55.先発隊②
投稿するのを忘れてました、遅くなりました。
カザヤの言葉の通り、点のようなものが徐々に近づいてくる。
それを見て、レクスルとフーヤの間の険悪な空気が収まる。
「とりあえず、カザヤは何も喋らなくていい。レクスル、予め打ち合わせしていた通りに頼む」
「嗚呼」
フーヤとレクスルの間の空気がかちりと切り替わる。
カザヤもその空気感を感じとり、自然と背筋が伸びる。
先発隊はこちらへと隊列をなしてやって来る。
既に倒されたドラゴンを視認したらしく、先程よりも明らかに速度が速い。
先発隊はドラゴンからほんの少し距離をとった場所まで来ると止まる。
「ど、ドラゴンが倒されている!?」
誰かがそんな声をあげる。
なお、声をあげていない者も呆気にとられている者が大半なので声をあげたかあげていないかの違いしかない。
「先発隊の皆様、お待ちしておりました」
レクスルがよく通る声でそう告げる。
「これは一体?貴方がたは?」
先発隊の指揮官と思われる大柄で身なりの整った人物が一歩前に出る。
「我々は神の神託により魔王を倒す使命を賜った勇者一行です。偶然にも、ドラゴンに遭遇したため倒させていただきました」
レクスルはそう言うと、にこやかに笑ってみせる。
「か、神の神託・・・」
「本当なのか?」
「だが、ドラゴンは倒されているし」
ざわつく隊列の面々。
「言っていることは本当だぞ!神託も英雄であるルーン=ルナティック様が言っていたから間違いない!」
そう言った、スキンヘッドの男にフーヤは見覚えがあった。
狩猟ギルドのいざこざの後の飲み会で話しかけてきた男である。
その言葉に賛同するようにうなずいている数人もフーヤは見覚えがあった。
スキンヘッド男と同じく、あの酒場に居た人々である。
「そ、そうなのか?」
「まあ、この部隊にはあの時に居なかった奴らも多いから仕方ないが、相当な実力者だ。ドラゴンを倒しても不思議じゃない」
「その通りだ」
「強くて集団でかかっても叶わなかった」
「俺なんて、空高くに打ち上げられてルーン=ルナティック様に治療されたんだからな」
「え、羨ましいな。その話詳しく聞かせろ」
次々と証言が集まり始める。
フーヤの記憶にある限りでは、あの時に酒場に居た人物は先発隊の中の三分の一程度である。
一部の者はルーン=ルナティックに対して興味を示しただけのようであるが、先発隊の中の空気は概ね好意的な方向へ傾いているようである。
「そういうことなら、このドラゴンを持ち帰って報告しないとなりませんね」
先発隊の指揮官がそう告げる。
「人数が居るとはいえ、こんなに大きいドラゴンを持ち帰るのですか?我々としては、どうしようかと頭を悩ましていたところですが」
レクスルが丁寧に言う。
最も、フーヤとカザヤの『異空間収納』に入れれば運搬なんてものは容易である。
しかし、この世界に空間魔法やそれに類する魔法が無い以上、目立つどころの話ではない。
そのことは、カザヤにもフーヤが昨日のうちに魔王や勇者について説明するついでに言い含めてある。
最悪の場合は調査の名目で一生監禁されるというフーヤの脅しが余程効いたらしく、カザヤは青ざめた顔で使わないと固く誓っていた。
「確かに運搬は大変です。しかし、利用出来そうな倒木もありますし、人数も居ます。大丈夫でしょう」
先発隊の指揮官はドラゴンの死体に近づく。
「それにしても、あまり腐敗していませんね」
「血の臭いに引き寄せられて動物が寄ってこないように自作の魔導具で対処してあります」
先発隊の指揮官の疑問にフーヤがすかさず答える。
ちなみに、自作の魔導具というのは半分ほど嘘である。
ドラゴンの周りに分かりやすく数個の煙を吐き出している魔導具が配置されているのは本当である。
しかし、その魔導具は単に煙が出てくるというフーヤが魔法学校に居る時に授業中にこっそりと暇つぶしで作った代物である。
実のところ、フーヤが魔法で空気の層で空間を隔てていただけである。
腐敗の速度も緩やかになっただけであって完全に腐敗しないようにしていたわけでもない。
しかし、魔法でそのようなことをするのは常識外れとも言えることである。
だが、魔導具であれば長時間効果を発揮していても不思議ではない。
むしろ、この世界の魔導具は効果を持続させることを目的として作られているので、順当な効果であると言える。
「自作の魔導具ですか。魔導具にあまり詳しくないですが、凄いと思います」
「そうでもありません。実力的に戦いではあまり役に立てないのでこういった方面に力を入れているだけです。それに、この魔導具を作る上でも力を借りているので大したことはありませんよ」
嘘をつくんじゃないと言いたげな顔でカザヤがフーヤを見ていた。
幸か不幸か、カザヤの表情に気づくものは先発隊の中には居なかったがレクスルはただひとり苦笑いをしていた。




