61.集団発生⑤
「疲れた」
フーヤが分かりやすくうなだれる。
「フーヤは苦手だよな、ああいうのは」
レクスルはにこやかに微笑みつつも、視線をカザヤに向ける。
「これが、馬車・・・乗り心地はそんなによくないな。でも、凄い、馬の息遣いを感じる。景色も緩やかに確実に進む。凄い、興奮してきた」
カザヤは初めて乗る馬車に興奮しているようで忙しなくキョロキョロしている。
フーヤが疲れているのは、単純に出発する前に狩猟ギルドで猛烈な声援を受けたためである。
ルーン=ルナティックが英雄と勇者が手を組み、魔物を討ち取ると宣言をした。
当然、効果はてきめんであり、あれほど沈んでいた狩猟ギルド内が沸き立ち、大歓声へと繋がったわけである。
しかし、目立つのが嫌いなフーヤにとっては非常にいたたまれない時間であった。
主に持ち上げられたのがルーン=ルナティックとレクスルだけであったのがフーヤにとっての不幸中の幸いである。
そして、そんな盛大な歓声を背に、フーヤ、レクスル、カザヤ、ルーン=ルナティックの四名は馬車に乗り込んだ。
正確にはルーン=ルナティックが御者席に乗り、馬を走らせているため馬車の中に居るのはフーヤ、レクスル、カザヤの三名である。
なお、馬車は狩猟ギルド保有のものらしく、ゼロイが他の職員と共に手早く用意したものである。
「それにしても、迷わず御者席にヲタ女神が乗った時は驚いたけど操縦自体は意外と上手いな」
「フーヤ、意外と上手いとかルーン=ルナティック様に対して失礼だぞ」
「今更だけど、フーヤにとっては失礼なの通常運転だったりする?」
カザヤの言葉にレクスルが少し考えこむそぶりを見せる。
「いや、そうでもないな。どちらかというと、砕けた態度を取るのは心を許した相手だけだと思うぞ」
「なるほど、なら俺は爆速で心を許されたことになるのか?」
「たぶん?」
「ならいいか、とはならないんだよな。失礼が許されるのにもある程度限度はあるから」
レクスルとカザヤのやり取りを聞き流しつつ、フーヤは欠伸をして外を見る。
「そろそろか」
フーヤがつぶやくのとほぼ同時に馬車が速度をおとしていく。
レクスルもカザヤもハッとしたように黙り込む。
馬車はじきにピタリと止まった。
「あれ、意外と早かった?」
カザヤが首をかしげる。
ドラゴンを倒した後に先発隊と共に王都に来た時よりも早い。
「真逆とは思うが、直ぐそこまで来ているとかではないよな?フーヤ」
レクスルが焦って立ち上がるほど狼狽し、冷や汗をかきながら尋ねる。
「直ぐそこまで来てる。大量」
フーヤは平然と答える。
「それって、不味くない?王都の近くにゴブリンが大量に居るってことだよね?」
カザヤも先程まで馬車に浮かれていたのは何だったのかというほど真剣な表情を見せる。
「不味い、だから呑気にお茶してていいのか聞いたんだけど」
「待って、それって王都に居る時から分かってたってこと?どれだけ広い範囲が分かるわけ!?」
フーヤの言葉にカザヤが驚きの声をあげる。
「むしろ、カザヤは直ぐ隣に居たとしても分からなそうだな」
「流石に隣はたぶん分かる。・・・まあ、まともに『万能感知』を使ったことがないから絶対ではないけど」
カザヤの声が徐々に小さくなる。
「本当に使いこなすのが難しい能力なんだな」
「いや、カザヤが練習しようとしてないだけ」
レクスルの言葉に対して、フーヤがすかさず告げる。
「はいはい、降りて、降りて、少し歩くよ」
ルーン=ルナティックが馬車の扉を開け放つ。
「あれ、直ぐ近くに着いたわけじゃないの?」
カザヤが歩くという言葉に対して首をかしげる。
「いくらなんでも戦場のど真ん中に馬さんを連れて行くわけにはいかないでしょ」
「それもそうか」
カザヤはそう言いながら真っ先に馬車を降りる。
「なんか、生臭いというか魚の匂いがする?」
続けてレクスルが降り、フーヤも欠伸をしながら降りた。
「それ、たぶん血の匂い」
「え、そうなの?」
フーヤの言葉に反応して、フーヤを見るカザヤ。
「そんな匂いしないが、カザヤは鼻がいいんだな」
レクスルが関心した様子を見せ、カザヤが笑顔を見せる。
「カザヤ、もしかして野生児」
「おい、フーヤ」
ルーン=ルナティックは、三人が馬車から降りるのを見届けると馬から馬車の連結部を手早く外し、手綱を近くの木にくくりつける。
「ちょっと待っててね。直ぐに戻るから。帰ったらおやつ食べようね」
「一緒のおやつ食べるつもり?」
「そういう意味じゃないんだよな」
馬に話しかけるルーン=ルナティックを少し離れた場所で見ていたフーヤの独り言にしっかり反応を見せるとルーン=ルナティックは三人の方を向き直る。
「さて、それでは出発!」




