73.始めの村⑥
「よし、作るか」
「ええと、何を?」
フーヤの言葉に怪訝そうに首をかしげるカザヤ。
三人は先程の店屋から移動し、村の近くの森のそこそこ奥のところまで入り込んでいた。
「もしかして、さっき食事に使われていた魚のことを聞いたことに関係があるのか?」
レクスルが考えこむように顎に手を添えながら言うと、フーヤは軽く頷く。
「船を作る」
「ええっ!?船!!!」
カザヤが目を見開く。
レクスルはどこかこの展開を予想出来ていたのか口を小さく開いた乾いた笑みを見せる。
「沖に魚が多いと言っていた」
フーヤがさり気ない世間話を装っておばあちゃんから聞いた話をまとめると、フーヤたちが食べた美味しい魚はこの海の沖の法で朝方に採れたものとのことである。
「確かにそう言ってたけどさ、魚を捕るために船作るの?本当に?」
カザヤがフーヤの隣で騒ぎ立てる。
レクスルは少し離れたところに、木にもたれかかるようにして座り込み、二人を見守るように眺めている。
「悪目立ちするのを避けるためには仕方ない」
船を借りるということは、そのために誰かに接触する必要が出てくる。
この小さな村では、瞬く間に話が広がるだろう。
フーヤにとって、それは致命的なことである。
第一、これからやろうとしていることを考えれば誰かに知られるということは避けなければならない。
カザヤはしばらく言いたいことを探すように口をはぐはぐしていたが、言いたいことがまとまったのか改めて口を開く。
「いや、船作った方が目立つんじゃ?」
「問題ない。認識阻害の魔法かけとくから周囲からは見えない」
「え、そんな魔法あるの?」
「前に作った」
周りに見えていないという前提で動かなければならないが、目立ちたくないフーヤとしては非常に使い勝手のよい魔法である。
作らない理由が無かった。
ちなみに『異空間収納』にしまってある丸太小屋にも認識阻害の魔法はかけてあるため、本当は見張りは必要ないのだが、フーヤとしては万が一もあるためわざわざ二人に伝えるつもりはない。
レクスルはともかく、カザヤは絶対に見張りをサボり始めるという謎の確信があるからでもある。
「作ったって、あー、うん、そう、なるほど」
「まあ、フーヤだからな」
自分を納得させるかのように言葉をつぶやいたカザヤに対して、レクスルはわざわざ立ち上がりカザヤの肩に手を置いてうなずく。
「それで納得してしまえるということが、毒されてるなという感想にしかならない」
「・・・・・・どちらかというと、カザヤはこちら側になるのでは?」
フーヤは周囲の木をひとつひとつ観察する。
「不思議なことにだな、実力差があるというか発想力の差があるというか、同じ転生者という立場のはずのフーヤと俺とでは差があるんだよ、明らかに」
「まあ、この世界の魔法の仕組み自体が知識と練習の両方を必要とする形になっているから」
フーヤは一本の木に近寄り、コンコンと木を叩く。
「これでいいか」
フーヤは木から少し離れる。
カザヤは怪訝そうにフーヤを見つめ、レクスルはフーヤから距離を取るようにカザヤを引っ張る。
レクスルには魔力の流れが見えるため、思いの他膨大な魔力をフーヤがまとっているのを見ることとなり、口元を引きつらせる。
フーヤが木に手をかざす。
ボコッという存外大きな音と共に、木が真っ直ぐな木の板へと変わる。
瞬時に削られたらしい木屑がパラパラと下に落ちる中、フーヤは直立していた板を支えながらゆっくりと地面に横たえる。
「なんか、ゲームで見たことあるような、ないような・・・」
カザヤは木の板に近づきつつ言う。
「綺麗なものだな」
レクスルも感心したようにしみじみ言いつつ、板を見つめる。
「・・・これ、量産するから集めるの頼んだ」
フーヤはそれだけ言い残すと、目算をつけていたらしい次の木へと歩き出す。
「まさか、わざわざ連れてきたの肉体労働担当させるため?」
棒立ちのカザヤから小声で紡がれた言葉にレクスルがゆっくりとうなずく。
「まあ、だろうな」
「まあ、なんというか、うん、そんな気がしないでもなかったというか、そういう奴なんだなって分かってきたというか、分かりたくなかったというか、何であんな奴と友人やってるんだよ、レクスルは」
カザヤは文句がありますと言わんばかりにフーヤを目で追いかける。
フーヤはレクスルたちを気にかけることなく次々と木の板を量産している。
「カザヤ、言いたいことは分かるが、あれでもフーヤはいいやつだからな。ところで、こんな感じのやり取り何回やればいいんだ?」
「さあ?なんか、俺も似たようなことよく言ってる気がするけどもとりあえず、何回も言いたくなるような態度のフーヤが悪いということで」
「それもそうだな。さて、集めるとするか」
レクスルは既にあちこちに散乱している木の板を見て、ため息をついた。




