5.ルーン=ルナティック①
来客用の椅子から立ち上がり、ルーン=ルナティックは近づいてくる。
何故か校長室なのに、前世の某魔法学校校長のような白くたくましい髭を持つこの学校の校長は居ない。
「突っ立っていないで、こっちに来たらどうですか?フーヤ=ロイホード・・・・・・それとも、頚骸風也さんとお呼びした方がいいでしょうか?」
「え・・・・・・」
頚骸風也というのは、フーヤの前世の名である。
普通の人間が知っているはずはない。
フーヤは開いたままになっていた扉を閉めると、ルーン=ルナティックに指で示された通りに向かいの椅子に腰を下ろす。
机を挟んで向かい合い、フーヤは少しの警戒を滲ませつつも、おそるおそる口を開いた。
「何者なんでしょうか?」
ルーン=ルナティックはこちらを真っ直ぐ見て告げた。
「私はこの世界においては英雄ルーン=ルナティックであり、この世界を含めた様々な世界において女神と呼ばれている者です」
「・・・・・・女神?」
フーヤはこの世界に転生した時のことを思い出す。
最もあの時に会った女神と目の前のルーン=ルナティックは全くの別人だろう。
何処を見ても似通っている部分が見当たらない。
「今回、わざわざ女神であるということを明かして接触を試みたのはこちらの不手際の謝罪と補填のためです」
「・・・話が見えないのですが」
「こちらが犯した不手際はふたつあります」
ルーン=ルナティックはいつの間にか出現したティーカップに淹れてある紅茶を飲みつつ、話を進める。
机の上にはいつの間にか、フーヤの分の紅茶とお茶菓子としてクッキーが用意されていた。
「おかしいと思われませんでしたか?前世で死ぬ前の記憶がないなんて」
フーヤは前にも考えたことのあるその疑問を問われて目をぱちくりさせる。
「それは思いましたが、消されたかショックで覚えてないかと結論付けてました。違うのですか?」
「実は天界──すなわち神々の世界では今空前のアニメブームが起きてまして」
「はい?」
唐突に変な話になり面食らうフーヤを置いて、ルーン=ルナティックは話続ける。
「私、人から神に成った特異な神でして、神になる前は日本人だったんですよね。それで、天界がつまらないのでアニメを持ち込んだのが原因というか・・・」
クッキーをかじりつつも、ルーン=ルナティックは話し続ける。
「何柱もの神に次々とアニメに出てくるような武器を作って欲しいとか言われて、暇だしいいかなって受け入れたんですけどその内の馬鹿な一柱の神がその武器を誤作動させてその影響で亡くなってしまったのが貴方です」
「・・・ええっと」
フーヤからしても流石に予想外だった。
それと同時に謝罪されるのも当然なのだろうとも感じる。
フーヤの側に過失が一切ない。
むしろ、文句を言うのが当然のことであるような状況である。
「一応、その神には厳罰が下りました。神の感覚でゆったりと裁判していたので判決が下ったのは最近ですがね。あくまでも悪いのはその神であり、武器を作った者は罪に問われないとのことでしたが謝罪させて下さい。すみませんでした」
ルーン=ルナティックが頭を下げる。
その所作は何処か綺麗で、女神であるというのも嘘ではない可能性が高いだろうなとフーヤに思わせるのには十分だった。
「謝られるのもいい気分ではないので止めて下さい。それで、あの、その武器ってどういったものだったんですか?」
フーヤのその言葉にルーン=ルナティックは頭を上げ、瞬きする。
「自分の殺された武器を見たいなんて物好きなと言いたい所だけど、うん、やっぱり気になるよね、そうだよね、これだよ」
先程よりも崩れた口調──恐らくそちらの方が本来の話し方なのだろう──を使い、うなずきつつもルーン=ルナティックは時空の歪み──異空間収納から剣を取り出し、机に置く。
「え、ちょっと待って、完成度高過ぎるんだけど」
フーヤは思わずガタリと立ち上がる。
その剣は前世でフーヤも見ていたアニメに登場したものであり、原作にあたるライトノベルも読む程度には気に入っていた作品のものであった。
シンプルなようでいて、繊細な細工と特徴的な形を兼ね備えている黒い剣。
「触っても構わないよ」
乗り出すようにして見ているフーヤを見かねてルーン=ルナティックがそう告げると、フーヤはおそるおそるといった面持ちで剣を持ち上げる。
「意外と軽い・・・」
「振り回すためにも出来る限りの軽量化は試みたからね、軽量化したけど耐久性は高めに作ってあるからよっぽどの事が無い限り壊れるないようにしてある・・・・・・というか、そんなに興味あるならあげるよ?」
真剣に眺めているフーヤを見て、ルーン=ルナティックがそう言うとフーヤは緊張した面持ちで尋ねる。
「これ、本当に貰っていいんですか?」
「勿論いいけど、仮にも自らの死因になった剣になるけど本当に欲しいの?」
フーヤはうなずき、手に持っている剣を改めて見る。
「そこは気にしてないですし、これが手に入るなら願ったり叶ったりなんですが」
「なら持っていってよ。一応、神器になるけどこの程度なら問題ないし」
神器という少々不穏な言葉が聞こえた気がしたが、フーヤは自身の異空間収納に剣を仕舞う。
ルーン=ルナティックはそれを見て、改まった様子で紅茶のティーカップをカタリと机に置く。
「それでは、続きを話しましょうか」
【簡単人物紹介】
・ルーン=ルナティック
英雄と呼ばれる人物であると同時に女神でもあるが、この世界を管理している女神とは別の女神である。
元、日本人。(自己申告)
ヲタク気質ではあるがヲタクというわけではない。
腐女子。