52.情報交換⑦
「・・・散々だった」
フーヤはそうつぶやくと、取り留めのないことを考え出す。
全てのことが予想通りになることなんていうのはまず起こり得ない。
しかし、ここまで予想外のことが起これば文句のひとつやふたつ言いたくもなるだろう。
ドラゴンが現れたこと、転生者であるカザヤに会ったこと。
どちらも予想外のことである。
「それにしても、カザヤも日本人とかどんな確率なんだ?・・・・・・並行世界とかいう可能性も一応あるか」
こんな異世界があるくらいだから、並行世界という可能性は勿論あるだろう。
それこそ、物語の中に存在するような日本という名前だけれども、全く世界の有り様が異なる日本という可能性もある。
逆に、コピーの如く寸分違わぬ世界という可能性もある。
「仮に並行世界で違う日本だったとして、確かめる術はあるのか?」
例えば、日本が三分割されていて其々別の人物が統治しているという世界であれば違うと判断するのは容易である。
しかし、そんなSFの設定でありそうな世界でなく、似通っている世界であれば同じ日本か違う日本かを判別するのは容易ではないだろう。
「・・・それを知ったところで何かが変わるという訳でもないけど」
フーヤはほとんど無意識にそうつぶやいて僅かに口角を上げる。
ふと、動かした左手首にほんの少しの違和感を覚え、フーヤは左手首を見る。
そこに金の輪がはまっているのを見て、フーヤは金の輪の存在を思い出す。
触れることも出来ないのでこれまで特段に意識することはなかったが、一度思い出してしまえば何故忘れていたのだろうと思うくらい左手首で存在感を発揮している。
「・・・・・・これにも能力がついていたか」
存在自体を今の今まですっかり忘れていたので仕方ないとも言えるが、よく考えるとこの金の輪にも能力がついているのである。
ユウレイルの話によれば、付与されている能力は『自動治癒』であり、それに加えて運が上昇するというお守りのような能力がついている。
「・・・・・・試すか」
フーヤはポツリとそうつぶやくと、懐から一振りの短剣を取り出す。
この短剣はフーヤの誕生日に贈り物として武器ヲタクであるアルム=ロイホードから貰ったものである。
有名な職人の業物というわけではないが、数々の武器を見てきたアルムのお墨付きの性能を持っている。
最も、フーヤにはそれはさほど重要ではない。
フーヤは短剣を鞘から引き抜くと、躊躇なく手首を軽く斬りつける。
呆気なく皮膚が切れ、血が滲む。
フーヤは観察するが如く傷口を観察し続ける。
すると、不自然なほどあっという間に血が止まり、傷口はあっという間にかさぶたに変わる。
「あくまでも傷の治りを早くするだけか」
フーヤはそうつぶやくと、短剣についた血を丁寧に拭き取り、鞘に納める。
フーヤが『自動治癒』という言葉から連想した能力は二通りあり、試した結果のように傷の治りを異様なまでに早くする以外に傷をなかったことにするというものがあった。
しかし、傷をなかったことにするという時間に干渉するような能力では流石になかったようである。
「・・・まあ、これはこれで怪しまれるだろうけど」
フーヤは人前で怪我も出来ないと思い、息を吐き出す。
「・・・さっきから、考えてることを言いまくってるな。疲れてるんだろうな」
フーヤはそう言うとゆっくりと背中を倒し、空を見上げる。
空に散らばる星をぼんやりと見つめて、天体の在り方は前世と同じなのだろうかとぼんやり考えつつも目を閉じる。
しかし、直ぐに目を開け、起き上がる。
フーヤは深く息を吸い込み、吐き出すことを幾度となく繰り返すと乾いた笑みを浮かべる。
「・・・・・・前世とは、違うのにな」
薄っすらと額に浮かんだ冷や汗を乱暴に袖で拭うと、フーヤは『異空間収納』から本を取り出して読み始めた。
◇ ◇ ◇
「・・・完全にしてやられたな、フーヤに」
レクスルはそう言ってため息をつく。
「朝日見えそうだよね、もう」
カザヤはそう言いながら地平線の向こうに目をこらす。
日そのものは見えないが、薄明るくなっているところから察するにそろそろ夜明けである。
なお、フーヤは睡眠薬が入っていると思われる小瓶を持ちながら少し寝てくると言って丸太小屋の中へ入っていった。
レクスルとカザヤは外で見張りである。
「今から寝ても仮眠にしかならないよな」
「そうだね。それにしても、フーヤの不眠の理由ってなんなんだろう?」
カザヤが首をかしげる。
「俺の知ってる限りだと不眠になりそうな要素はないな。出会った頃から不眠の症状はあるようだし、恐らく前世が関わっているのだろうとは思うが」
難しい顔をしたまま軽くうつむくレクスル。
「なあ、出会った時のフーヤってどんな感じだったんだ?」




