69.始めの村②
「つまりこの世界に来てからおじいちゃんに拾われて世話して貰っていたけど、そのおじいちゃんの元を一年も経たないうちに飛び出してきたからこの世界についてよく知らないと、そういうことか?」
「そうなんだよ」
レクスルの発言に同意を示しつつも、カザヤはフーヤの『異空間収納』から提供された二本目の水筒をちびちびと飲む。
フーヤとレクスルも同様に水を飲みつつもフーヤが口を開く。
「突然現れた少年の世話を無償でするご老人なんて居るのか」
「いや、何その言い方」
「別に特に意味があるわけではないけど、でも、魔法の使い方は分かってたよね?」
フーヤの問いかけに二本目の水筒を飲み干した後にカザヤが答える。
「それが、じいちゃん、魔法の使い方しか教えてくれなくて」
「そんなことある?」
フーヤの怪訝そうな声に、カザヤが言い返すように語気を強める。
「あるんだよ。さては、信じてないな?」
「教えられてても、すぐに忘れそう」
「いや、そんなこと・・・・・・なくもない気がしないでもないけども」
カザヤは途端に勢いをなくし、黙り込む。
「魔法しか教えてもらってないにしては、理論的な部分一切知らなかったけど」
「それは、発動方法と発動内容がメインだったから」
フーヤの言葉に反論しつつも、カザヤは三本目の水筒に手を伸ばす。
「飲み過ぎ」
フーヤがカザヤを小突く。
「別にいいじゃん」
「いっぱいあるけど、有限だからな。あと、その辺の水も煮沸しないと腹壊すから」
「しゃふつ、って何?」
「駄目だ、こいつ」
フーヤが頭をかかえる。
レクスルが苦笑いしつつも、口を挟む。
「フーヤ、説明するのはいいことなんじゃないか?知らなくて困ることもあるだろうし」
「・・・・・・そうか?」
「嗚呼」
レクスルがフーヤに微笑む。
フーヤはゆっくりと息を吐き出す。
「この大陸には、九つの国がある。それぞれ、特徴があるが、例えば今居るヴェルトヒェン王国は国土が一番広く、自然豊かなことが特徴。王都を中心に複数の領地からなっている。領地は貴族が統治、運営をしているけど、好き勝手にしていると王都から年に一度入る監査で罪に問われる。監査は年によって時期が異なるし、抜き打ちも多いし、人も毎回違う人物が選定されるから、不正はほとんど行えない仕組みになっている。また、領地経営に関わらない貴族のほとんどが王城勤務で政務に携わるか、軍に入り国防の要として働いている。民は農業に携わる者と工業に携わる者と商業に携わる者がおり、職業が異なることによる貧富の差が広がらないように各地で政策がなされている。貴族と民で扱いに差が出ていることは違いないが、貴族は優遇されている分、民のために力を尽くすことが義務付けられているため、特権的になるのは仕方ないことであり、必要なことであると認識されている。この国の問題点としては、国土が広大すぎるために未管理の土地が点在しているということ。まあ、今僕らが居るのもその未管理の土地ということになる」
「ええと、うん」
真顔で怒濤の説明をされたカザヤは戸惑ったようにフーヤを見つめる。
「次の説明だけど」
「待って、この調子で説明続ける気?九つの国全部?」
「そうだけど」
「なんだろう、教科書の朗読みたいで理解しにくいし、一回聞いただけで覚えられる情報じゃない」
「教科書は割と分かりやすいとは思う。まあ、論点はそこではないか。なら、これ」
フーヤはなんとなくこうなるということを察していたのが、すかさず『異空間収納』から分厚い本を三冊取り出す。
「今話したこと、この本の要約だから」
カザヤに押し付けるように渡すと、フーヤは水筒を傾ける。
「いや、分厚くない?これとか、拳が背表紙と大体同じサイズだし」
カザヤの口元が引きつる。
「この程度なら、案外直ぐに読める。絵も多いし」
「本をよく読む人間の直ぐは本を読まないにとっては無茶苦茶時間がかかるって意味になると思う」
「フーヤ、この量は俺でも時間がかかる。もう少し、分かりやすくて短いものはないのか?それも、各国を知ることのできるような」
「・・・・・・そうなのか、なら、これ」
レクスルの言葉に従って、フーヤはカザヤに渡した三冊をしまい直すと、新たに本を出す。
「分厚いけど、一冊になった」
カザヤが本を受け取り、パラパラとめくる。
「これ一冊で、各国のことを網羅してある。情報量が少ない分、要点だけまとめてある。分からない部分があったらこちらから補足するから、教えてくれ」
「ありがとう。時間がある時にでも少しずつ読むよ。ところで、その何か言いたげな視線はなんだ」
カザヤはフーヤを見て噛みつくように言う。
「いや、素直にお礼言えるんだなと」
「喧嘩売ってるのか?」




