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72.始めの村⑤


 おばあちゃんによって運ばれてきた盆の上には、こちらの世界では珍しい三人分の白米と共に大量の魚の揚げ物が乗っていた。


「結構、量があるな」


 そうつぶやくレクスルをよそに、フーヤとカザヤの目が魚の揚げ物に釘付けになる。

 誰のものか分からぬゴクリと唾を飲む音が聞こえる。

 レクスルだけは未知の食べ物に対しての警戒心が首をもたげたようだが、二人の鬼気迫るまでの関心を寄せる視線を見て肩の力を抜く。


「ここ、置いておくからねぇ」


 おばあちゃんはお盆を置くと、奥へとまたひょこひょこと戻っていく。


「いただきます!」


 カザヤは驚くべき速度で白米をかきこみ、魚の揚げ物をかじる。

 フーヤもカザヤほどの勢いはないものの、久しぶりの白米の味を噛みしめるように食べる。

 箸ではなく、この世界で一般的なスプーンとフォークに似た形状の食器であるが、それを理由に速度が落ちることはない。

 レクスルは二人の今までにない必死ともいえる様子をちらりと見ると、魚の揚げ物をかじった。


「意外とさっぱりしてるんだな」


「あ、もし残すんだったらくれ」


 カザヤは早口で言い、魚の揚げ物を口に放る。


「残さないよ、美味しいし」


 レクスルも負けじと魚を頬張る。


「これ、どんな種類の魚なんだろうな」


 フーヤはそう言いつつも、白米と魚の揚げ物を交互に食べる。


「それは後で聞けばいいだろ」


「それもそうか」


 フーヤとカザヤは短く言葉を交わす。

 その言葉にいつものような棘は一切ない。

 フーヤたちが食事を共に囲んだのは初めてのことではない。

 出会ったばかりの時のドラゴンの肉入りスープを除いても、フーヤの『異空間収納』から出してきた新鮮な食材を使ったサンドイッチやステーキなどなどを食べてきた。

 しかし、それらは全て肉料理であり、魚料理はなかった。

 そして、フーヤもカザヤも久しぶりに食べる魚と白米に感激していた。

 特に、白米はこの世界では限られた地域でしか育てられておらず、フーヤがヴェルトヒェン王国で過ごした期間、口にすることは叶わなかった。

 カザヤがこちらの世界に来たのはフーヤよりは後であるが状況は同じである。

 それ故に、これまでのやり取りのあれこれを知っていると信じられないほどなごやかに黙々と食事が進んでいく。

 結果として、山盛りであった魚の揚げ物はあっという間になくなり、白米もたちどころになくなった。


「ごちそうさまでした!」


 カザヤは元気よくそう言うと、椅子にもたれかかる。


「もう食えない。腹一杯」


「食い過ぎ」


 そうぼやいたフーヤ自身も空の皿を眺めたままぼおっとしており、どことなく苦しそうにも見える。


「腹一杯になるまで食べたのは久しぶりだな」


 レクスルも思いの外美味しかった食事に満足げな笑みをもらす。


「おやおや、もう食べ終わったのかね」


 おばあちゃんが奥からひょこひょこと歩いてくる。


「はい、美味しかったです」


 あっという間に猫を被るフーヤにレクスルとカザヤは思わず目を逸らす。

 勿論、笑いをこらえるためである。


「そうかい、それにしても旅のもんがわざわざここに来るのは珍しいねぇ」


「そうなんですね。来ないというと、このお店にですか?」


「いいや、そもそもこの村に来ること自体が珍しいねぇ。やっぱり、旅のもんはメーアの町に向かうもんでね」


 メーアというのは、この村から近い港町のことである。

 この村よりも規模が大きく、タラッタ王国内でも有数の港町である。


「そうなんですね。僕らは、旅慣れしていないものでこの村に数日ほど滞在しようと思っていたのですが」


「そうかいそうかい、ならここの二階に泊まるといいさ。借家なんだが、空いてるからねぇ。生憎、村の宿屋は潰れちまったから」


「そうなんですね。わざわざ御丁寧にありがとうございます。それで、料金の方はこれでよろしいでしょうか」


 フーヤはいつの間に取り出したのか、袋から銀貨を一枚取り出すとおばあちゃんの手に握り込ませる。

 おばあちゃんは手にした銀貨を見て、目玉が飛び出るのではないかと心配になるほど目を見開く。


「・・・・・・こ、こんな大金受け取れないよ」


「いえ、貰って下さい。数日間の朝昼夜のご飯に宿泊代を含めれば相応だと思いますよ。それに、とってもご飯美味しかったですし」


「・・・そうかい。なら、貰っとくよ。部屋に案内するからちょいと待っとくれ」


「はい、分かりました」


 フーヤは笑顔でおばあちゃんの背中を見送る。

 おばあちゃんが見えなくなった途端、ストンとフーヤは真顔になる。


「さっきまでの笑顔は何だったんだってくらい表情がなくなったな」


「やり取りを丸投げしておいて文句?」


 カザヤにフーヤが鋭い視線を向けると、カザヤはガタリと立ち上がる。


「いや、そういうつもりじゃないし、やり取りに口を挟むなと言ったのはフーヤじゃん!」


 なごやかな食事の時間が終わってさほど時間が経たないうちにいつもの調子に戻ったふたりを見て、レクスルは苦笑いを浮かべた。


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