81.探索①
「ということで、約束した明日になったわけだけど、用意できてる?」
「全然」
フーヤは本の頁をめくりながら言う。
カザヤは今にもフーヤに掴みかからんとするようにグイッと顔を近づけ、レクスルはその様子を扉近くで壁に寄りかかりながら見てため息を吐く。
なお、フーヤは外出用の装いを着込んでおり、出かける気満々と言っても差し支えない格好である。
残念ながら、頭に血がのぼっているのかカザヤがそのことに気づく様子はない。
「あのさ、探険しようっていう約束は?」
「昨日もしてたみたいだし」
「昨日は村の中だけだから」
「フーヤ、約束は守るべきだと思うぞ」
レクスルの言葉に一瞬顔を上げ、またすぐに本に視線を落とすフーヤ。
「面倒になった」
「もしかして、フーヤって旅行とか行く直前に面倒になるタイプ?」
「さあ?」
フーヤは本をパタリと閉じると立ち上がる。
「あれ?行く気になったの?」
「・・・・・・行かないってことにした方が面倒そうだから。カザヤが」
「名指しで文句言うことないじゃん、ちょっと酷くない?」
カザヤがフーヤを睨むと、フーヤはカザヤを気にすることなくさっさと部屋から出る。
フーヤが部屋を完全に出たことを確認するとレクスルはカザヤに足音をたてないようにして近づき、小声で耳打ちする。
「あれ、単純に照れ隠しだと思うぞ。フーヤは面倒臭がりではあるが、誰かと約束して出かけるということ自体は嬉しいことらしい」
「何それ、めんどくさっ・・・・・・まあ、素直じゃないってことか」
カザヤは、やれやれというようにため息をつきつつも満面の笑みでフーヤを追いかけて部屋を出ていく。
「焚き付けておいてあれだが、些か単純すぎないか?」
レクスルは思わずそうつぶやくと、ぐるりと部屋を見渡し、部屋を出ると扉をゆっくりと閉めた。
◇ ◇ ◇
「それでカザヤ、どの方向から行く?」
フーヤがカザヤの真ん前で腕組みをして返事を待つ。
三人は崖があった方角の森の手前、つまり村の外れの方に来ていた。
そして、その段階で先導していたフーヤが行く方向をカザヤに丸投げしたのである。
カザヤは文字通り頭を抱えて考え込む。
二人の少し後ろでついてきて居たレクスルは、フーヤの顔に僅かに笑みが浮かんでいるのを見て、小さくため息をつくとカザヤの隣へと移動する。
「ええとちょっと待ってくれ。こっちは、魚を捕るために移動した時に行った方向だよな?」
「そうだな。船を作る時もその方向だった」
カザヤが指差した方向を見て、返事を返すレクスル。
魚を捕る時に道なき道を歩かされたのを思い出したのか、カザヤが少し顔をしかめる。
「それで、どうする?」
フーヤが努めて無表情で圧をかけながらカザヤに問いかける。
「なら、反対方向に行こう」
カザヤはそう言うと歩き出す。
フーヤとレクスルは無言で顔を見合わせるとカザヤに続いて歩き出した。
◇ ◇ ◇
「歩きやすいね。これまではあんなに歩きにくかったのに」
カザヤが鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌で歩いていく。
フーヤとレクスルはカザヤの後ろを歩きつつも、周囲の様子を確認する。
「この様子だと、人の出入りが多そうだな」
レクスルが地面を見つめながら言う。
「嗚呼、先程から道の脇に薬草や香草が生えているのを見かけるし、少し横道に逸れたところに木の実がとれるところがありそうだ。時期ではないから実はなっていないようだけど」
レクスルの言葉にフーヤが周囲を一瞥しながら言葉を添える。
「え、そうなの?」
カザヤが止まり二人を振り返る。
「定期的に人が踏み入るから、地面も踏み固められている。獣道というよりは、人の踏み入った道とみて間違いないと思う。今、人が居ないのは中途半端な時間帯だからだと思う」
「そうなの?」
カザヤがレクスルに視線を向ける。
レクスルが無言で頷いてみせる。
「なら、フーヤの言ってることは本当のことなのか」
カザヤが納得したというように頷く。
フーヤは、そんなカザヤを睨みつつ言葉を続ける。
「そういうことだから、本当に探険をしたいならこの歩きやすい道を逸れないと」
「え」
「おあつらえ向きにここに、獣道がある。まあ、この道食べ物になるものが多めだから獣道と交わっているのも当たり前だろうけど」
フーヤが真横を指し示す。
「ちょっと、フーヤさん?その、指し示している獣道なる場所。草がぼうぼうに生えているのですが。というか、道なんて何処にあるのさ?草しかないよ?」
フーヤが指し示した場所は草が生い茂っており、獣道があるとは到底思えなかった。
「よく見ると、草が折れ曲っている。何かが通っていることは間違いない。まあ、魔法で草が身体につかないように避けながら進めばいい。行くよ」




