76.海②
「それで話はこれくらいにして、出発しないのか?」
レクスルの言葉に、フーヤが目をぱちくりさせる。
「もしかして、気づいてなかったか」
「え、何にって、ちょっと待って、フーヤさん、なんで陸地があんなに遠くに!?」
カザヤが遠くにある陸地を見つけて叫ぶ。
「フーヤ、暗くて周りの状況が分かりにくい状態だからこそ、出発する時は何かしら一言声をかけてくれ」
「・・・・・・これからはそうする」
フーヤが小さい声で答える。
「それにしても、出発に気づかないとか、この船の性能どうなってるんだよ」
カザヤが船のすれすれまで近づき、海面を覗き込む。
「本気出した」
無表情であるにも関わらず、ドヤ顔しているようにも見えるフーヤ。
「普通は本気出してもこんな簡単にできないと思うというか、そもそも何でこんなこと出来るの?俺、どんなに修行したとしても何をどうしたらこうなるか分からないんですけど」
カザヤが早口でまくしたてる。
「まあ、この世界に空間魔法はないから。苦労した」
「なら、ますますどうやったんだよ」
「企業秘密」
カザヤがゆっくりと、レクスルに目を向ける。
「言っておくが、俺も分からない。この世界の魔法を体系的に学んだとしても、何かしら柔軟かつ奇抜な発想でないと出来ないと思う」
「・・・そうなんだ。なんというか、規格外ということだけは分かったし、同じ転生者だけどたぶんフーヤみたいにはなれないということだけは存分に分かった」
「・・・・・・ちなみに、そろそろあらかじめ目をつけていた場所に着くからそのつもりで」
フーヤがちらりと海面に視線を向ける。
「えっ、もう!?というか、暗いし、快適すぎるからどのくらいの速さで進んでるのか分からないんだよな・・・あ、そういえば風もない?」
「それ気づいてなかったんだ」
フーヤはそう言いつつも、海面を覗き込む。
「フーヤ、ところで魚を捕る方法はどうするんだ?」
「あ、確かに、特に気にしてなかったけど、どうするつもり?」
フーヤは僅かに口角をあげつつ、『異空間収納』から釣り竿を出す。
「これで釣り上げる。手伝ってくれ」
「急に原始的だな」
カザヤはそう言いつつも素直に釣り竿を手に取る。
「フーヤ、使い方が分からない」
レクスルは受け取りつつも、首をかしげる。
「教える」
フーヤはそう言って船の縁へと移動する。
カザヤは釣り竿をしげしげと眺めると、フーヤの隣に行き、レクスルもカザヤとは反対側のフーヤの隣へとおずおずと移動した。
「ところで、二つほど質問なんだけどさ。魔法で簡単にパパッと捕るみたいなことは出来ないの?それと、釣り上げるための餌は?どうするの?」
カザヤの質問にフーヤは海面を見つめながら答える。
「魚の鮮度というか、傷つけないようにと考えると釣り上げるのが一番確実という結論に至ったから釣り上げるのを手伝って欲しい。餌は無くても釣れるように魔法で細工済み」
「あ、そうなんだ。じゃあ、遠慮なく」
カザヤがつたない手つきで釣り竿の糸を海に垂らし、座り込む。
フーヤはカザヤの後ろに細長い箱を置く。
「釣り上げた魚はこの箱によろしく。箱に入れると『異空間収納』にしまわれる仕組み」
「りょーかい、というか、さらっと言ってるけど『異空間収納』が開きっぱなしになってるってこと?開き続けるの疲れるからほいほいと出来ることじゃなかったような・・・・・・って、待って、もう引きがきてるっ!?」
カザヤが立ち上がると、釣り竿を引く。
その動作は明らかに下手と言えるものであったが、あっさり魚は釣り上がり、カザヤがおっかなびっくり糸を掴んで箱に入れると釣り竿はそのままに、魚だけが『異空間収納』に吸い込まれていった。
「・・・・・・フーヤ、これ釣りじゃないだろ、おかしいだろ、こんな簡単に釣れてたまるか。しかも、釣り竿自体が竿と釣り糸だけのシンプルすぎるつくりだし、おかしいだろ。釣りっていうのは、魚がかかるまでの時間を今か今かと待ち構えるのが醍醐味なのであって──」
カザヤがフーヤを見つめながらまくしたてると、フーヤは視線をそらしてレクスルに向ける。
「いや、今回の目的は釣りじゃなくて魚だから。レクスル、カザヤを見てれば分かっただろうけど、糸を垂らして引き上げるだけでいい」
「分かった」
レクスルは苦笑いを浮かべつつもうなずく。
「……無視?」
「無視してるわけじゃないけど、今回の目的は釣りじゃないから。刺身とか寿司食いたいならつべこべ言わずに手伝え」
カザヤはその言葉にやれやれと小さくつぶやきながら釣りの体勢へと戻る。
「仕方ないな。りょーかい」
早速、次の魚の当たりが来ているカザヤを横目にフーヤとレクスルもカザヤの近くで釣りの体勢になる。
「じゃあ、誰が一番釣るか競争で」
「待て、それだと先に始めたカザヤが有利」
「よし、一番は俺だ」
フーヤの一言で急遽、魚釣り競争が始まった。




