「・・・ところで、これは?」
「っ!間違えた!」
慌ててルーン=ルナティックはフーヤの摘まみ上げた薄い冊子を異空間収納に回収する。
「・・・・・・なるほど」
「頼むから忘れてくれ・・・あ、それとも同好の志だったりする?」
真剣な目で言うルーン=ルナティックを見て、フーヤはため息をつく。
「いや、違うから」
ルーン=ルナティックが間違えて持ってきたらしい本は数十秒ほどしかフーヤの目に入らなかったが、残念ながらタイトルの『僕らの監禁日記』という文字ははっきりと読み取れた。
「人の趣味趣向にとやかく言うつもりはないけど、気をつけなよ」
そもそも監禁自体犯罪行為であるし、娯楽として楽しむなら人目に触れないところでやって欲しいものである。
「初めての合同誌で浮かれてました。以後、このような事がないように努めます」
フーヤの喉元まで出かかっていた、これを書く参加者の一人だったのかという質問をぐっとこらえつつ、フーヤはぼそりとつぶやく。
「よし、これからはヲタ女神と呼ぼう」
「なんでやねん」
鋭いツッコミが飛んできた。
最も、関西人でないことは既に確認済みである。
「ところでさ、頼み事があるんだけど」
「嫌だ」
「いや、早いから。せめて、内容くらい聞いてよ」
フーヤは緑茶を飲む。
そういえば、この世界で緑茶を飲むのは初めてだなと思いつつも警戒した目でルーン=ルナティックを見る。
「・・・面倒事の予感しかしない」
「実は私がこんなに頻繁にここに来てるのには理由があってね。・・・『破壊の翼』って組織知ってる?」
何故かドヤ顔で言うルーン=ルナティック。
「知らないし、今後一切関わりたくないような名前だな」
「魔王崇拝組織でね、テロリストみたいなものだよ。今は魔王復活前にどうにかして勇者を殺しておきたいらしい」
「ちょっと待て、魔王とか勇者って物語の中の話じゃないのか?」
フーヤもその辺りは面倒事回避のため一応調べてある。
物語として語り継がれているようだが、歴史書などに魔王や勇者の記述は見つけられなかったので実際には居ないと判断していた。
「多少の前後があっても1万年周期の出現だからね。所謂、定期的にやってくる地震とか津波みたいなものだよ。一応、今の世代の王たちには国防の意味を籠めてルルイエッティに聖女経由で神託させたけど。1万年も経ってると、当時の資料がどこまで残ってるのか・・・」
ルルイエッティというのはこの世界の女神の名である。
要するに、フーヤをこの世界に送りこむ時にへましたあの新人女神のことである。
はっきり言って、あのいい加減とも言える扱いのせいでフーヤの心象は良くない。
「ちなみに、この世界における魔王と勇者ってどんな存在?」
「魔物が魔素だまりとか呼ばれる魔素の濃いところで生まれるのは知ってるよね?魔王は魔素の流れが一番濃いところで生まれるものでね。普通の魔物は獣で知性と呼べるものを持たないけど、魔王は人型で知性があるのが特徴。魔王によって方法が異なるけど、人の世界に災いを成す」
「災いって、具体的には?」
ルーン=ルナティックは、緑茶を飲むと口を開く。
「これまでだと、力押しのやつは人々の虐殺をしたり、特殊能力持ちやつだと精神支配で王を支配して人々を困窮させたり、無作為に選んだ人を亜空間に閉じ込めて殺し合いをさせたりとか」
「えげつないな・・・・・・ちなみに勇者はどういう存在?」
「魔王に殺されないっていう特殊能力がある。まあ、魔王以外には殺されちゃうから魔王崇拝組織が殺そうとしたりするんだけど」
勇者の能力は『神の加護』の下位互換のようなものだが、魔王を倒す者にとってこれ以上ない能力だろう。
「それで、今の話の流れからするとこの学校にその勇者が居るのか?」
「正解。それで、私が来れない暫くの間護衛してて欲しいのだけど。まだ、勇者としては力がほとんど無い状態だし」
「出来れば遠慮したいんだけど」
ルーン=ルナティックは緑茶を飲むとニヤリとしながら湯飲みを置く。
「フーヤくんは断らないはずだよ。何せ今の代の勇者はレクスル=ヴェルトヒェンだからね」




