74.始めの村⑦
「ねえ、作るのって船だよね?」
「そうだ」
フーヤの答えを聞いて、しゃがんでいたカザヤはフーヤの顔と目の前にあるものを交互に見比べる。
「これ、いかだじゃない?」
フーヤが大量に木を切り落としたせいで出来た空き地にフーヤが木を寄せ集めて出来たもの。
それは、板を四角く並べて縛り、申し訳程度にそれを板で囲うという代物であった。
いかだを少し改造したという感じである。
ちなみに、レクスルとカザヤが集めた木の板をフーヤがあっという間に魔法で組み立てたものであるため、強度もあるようには見えず、頼りない印象を受ける。
しかし、腕を組んで仁王立ちしているフーヤはしっかりとした口調で告げる。
「船」
「いや、でも四角いし」
「船、囲いつけてある」
「いや、板一枚でいかだの周りをぐるって囲っただけで船とは言わないんじゃないかな」
「船」
「・・・・・・これは、カザヤの主張が正しいんじゃないか?フーヤ」
カザヤとフーヤの二人の応酬を見ていたレクスルがおそるおそる言うと、カザヤがガッツポーズする。
「よし!勝った!!!」
「そういう勝負じゃない。あと、船だと言ってる」
フーヤは表情を変えることなく、口調を強める。
「ええ、フーヤそこは素直に認めなよ」
カザヤが顔を引きつらせる。
レクスルも苦笑いしつつ、終わらぬ争いから身を引くことにしたのか近くの木にもたれかかるように座る。
完全に傍観の姿勢に入ったレクスルを気にすることなく、フーヤとカザヤは言葉を連ね続ける。
「船」
「頑固だな」
「船」
「これはいかだじゃないかと」
「船」
「・・・・・・そういうことにしといてやるから。全く」
カザヤが降参と言わんばかりに両手をあげる。
フーヤは満足げにうなずくと、しゃがんで船に手を置く。
「とりあえず、明日の早朝に叩き起こすのでよろしく」
「分かった」
フーヤの一方的な言葉にレクスルは短くそう答える。
「ええと、今じゃ駄目なの?」
カザヤは何故早朝なのか理解できないらしく首をかしげる。
「潮の流れとか諸々の条件を鑑みると早朝の方がいい」
「なるほど?」
「納得してないな」
フーヤはカザヤを見つめながら、ため息をつく。
「そういえば、昔読んだ本に漁は早朝に行うみたいな記述があったな。理由までは書いてなかったんだが、しおの流れというものが関係しているのか?」
レクスルが座る体勢をかえつつも尋ねる。
「・・・・・・そういえば、この世界では経験則だけで理由までは知られてなかったか」
フーヤは目元に手を当てる。
「というわけなので、説明を頼んだ」
カザヤが手を合わせて頼み込むような姿勢をとる。
なお、口元は笑っており、どちらかと言えばからかっているなと察したらしいフーヤはひきつった笑みを浮かべる。
「カザヤはむしろなんで知らないのか聞きたい」
「それは単純にそういう知識に触れる機会がなかったからだよ」
「・・・・・・海というものには潮と呼ばれる海水の流れがある。時間帯によって流れがかわったりするものなんだが、魚は潮の流れに乗って移動したりする。だから、時間帯で魚が捕れやすいことや全く捕れないこともある。だから、魚が捕れやすい時間帯に行くのが最善。まあ、潮の流れに乗らずに浅瀬に留まる魚とか季節によって生息域が変わる魚とか色々居るから全てに当てはまるわけじゃないけど」
「そうなのか」
レクスルが納得したことを表すように首を縦に降る。
「うーんと、とりあえず朝早起きすればいいってこと?」
「分かってないな」
「うん」
「だいぶ噛み砕いて説明したけど」
「脳が理解することを拒否した」
清々しいまでのにこやかな笑みを浮かべるカザヤにフーヤはため息をつく。
「とりあえず、戻るか」
フーヤは船を『異空間収納』にしまうと、レクスルとカザヤに視線を向ける。
「うん、戻ろう。というか、夕飯も食べられるのかな。あの魚のフライ美味しかったし、もう一回食べたいな」
カザヤがはしゃいだような声を出すと、レクスルもゆっくりうなずき言う。
「そうだな。今日は見張りをする必要もないし、のんびりできそうだ」
「言っておくけど、明日早いからな」
カザヤとレクスルの呑気な声に釘を刺すフーヤ。
「分かってるよ。でも、夕飯に思いを馳せるくらいいいじゃないか」
カザヤがフーヤを軽く睨むと、フーヤも鋭い視線を返す。
「明日の朝、文句言うんじゃないぞ」
「言わないから、安心してくれ」
◇ ◇ ◇
「あのさ」
「何?昨日、文句は言わないって言ってたから文句は受け付けないけど」
フーヤは身支度を整えながら言う。
「・・・これだけは言わせてくれ、今、朝じゃないじゃん、真っ暗じゃん。というか、日付変わってすぐは早朝とは言い表さないと思う」
「こればかりは、カザヤに同意する」
レクスルが深々とうなずいた。




