75.海①
「とりあえず、行くぞ」
フーヤは魔法を発動させる。
「フーヤ、今何をしたんだ?」
レクスルが尋ねる。
「気配と物音、姿を隠す魔法。一階の部屋でおばあちゃん寝てるみたいだし、気取られるわけにはいかないだろ」
「それもそうか」
「ええと、レクスル、何で魔法を使ったとか分かったの?」
カザヤがレクスルとフーヤの二人に視線を彷徨わせながら言う。
「・・・何故かは分からないが魔力の流れが見える」
「いや、何それ」
カザヤがフーヤに視線を向ける。
「言っておくけど、僕もよく分からないからな。少なくとも、魔力の流れを感じとるなんてことが出来る人間はレクスル以外聞いたことがない」
「え、何それ」
カザヤがフーヤとレクスルを交互に見る。
「まあ、実際のところは分からないけど、勇者の素質とかでは?と予想立ててる」
「それが一番可能性が高そうだと前に話していた」
「まあ、俺の理解力がまた足りてないとかそういう話じゃないし、理解出来ないままでいいなら、いいか」
カザヤがそう言って胸を撫で下ろす。
「フーヤ、そろそろカザヤを馬鹿にするような言動は控えたらどうだ?」
レクスルがカザヤの反応を見てしみじみと言う。
「・・・・・・善処します」
「改善する気が完全にない返事というか、棒読みにもほどがあるというか。というかさ、フーヤの言動って、ぶっちゃけいじめで問題になるレベルなような気がしないでもないというか」
「・・・そう、なのか?」
カザヤの言葉にフーヤの視線が揺れる。
「なんで疑問形なのかは分からないけど、俺は気にしてないから問題にはならないけど、態度を改める気さえあれば言うことなしなんだけど」
「分かった」
カザヤの言葉に、口を引き結んだ神妙な顔で答えるフーヤ。
レクスルはそんな二人の様子を見てうなずくと、歩き出す。
「行こう。このままだと、早く起きた意味もなくなるからな」
◇ ◇ ◇
フーヤたちが泊まっている食事処から海までは、そこまで距離が離れているわけではない。
しかし、フーヤは食事処の前の海に船を出さず、海岸沿いに歩いていく。
あっという間に村から出て、船を作っていた森の方へ入っていた。
フーヤは走ってこそいないものの、それなりの速度で進んでおり、レクスルは涼しい顔でついていけているもののカザヤは息を切らせてついていっていた。
村を出てからは、地面も状態が悪く石があったり、くぼみがあったり、段差があったり、岩を避けて通らなければならなかったりと体力の少ないカザヤにとっては苦戦するのも無理はない。
「……ちょっと、どこまで行く気なのさ」
黙々と着いていっていたカザヤが思わず声をあげる。
「ここにするか」
フーヤは鬱蒼と生い茂る木々を背に立ち止まると『異空間収納』から船を出す。
波があまりない場所であったらしく、船は何もせずとも陸からほんの僅か離れたその場に留まり続けている。
フーヤはためらうこともなく、船に飛び乗るとレクスルに手を差し出す。
「乗って」
レクスルはその手をとると、船に飛び乗る。
「もう少し揺れが酷いかと思っていたが、そうでもないな。安定してる」
レクスルが船の周りをきょろきょろと見る。
「それと、フーヤまさかとは思うが空間拡張してないか?」
「まあ、その方が楽だから」
「・・・・・・そうか」
「あの、お二人共。そこに留まられると乗れないんだけど」
カザヤが二人の会話を断ち切るように声をかける。
「嗚呼、どうぞ」
フーヤがため息をつきながら、カザヤに手を差し伸べる。
「この対応の違いはなんだ」
そう言いつつもカザヤはフーヤの手をとり、船に乗り込む。
「なにこれ、明らかに見た目と乗った後の広さが合わないというか、椅子まであるの何?乗る前はなかったはずだけど。それに、陸かな?って思うくらい揺れないし、本当に海の上だよな?」
「カザヤ、分かったからうるさい」
フーヤがわざとらしく耳をふさぐ。
「気持ちは分かる」
レクスルがカザヤに同意を示すと、フーヤは眉間にしわを寄せる。
「せっかく、過ごしやすいようにとか考えたのに、文句ばかり言われるのか」
「文句じゃないから!」
ボソリとつぶやかれたフーヤの言葉に口をはくはくさせながら慌てて声をあげるカザヤ。
「文句じゃないなら何?」
フーヤのどんよりとした視線に一瞬怯みつつも、カザヤは弁解を試みる。
「なんというか、フーヤってズレてるところあるから思わずそんな感じのことを言っちゃうだけであって、俺たちのことを考えてくれてるのは分かってるから!!!」
レクスルが優しくカザヤの肩に手を置く。
「・・・・・・カザヤ、恐らくだがフーヤは自分自身の快適のためにやっただけだと思うぞ」
「え」
「そうだよ」
「いや、そこは否定しろよ」




