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56.先発隊③


「案外、仕組みは簡単なような気がするけど、これで運べるの?本当に?」


 カザヤが小さな声でつぶやく。


「理論上は可能だとは思うけど、本当に運べるのかは知らない」


 レクスルとカザヤの影で返事を返したのはフーヤ。


「なんとかなるんじゃないか?恐らく」


 擁護するような発言をしつつも、その擁護自体に不安がにじみ出ているレクスル。

 運搬方法として、提案されたのは大量の丸太の上にドラゴンを乗せ、引っ張るというもの。

 ちなみに、この方法だとドラゴンの前に常に丸太がないと進まなくなる。

 そのため、ドラゴンが通り過ぎた後ろの方の丸太をドラゴンの前に運搬して再び引っ張るという時間と手間のかかる方法がとられることとなった。

 なお、この方法は真っ直ぐにしか進まない、障害物に弱いなどの誰が見ても明らかな弱点もある。

 木材も多くあるのだから、台車のようなものでも作ればいいのではとも思うだろうが、工具も釘などの固定出来そうなものもないのでそもそも無理な話であった。

 フーヤの脳裏に木材を組み合わせるだけで立体物が作れる技術が浮かんだが、そもそも伝統技能とか高等技術の類だと思い出し、提案するのは踏み留まった。

 なお、三人の不安をよそに先発隊の面々は指揮官の指示の元、着々と準備を進めている。

 むしろ、ドラゴンを倒すという偉業を成し遂げた人物が居るためにやる気に満ちあふれているようだ。

 ちらちらとレクスルを見る者も多く、フーヤやカザヤに目を向ける者も居る。

 なお、よっぽど視線が耐え難かったのかフーヤはレクスルとカザヤの影に隠れるように縮こまっており、カザヤから軽く引かれ、レクスルからため息をつかれていた。


「お待たせしました、勇者様。準備が整いました」


 指揮官がそうかしこまって告げに来る。


「わざわざ報告ありがとうございます。様までつける必要はありませんよ」


 レクスルがにこやかに対応する。


「いえいえ、このような偉業を成し遂げたのは英雄パーティー以来です。このような態度は当然のこと。むしろ、先程は疑うような言動をして申し訳ない」


「そうですか。しかし、英雄パーティーの足元にも及ばない実力です。まだ、讃えられるような存在ではないのです。ふさわしい実力と実績を身に着けた後であれば、喜んでその呼び方を受け止めます。しかし、今はその呼び方を受け止める訳にはいきません」


 レクスルは真面目な顔つきで言い切る。

 もし、レクスルのことを知らない人が聞けば謙遜しているだけにしか感じないであろう言葉だが、英雄パーティーと告げる時の力の入り具合的に、ルーン=ルナティックと同列として語られるのが嫌であっただけであろう。

 女神としてルーン=ルナティックを崇めているレクスルにとっては、死活問題と言ってもいいのかもしれないとフーヤはレクスルの影に入ったまま考える。

 指揮官は目を丸くすると、微笑む。


「では、その通りにいたしましょう。レクスルさん」


 分かりやすく指揮官はレクスルに対してなんと謙虚な人だろうかという様子を見せるが、謙虚というわけでないことを知ってるフーヤは薄ら笑いを浮かべる。


「それでは、参りましょう」


 ◇ ◇ ◇


「引っ張れー!」


「押せー!」


「体制を整えろ!」


「丸太を運べ!早く!」


「気をつけろ!」


 声があちこちに飛び交う。


「大変そう」


「他人事みたいに言うな、フーヤ」


 ぽつりとフーヤがつぶやいた言葉をレクスルが拾う。


「まあ、手伝わなくても良いって言われたし、関係ないと言えば関係ないから、他人事もあってるかもな」


 カザヤはそう言って後ろをちらりと見る。

 後ろでは、ドラゴンを運搬するために先発隊が力を合わせているところである。

 フーヤたち三名の心配をよそに、少しずつではあるが進んでいる。

 なお、レクスルも手伝おうとしたのだが頑ななまでに固辞された。

 代わりに、レクスルとフーヤとカザヤの三人で先導役としてドラゴンの前を歩くことになった。

 逐一、障害物をどかしているが全て魔法でフーヤが退けているため普通に気兼ねすることなく喋りながら歩いているだけである。

 なお、この魔法についてはレクスルが使っているということになっており、カザヤがそこまで徹底するのかとつぶやいたことは三人の記憶に新しい。


「それにしても、せっかく出発してきた王都に戻ることになるなんてな」


 レクスルの言葉にフーヤは苦々しい顔をする。


「それにしても、何でドラゴンが居たんだろうな?フーヤの話からすると、珍しいことなんだよな?」


 カザヤがそう尋ねると、フーヤは肯定の意味を込めてうなずく。


「ドラゴンなんて、国難相当の存在が現れるなんてことはそうそうない。まあ、絶対にないと言い切れることではない。ただ、その場合複合的な要因が絡まり合っていることが多いから、はっきりとした原因が分かることの方が稀なことだ」


 カザヤはフーヤの説明を聞き、笑顔で告げた。


「そうなのか、何かの前兆であるとかじゃなくてよかった」


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