幕間∶ルルイエッティの苦労②
「一応、上の方にも掛け合って決めたんだけどね、人間の生活を経験してもらうということで」
「えっ、嫌です」
憎たらしいくらいに笑顔の先輩。
「まあ、決定事項だから諦めたまえ。それにしても、こうなると全ての神に人間研修させた方がいいかも。最近、人間を見下す新神が多くなってきてるし」
先輩はわざとらしくため息をつきつつも、つかつかとこっちに歩いてくる。
人間として過ごせと?
冗談じゃない。
何で人間なんてものになることを経験しなければならないのでしょう?
「神というものの立ち位置をずいぶん上に置いているようだけれど、神というものは本当にそんな上の立場の存在なのかい?」
何を当たり前のことを言っているのだろうか、この先輩は。
まさか、人間の方が偉いなんてことはあるはずも無いというのに。
「ともかく、人間として過ごしてみたまえよ。それでも、考えが変わらないというなら私の負けでルルイエッティの勝ちなのだから」
目の前が暗くなる。
落ちる感覚と共に、強制的に意識が落ちる。
◇ ◇ ◇
「ほぎゃほぎゃ」
赤ん坊の泣き声。
少し待って下さいな。
目は光は入るものの、焦点は合わない。
触覚からは、支えられる腕と外気のひんやりとした温度が伝わる。
鼻は血の臭いを拾う。
耳からは、くぐもってはいるけれど私の管理対象の世界においての公用語が聞こえる。
元気な女の子だとかなんとか。
人間として過ごせというのもとんでもない話だと思いましたけれど、まさか赤ん坊からとは全くもって聞いていませんよ。
まさか、神とあろう者に赤ん坊として醜態を晒せと言うのですか!?
『まあね、お望みなら人間の間は神としての記憶を封じておくとかも出来るけど』
先輩のにくたらしい言葉が頭に響く。
冗談じゃない。
身も心も人間になるなんて、単なる拷問でしかない。
『なら記憶はそのままにしておくよ。一応、今みたいに思念で連絡は取れるようにしておくけど、能力は普通の人間くらいに抑えてあるから。それじゃあ、頑張れ』
本当に、最悪。
何も出来ることはないので、精々抗議の意味を込めて精一杯泣いてやった。




