68.始めの村①
「それで、これからどうするんだ?女神さんはいっちゃったけど」
カザヤが首をかしげる。
「元々の目的地に向かう」
フーヤがそう言いつつも、『解放』とつぶやき『万能感知』の地図を出す。
「元々の目的地?」
「今居るのはヴェルトヒェン王国の王都の近く。それで、目指しているのが隣国のタラッタ王国」
カザヤが地図を覗き込む。
レクスルも地図を遠目から眺めつつ、フーヤの顔をちらりと見る。
「あ、海がある。そういえば、この世界に来てから肉ばっかりで魚食べてないかも。肉も嫌いじゃないんだけどね。寿司とか食べたい」
カザヤがすーしーと間の抜けた声を出す。
「いや、寄生虫や鮮度の問題もあるし、日本に居た時のようには・・・・・・専用の魔法作るか」
フーヤは思考を巡らした結果、寿司を作るために魔法を作ることを決意する。
この世界の魔法は想像力が重要である。
理論などもないわけではないが、それらの理論は既に習得済みであるフーヤからしてみれば大した問題ではない。
これまでもやってきたように、詠唱のない魔法を作るだけである。
詠唱を考えなくてもいい分、楽であると言えるかもしれない。
「フーヤ、それって食べ物のためにわざわざ魔法を開発しようという話か?まあ、フーヤは新しい魔法をやろうと思えばいくらでも作れるだろうが本来は新しい魔法は年単位で研究者が組み立てていくものだが・・・」
「今更過ぎるし、カザヤが寿司とか言い出したせいで食べたくなった」
これまで住んでいたヴェルトヒェン王国は海がないため川魚しか基本的に流通していない。
それも、ロイホード家の領地が王都近くということもあり、近くに川魚が獲れる場所もなく、食べられるのは塩漬けにされたものか干物だけであった。
それも、貴族だからこそ珍味として食べられる程度の頻度であった。
領地に居る時ですらその状態である。
王都でも食べられる頻度も内容も変わらなかった。
「その、すしというのはどんな料理なんだ?」
「あ、レクスルは知らないのか。美味しいぞ」
「カザヤ、答えになってない。まあ、お楽しみということにしておこう」
無邪気に答えたカザヤに突っ込みつつ、フーヤはニヤリと笑う。
魚を生で食べるという文化がないことは、書物上ではあるが確認済である。
レクスルはどのような反応をするのかとフーヤとしては楽しみが増えた。
「よし、それじゃあ出発!」
カザヤが元気よく声をあげた。
◇ ◇ ◇
「・・・これ、いつまで歩けば、着くのさ」
先程までの元気な様子とは対照的に、息も絶え絶えな様子のカザヤ。
「そうだな・・・・・・まだ国境にも来てない」
フーヤが『万能感知』の地図を見ながら答える。
先程まで、見渡す限りの草原であったがまばらに木が立ち並ぶ場所まで来ていた。
しかし、まだヴェルトヒェン王国から出ることも出来ていない。
息も絶え絶えというカザヤとは対照的にフーヤとレクスルは涼しい顔をしている。
「嘘でしょ、嘘でもいいから嘘だと言って」
「嘘だけど嘘」
「いや、うん、そういうことなんだけど、なんというか、言葉の綾だったんだけど」
「知ってる」
「フーヤ、そろそろ休憩を入れよう。そこの木陰でどうだ?」
レクスルが少し大きめの木を指す。
カザヤの視線が自然とその木陰に吸い寄せられる。
「仕方ないな」
フーヤが長々とため息をつく。
「え、休憩?やった!」
カザヤが目を輝かせる。
「・・・・・・元気になったみたいだし、休憩はなしで」
「いや、疲れてます、疲れ果ててます、一歩も動けません!」
フーヤの言葉に早口で畳みかけるように答えるカザヤ。
「どちらにしろ、休憩は大事だ。そもそも、ここまで休憩なしだったのが信じられないくらいだからな」
「・・・それもそうか」
フーヤはレクスルの言葉に素直にうなずく。
カザヤはそんな二人の様子を気にすることもなく、木陰に一直線に向かっていった。
◇ ◇ ◇
「あー、疲れた。喉乾いた」
カザヤが木陰にごろりと横たわる。
「行儀悪い」
フーヤがそう言いつつも隣にストンと腰を下ろす。
「カザヤ、水飲むか?」
レクスルが水の入った水筒を取り出す。
竹によく似た材質の植物から作られており、フーヤが魔法で改造を試みたため保温機能や冷却機能がついており、下手すると前世の水筒よりも優れている。
一応、それぞれがひとつずつ携帯し、中身がなくなったらフーヤの『異空間収納』に予備して蓄えてある中身が入っている水筒と取り替えるということにしてある。
「ありがとう、レクスルは優しいな」
カザヤがレクスルから水筒を受け取り飲み干しつつも、フーヤに視線を向ける。
「何?その何か言いたげな視線」
「いや、フーヤもこのくらい優しければなと」
「比べるものではない」
フーヤはそう言い捨てつつ、そっぽを向く。
「それもそうか、あ、そうだこの機会にでも教えてくれよ」
カザヤは一旦言葉を切ると、笑顔を見せる。
「この世界について」




