44.ドラゴン②
「えっ、ドラゴン!?」
レクスルが驚きのあまり、フーヤを振り返りまじまじと見つめる。
レクスルは、フーヤのその真剣な表情を見て嘘ではないということを知る。
この前会った古竜とは異なり、ドラゴンは正真正銘の魔物であり、最大の脅威のひとつとして数えられる。
勿論、ドラゴン以上の脅威も居るが遭遇という観点からするとドラゴンが可能性が最も高い。
それでも、一生に一回あるか無いかだろう。
魔物であることもあり、かなり積極的に人を襲おうと動く。
ドラゴンの恐ろしさを示す話として、国軍が相応の準備をしなくてはならないというのは有名な話だ。
最も、国軍は人間相手の訓練が多く、それこそ熟練の狩猟ギルドのメンバーであれば話が変わってくるという話もある。
それでも、死の覚悟をすることになるということには変わりがない。
「状況を簡単に説明すると、こっちに向かって爆走してる馬車が居て、それをドラゴンが追いかけてる。ドラゴンの種類としてはこの地域に多く──」
「フーヤ、簡潔に弱点と特徴だけで良い」
フーヤはレクスルのその言葉にバツが悪そうにそっぽを向く。
「・・・火に弱いから、火は吐かない。それと、尻尾が傷つくと飛べなくなる。そろそろ、馬車が来る頃だと思う」
「分かった。とりあえず、馬車を逃がして引き付ける。それでいいな」
「嗚呼」
小さく、何か近づいてくるものが視界に映る。
少しずつ近づいてくるに連れて、それが馬車であることが分かる。
とてつもない速さで近づいてくる。
「さっさと逃げろ!ドラゴンだ!!!」
黒服に身を包んだ御者の男がこちらに向かって怒鳴る。
どうやら、一般的な木の乗り合い馬車であり、何人もの人々が激しく揺れる馬車にしがみついて耐えているのが外からでも分かった。
フーヤとレクスルは馬車に道を空けると、馬車が勢いよく通り過ぎていく。
馬車の男は逃げろと必死に怒鳴っていたが、命を預かっている都合上馬車を止める訳にもいかず、走り去っていく。
レクスルは気遣うように馬車に視線をやるが、フーヤは馬車を一切気にすることなく空の一点をまじまじと見つめる。
気の所為かと思うような小さな影はみるみるうちに大きくなり、こちらへ向かってくる。
それが、ドラゴンだということが分かる距離までドラゴンが来るまでにレクスルは聖剣を構え直す。
なお、このドラゴンはヴェルト種と呼ばれているもので主にこの国でしか目撃されていない。
火が弱点のため炎で攻撃してこないという珍しいドラゴンである。
グオゥと鳴き声をあげ、目標をフーヤとレクスルに狙い定める。
恐らく、動き続ける馬車よりも二人だけで動こうともしないフーヤとレクスルの方が狙いやすいと考えたのだろう。
「フーヤ!」
レクスルの言葉にフーヤはうなずくと走り出す。
フーヤは風の刃を生み出すとドラゴンの翼めがけて放つ。
「そりゃあ!」
「え?」
フーヤたちがいる方向からかけ声のようなものが聞こえて、フーヤは思わず声をもらす。
フーヤが声が聞こえた方を見ると、黒髪に灰色の瞳、使い古された短剣を腰に下げ、白の麻袋のような印象を受ける服に膝や肘、腰回りに皮の防具をつけている少年がいた。
その少年もこちらに気付いたようで驚いたようにフーヤを見る。
フーヤと少年の放った風の刃はそれぞれドラゴンの翼の付け根に命中する。
翼が取れることこそなかったが、傷ついて飛べなくなったのかふらふらと地上に降りてくる。
「フーヤ!」
フーヤはレクスルの言葉で改めてドラゴンに注意を向ける。
ドラゴンは完全にフーヤと少年に狙いを定めたようでフーヤとレクスルめがけて降りてくる。
というよりも、この速度であると落ちてきてるといった方が正しいだろう。
「え、えっ!?」
そのことに気づき慌てる少年はオロオロするだけで動こうとしない。
フーヤの頭にレクスルの顔と忘れかけていたとある記憶がよぎる。
舌打ちしつつもフーヤは咄嗟に少年を突き飛ばしながら飛び退く。
ドンッという音と共に地面が揺れる。
間一髪のところで押し潰されずに済んだフーヤと少年は地面を転がる。
レクスルはドラゴンの死角から走り寄り、飛び上がる。
「来い!クラレント!」
聖剣がレクスルの手に現れる。
聖剣は一瞬にして炎をまとい、そしてドラゴンの首めがけて振り下ろされる。
ドラゴンの首はその巨体に比べて意外と細く、一太刀で切れるかと思われるほどであった。
しかし、想定以上に硬いようでレクスルの額に汗がにじむ。
地面が割れるかと思うほどの轟音が轟く。
ドラゴンの断末魔。
レクスルを振り払おうとドラゴンが暴れる。
地面は砕け、空気は震える。
レクスルが流石に危ないと判断したらしく、飛び上がって離れる。
聖剣をしまい、大きく距離をとるレクスルを視界に収めつつ、フーヤはドラゴンを見つめる。
最も、既に首を半分ほど切られており、もう既に助からないほどの致命傷を与えている。
だが、まだドラゴンは絶命した訳ではない。
「不味いな・・・」
フーヤは走り出した。




