41.出立①
「というわけで、お見送りに来たよ」
「帰れ」
フーヤがルーン=ルナティックを睨みつける一方でレクスルは目を輝かせる。
狩猟ギルドでの研修から一週間後、全ての準備を整えて魔法学校から出発しようという時である。
フーヤとしては見送りは要らないと言っていたため、見送られることなく出発する気でいたのだ。
「帰らないよ。今日だってことはレクスルくんに聞いていたからね」
「わざわざ来て下さりありがとうございます」
レクスルが軽く頭を下げつつ感謝の言葉を言うのをフーヤは苦虫を噛み潰したような顔で見る。
レクスルが喜んでいるので、これ以上強く何か言うことが出来ないフーヤは不機嫌さを隠そうともせずにルーン=ルナティックを睨み続ける。
「それに、出立記念の贈り物もどんな感じか見ておきたかったからね。似合ってる。私の目に狂いは無かった」
ルーン=ルナティックが満足げに頷く。
フーヤとレクスルが今着ている服は実はルーン=ルナティックの贈り物である。
レクスルには緑、フーヤには深緑のローブに異様に軽く丈夫な革靴、ポーチ付きのベルト、動きやすい肌触りのよい服。
フーヤもレクスルも服については何を選べばいいか分からなかったため、素直に助かったと言えるだろう。
「ルーン、贈り物って服だったんだ」
何処からともなくひょっこりとユウレイルが姿を現す。
「師匠!」
レクスルが目を輝かせる。
「遅いよ、ユウレイル」
「ごめん、サフィーと話してたら遅れた」
サフィーというと、聖剣をレクスルが手に入れた時に会った古竜のことであろう。
フーヤがそう考えている間にユウレイルは白い箱を取り出す。
「古竜サフィーより、贈り物です」
ユウレイルはわざとらしくそう告げると箱の蓋を開ける。
箱の中に入っていたのは金の輪。
装飾は一切なく、大きさもさほど大きい訳では無い輪がふたつそこに入っていた。
日の光を受け、きらりと光ったその輪は靄のような淡い光を纏う。
そして、光を放ったかと思うと一瞬のうちにフーヤとレクスルの左手首に金の輪がはまっていた。
「・・・・・・こういうのもはめられたとか言うんじゃないかな」
ユウレイルに鋭い視線を向けるフーヤ。
金の輪は不思議なことに触れることは出来ず、それにも関わらず消えることも外れることも無かった。
レクスルはその不思議な性質に興味津々のようで、金の輪に触れてみようとしたり、色々な角度から見たりしている。
なお、フーヤはなんとかして外せないかと試している。
「はめてなんていないし、文句ならサフィーに言ってくれ。ちなみに、能力としては『自動治癒』という怪我が早く治るという能力とあと、僅かに運が上昇するらしい」
「なんとなく感じてたけど、かなり気に入られてるよね?フーヤくんとレクスルくん。いつもなら、こんな風に贈り物とかしないのに」
ルーン=ルナティックはユウレイルをちらりと見ながらつぶやく。
「気に入られる理由も分からない訳ではない。サフィーとしては、古竜というだけで問答無用で崇め讃えてくる人間は煩わしいだけらしいからな」
「・・・なるほど」
ユウレイルの話からして、二人が気に入られるのも仕方ないだろうフーヤは基本的に何かを崇めることはしないし、レクスルは崇める対象としているのはルーン=ルナティックだけである。
そして、フーヤは息を吐くと金の輪を外すことを諦める。
幸か不幸か、腕に金の輪がはまっている感覚は一切ない。
日常生活には一切支障は無いだろう。
「師匠、代わりにお礼の言葉を伝えて貰えますか?」
レクスルがフーヤの様子に苦笑いしつつも、頼む。
「いいけど、直接伝えに行っていいと思うぞ」
「・・・検討だけする。レクスル、そろそろ行こう」
フーヤが何故か少し焦ったようにレクスルを引っ張る。
「フーヤ、急にどうした?」
「行こう」
フーヤは問答無用でレクスルを引っ張っていこうとするが、レクスルとしてはルーン=ルナティックや師匠と話をしておきたいため動こうとしない。
ユウレイルはそんなフーヤの様子に首をかしげるが、ルーン=ルナティックだけは合点がいった様子でにやにやと眺めている。
「レクスル、行こう」
そう言ってフーヤが歩き出そうとした瞬間、かなりの速度で馬車がこちらに向かってくる。
「フーヤ!見送りに来たぞ!」
「見送りしなくていいから」
フーヤはほぼ反射的に言いつつも、肩を落とす。
そんなフーヤに構うことなく、フーヤを抱きしめるのはゾーン=ロイボードである。
「知らせないようにしてたのに・・・・・・」
フーヤが虚ろな目でそうつぶやくと、ルーン=ルナティックが笑顔で告げる。
「せっかくだから、ご家族に挨拶がてら手紙で出立の日を伝えておいた」
「はっ倒すぞ」




