51.情報交換⑥
「別に気にしなくていい。体調管理なら出来てる」
フーヤはそう言いながらも、真っ直ぐに見つめてくるレクスルと目を合わそうとしない。
「だろうな。俺が何も言わなかった理由のひとつだ。俺自身も踏み込んで欲しくない領域はあるからな。だから言い出せなかった。だけど、ずっと気になってはいた。勿論、全部話せと言うつもりは無いが、旅する以上は必要なことだと思う。話せる範囲でいいから話して欲しい」
レクスルの力強い瞳とカザヤの心配そうな瞳に見つめられ、フーヤは大きくため息をつく。
「話せる範囲で話すと、寝るのが下手なだけだ。限界まで起きてぶっ倒れるか、睡眠薬に頼るかしないと寝れない」
「・・・なるほどな。あの時の薬草はそのためか。改善出来る見込みはあるのか?」
「ない」
「大体分かった。込み入ったことを聞いて悪かったな」
「いやいやいや、大体分かったって、何も分からないんだけど」
フーヤとレクスルの押し問答を聞いていたカザヤがそう突っ込む。
「フーヤ、前に薬草を買い込んでたことがあってな。怪我は魔法で治せるから傷薬は要らないはずだから何のためかと思ってたんだ」
「へえーそうなんだーとはなるけど、やっぱりよく分からないって!二人だけで分かり合い過ぎなんだって!!!」
カザヤは叫び終えると肩で息をしながらもフーヤとレクスルの顔を交互に見る。
レクスルは首をかしげ、フーヤは微動だにせず宙を見つめる。
「ええと、それで今晩はどうするんだ?流石にフーヤがずっと見張りというのは却下だけどさ」
カザヤが微妙な空気を払うように声を出す。
「なら、寝る時間を半分に区切って前半と後半に分けてどちらかを見張りという形にでもするか」
レクスルの言葉にフーヤがうなずく。
「なら、前半は僕が見張り、後半はレクスルとカザヤが見張りにしよう」
「それでもいいが、フーヤ、何で前半がいいんだ?」
レクスルが首をかしげる。
その横で同じようにカザヤも首をかしげている。
「ドラゴンを倒した手柄をレクスルに押し付けるためにいくつか考えを整理しておきたい」
その言葉にレクスルは納得したようにうなずき、カザヤは首をかしげたまま尋ねる。
「手柄を押し付けるって何でだ?」
「目立ちたくない」
フーヤは力強く即答する。
その顔は驚くほど真剣なのだが、フーヤの雰囲気の変化に気づく様子もなくカザヤは質問を重ねる。
「何で目立ちたくないんだ?別に目立って困ることはないだろ?」
「面倒なことになる。確実に」
フーヤはカザヤの言葉を否定するように首を振りながら告げる。
しかし、カザヤは首をかしげたまま尋ねる。
「そうか?むしろ、転生して女神様に特別な力貰ったわけだし、目立ちまくって、世界救ったりとかして有名になって、助けた子たちでハーレム作って、第二の人生を全力で謳歌するべきなんじゃないか?」
フーヤはカザヤの主張を聞き終えると空を仰ぎ見て、目頭を押さえると、ゆっくりと息を吐き出す。
「・・・・・・嗚呼、分かった。カザヤ、お前とは永遠に分かりあえない」
「なんでそうなるんだよ!」
カザヤが叫ぶ横でフーヤはわざとらしく耳を押さえる。
「とりあえず、いつまでも突っ立っていないで、中を見せて貰おう。フーヤ、いいよな?」
二人のやり取りを苦笑いしながら見守っていたレクスルは、二人の間の微妙な空気を誤魔化すような早口を言いつつも、丸太小屋の扉に手をかける。
「嗚呼」
フーヤの言葉とほぼ同時に扉が開かれる。
中にはフーヤの言った通りにベッドが二つ置かれていた。
ベッドとの間こそ開いてはいるが、荷物を少し置いたら塞がってしまうほどの隙間しかない。
「寝心地がいい。最高だな」
カザヤが早速ベッドにうつぶせで寝転がる。
「最近、藁のベッドばかりだったから、ちゃんとしたベッドに寝るの久しぶり・・・おやすみ」
カザヤの目が閉じる。
数秒も経たないうちに微かないびきが聞こえてくる。
「寝たのか?」
「寝た」
レクスルとフーヤが言葉を交わす。
カザヤが寝るまで、ほんの数十の数を数える間の早業であった。
「・・・カザヤ、僕たちに出会うまで何処で何をしてたんだろうな。この世界の一般的な常識は無さそうだから余計に気になる」
「後で聞いてみればいいんじゃないか?」
「それもそうだな。レクスル、疲れてるだろうし、見張りはしておくから寝てて」
「フーヤ、頼んだ。まあ、交代の時間になったら絶対に起こしてくれ」
「分かった」
レクスルは羽織っていた緑のローブを脱ぐとベッドに横たわる。
フーヤはその様子を見届けると、扉を閉めて外に出る。
そして、玄関に腰かけると息を長々と吐き出す。
「・・・散々だった」




