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57.集団発生①


「やあやあ、フーヤくん、レクスルくん、久しぶり。何か仲間が増えているようだけど、それについては一旦置いておいて話がある」


 いつになく真剣な表情のルーン=ルナティックにレクスルが唾を飲む。

 ルーン=ルナティック、フーヤ、レクスル、カザヤの四人しか居ない狩猟ギルドの奥の部屋には、張り詰めた空気が流れていた。

 何故、こうなったかというと話は数刻ほど前へ遡る。


 ◇ ◇ ◇


「ここが王都か!低い建物がいっぱいある!」


 カザヤが興奮したようにまくしたてる。

 あちこちをキョロキョロしている様子は王都へ初めて来ましたということを宣伝しているかのようである。


「前世と比べたら低い建物が多いだろうけど、もう少し他の感想はないわけ?」


 フーヤは呆れたようにそう言いつつも、街の様子に違和感を覚える。

 活気が感じられない。

 心なしか外出してる人数もまばらで、子供や女性の姿をほとんど見かけない。

 レクスルも違和感を感じとっていたようで、王都に入ってから顔をしかめたまま考えこんでいるようである。

 そもそも、王都に入ろうとした地点から違和感はあった。

 ヴェルトヒェン王国の王都は治安が比較的いい割に入るための審査は非常に簡易的なものであり、警備のための人員もさほど多いわけではない。

 しかし、審査こそ簡易的なままであったものの警備のための人員が通常よりも明らかに多く、物々しい雰囲気であった。

 先発隊の指揮官は、ドラゴンを一旦王都の外の開けた場所に放置したまま、他の先発隊の隊員に見張りを任せて王都の中に走っていった。

 先発隊の様子からするに、出発時から似たような状況であったのだろう。

 方向から察するに、狩猟ギルドへと向かったことがうかがえる。


「何かあったな」


「え?」


 レクスルの言葉にカザヤが首をかしげる。


「それか、何かが起こるか」


 フーヤがレクスルの言葉に続けるように言う。


「どういうこと?」


「行こう」


 カザヤの問いかけは無視され、フーヤの声に従ってレクスルとフーヤの二人は走り出す。


「ちょっと、待ってよ!」


 カザヤも二人に続けて走り出した。


 ◇ ◇ ◇


 狩猟ギルドには人がひしめき合っていた。

 しかし、活気が感じとれず、静かなざわめきが場を支配していた。

 暗い顔をしている者も多い。


「何があったんだ?」


 レクスルが小さくつぶやく。

 カザヤも流石に何か感じとったらしく、無言になる。


「レクスルさんとフーヤさん、いらしてたのですね」


 そう声をかけた男は下がってきた眼鏡をくいっと上へ押し上げる。


「フーヤ、誰だったか?」


「ゼロイ」


 意外にも、人の名前と顔を一致させるのが苦手なところがあるレクスルにフーヤが小声で補足する。

 狩猟ギルドの研修の時に、ルーン=ルナティックが声をかけた職員である。

 水色のスカーフが首元にあるため、他の職員とは区別がしやすい。

 今は何故か、受付ではなく建物の入口近くに居た。


「嗚呼、そうだったな。ゼロイさん、お久しぶりです」


 レクスルはゼロイに声をかける時だけわざとらしく声を大きくする。

 ゼロイはレクスルとフーヤのやり取りが耳に入っているのかいないのか分からない無表情で、言葉を紡ぐ。


「是非、こちらにいらして下さい。お力をお借りしたい」


 ◇ ◇ ◇


 こうして、狩猟ギルドの奥の部屋に通され、冒頭のやり取りへと繋がった訳である。

 なお、張り詰めた空気に反してフーヤはうんざりした表情でルーン=ルナティックを見ていた。

 カザヤは何も言ってはいないものの状況がよく分かっていないようなのでルーン=ルナティックの話を真剣に聞こうとしているのは実質的にレクスルだけである。


「実を言うと、ドラゴンが出たというのは氷山の一角に過ぎない。これから起こることの前兆のようなものだよ」


「前兆、それってまさか・・・」


 レクスルが息を飲む。


「そう、魔物の集団発生。暴走が始まるのも時間の問題だろうね」


 魔物の集団発生。

 それは、魔物の暴走が始まる前兆である。

 かつて、ルーン=ルナティックが名をあげた史上最大の魔物の暴走はおよそ十年前の話である。

 これまでの歴史上、ここまで短い期間のうちに次の暴走が始まろうとしたことはない。


「道理で、街の様子がおかしかったわけだ」


 レクスルが震える声でつぶやく。


「それで、ヲタ女神。そんな状況で、のんびりお茶を飲んでたのか」


 フーヤが軽い調子で言う。

 なお、ルーン=ルナティックの前には緑茶の入った湯飲みと急須があり、茶菓子としてまんじゅうまで添えてあったのでフーヤの指摘は間違いとは言い切れない。


「ただ、のんびりしてたわけじゃないよ。いくつか目的があってここに居るわけだから。まあ、この緑茶美味しくてついついくつろいでしまっていたことは認める」


 フーヤがそれに対して返答を行おうとした時。


「あのっ!いくつか質問いいでしょうか?」


 カザヤが声を張り上げた。


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