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80.海⑥


 カザヤとレクスルに心配されているとも露知らず、フーヤは『異空間収納』から睡眠薬を取り出し、飲むと寝床に横たわっていた。

 これまでの野宿では、何かあったら起きなければならないという不安があり、必ず一定時間起きられなくなる睡眠薬を飲む気にはなれなかったのだ。

 最も、睡眠薬が手に入れられるようになったのはルーン=ルナティックに出会った後なのでつい最近である。

 それまではただひたすらに読み終えた本を読み返して、限界になった時に寝落ちするという方法をとっていた。

 寝る、というよりは気絶である。

 寝不足であってもそのことを誰にも気づかせないという方向にフーヤの努力が向かっていたため、誰にも勘付かれたことは無かった。

 正確には、寝不足を指摘されることはあったが、指摘されたら指摘してきた人に対してきちんと睡眠を取ったと錯覚させることにより、寝不足が慢性的なものであると気づいた者は居なかった。

 ただし、流石に共に旅をするとなると隠し通すことなど出来なかったが。

 フーヤはうつらうつらと思考を巡らせつつも、眠りに落ちていった。


 ◇ ◇ ◇


「ちゃんと、寝てるな」


「もしかして、人が居なければ寝れるのか?」


 カザヤとレクスルが部屋をのぞきつつ、小声で言葉を交わす。

 フーヤの様子が気になったカザヤがしぶるレクスルを言いくるめて一緒に来たのである。


「ひょっとして、睡眠薬でも飲んでるのかな?」


 カザヤが部屋に忍び足で入っていく。

 レクスルが止めようと手を伸ばすが、部屋に入らないように足を動かそうと一切しなかったのでカザヤはするりとレクスルの手を逃れる。


「あれ、ここまで近づいても起きないんだ」


 あっさりと枕元に立ったカザヤが顔をフーヤに近づける。


「カザヤ」


「大丈夫、大丈夫、起きてないし」


 レクスルの咎める声をものともせず、カザヤはフーヤの顔をしばらく眺めるとレクスルの方へ戻る。


「行こう」


 カザヤは小さくそう言いながら、音を立てないように階段を降りていった。


 ◇ ◇ ◇


「カザヤ、何で起こしかねない真似をしたんだ?」


 食事処の建物から出ると、レクスルはカザヤに鋭い視線を向ける。

 カザヤは誤魔化すかのように曖昧に笑い、レクスルから視線を逸らす。


「・・・・・・起こした方が良かったかも」


「どういう意味だ?」


 カザヤにしては、元気なく小さく呟かれた言葉にレクスルは首をかしげる。

 カザヤは立ち止まると、視線を空に向ける。


「たぶん、なんだけど、うなされてた。見たことないくらい険しい顔をしてたというか、もうすんごい表情してた」


 カザヤのその言葉に目を丸くするレクスル。


「・・・・・・もしかしてだが、フーヤが眠りたくない理由、うなされるからなのだろうか」


「そうかも」


「そうだとすれば、何故・・・・・・いや、俺たちに相談してもどうしようもないことか」


 レクスルが頭をかきつつ、足元に視線を落とす。


「それでどうする?うなされてはいたけど寝てはいたし、このまま寝かしておく?起こす?」


 カザヤがレクスルの顔を覗き込む。


「・・・・・・寝かせておこう。むしろ、起こした方が不機嫌そうな気がする」


「・・・・・・よし、せっかくだし二人で何かする?」


「何かって言ってもな・・・・・・」


「というか、場所移動しようよ。いくら泊まってるとはいっても、いつまでも店の前に陣取ってたら迷惑だろうし」


 レクスルが表情を緩める。


「・・・・・・店の前で立ち止まって話し始めたのはカザヤだろ」


 そう言いながら歩き始めるレクスル。


「いや、早めに話した方がいいかなと」


 歩き出したレクスルを見て、慌てて追いかけるカザヤ。

 カザヤはレクスルの隣に追いつくと、レクスルの顔を見つめる。


「それもそうか、なら一緒に瞑想でもするか?」


「え、あ、うん、いや、何で!?」


「魔法の訓練になる」


「え、そうなの?なら、やる」


「・・・・・・嘘をついているわけではないが、些か単純すぎて心配になるな」


 ◇ ◇ ◇


「何してるの?」


 フーヤは目の前に居る二人に問いかける。


「っ、何って、魔法の、特訓?」


 木の枝にぶら下がり、息も絶え絶えといった様子のカザヤが答える。


「もしかして、ユウレイルさんの特訓っていつもこんな感じだったり?」


 涼しい顔で別の枝にぶら下がっているレクスルにフーヤは視線を送る。


「これでも、カザヤのために難易度は下げてるぞ。それに、長時間となると魔力の流れを維持していないと難しいし、ちゃんとした訓練になってる」


「・・・・・・そういうことではないんだけど。まあ、いい。本読んで待ってる」


「嗚呼」


「あの、もしもし?これいつまでやるの?」


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