39.研修④
「それっ!」
レクスルが刃を落としてある模擬試合用の剣を振る。
それと同時に多くの人々が空高く舞う。
レクスルの振る剣には、魔法の風で人を吹き上げられるように仕込んである。
落下の衝撃で戦いは継続不能になるものの、死ぬことはないように計算し尽くされている。
多くの人々を空高く舞い上げるその様は、大胆で派手であると同時に爽快さも持ち合わせている。
「レクスルくん、凄い!凄い!」
何故かルーン=ルナティックがレクスルの技を見て興奮しているが、それを見たレクスルが張り切ってより豪快になるので怪我人の数は増えている。
自身の治療するべき人間が続々と増えているのに、それを悪化させる手を自ら打つとは何を考えているのか分からない。
フーヤはその様子を眺めつつも後ろに軽く飛び、振り下ろされた剣を避ける。
レクスルと違い、フーヤは攻撃となる行動を一切取らなかった。
そのため簡単に倒せると踏んだ者たちから攻撃を受けていたが、フーヤは攻撃を全て避けている。
むしろ、攻撃してきていた者たち同士で相打ちしたり、転んで自滅したりと勝手に相手が減っていっている。
「こいつ、しぶといぞ」
「囲め、囲めぇ!」
作戦を口にする奴があるか。
と口に出しそうになるのを必死に堪えつつ、フーヤは攻撃を避けながら、逃げるように後退したり横に飛んだりと移動する。
即興で協力してあるので作戦を口に出すというのも仕方ないだろうが、対人戦においては致命的なのは言うまでもない。
なお、でたらめに逃げ回っているように見えてレクスルの間合いに入らないようにだけは気をつけている。
お互いがお互いに干渉することがないと分かっているからこそ、それぞれのやり方で全力を出していけるのである。
「こ、こいつめ・・・・・・」
自ら転んだだけなのに、フーヤを恨みがましげに見る男を飛び越えつつもフーヤは攻撃を避け続ける。
フーヤはレクスルを脅威と捉え、協力して打ち倒そうとする者とフーヤ自身を倒しやすいと踏んで迫ってくる者の顔をなるべく覚えようと視線を走らせる。
何が役に立つことになるか分からない故、やれることは全てやるつもりである。
普通であればこんなに膨大の人の顔を覚えるのは不可能に近いが、フーヤは記憶力に関しては常人離れな能力があるため問題にもならない。
記憶力が良いことは、既に魔物図鑑を全て記憶したことからも推し量ることが出来る。
フーヤはレクスルに打ち上げられた人間を見つつも横薙ぎの攻撃を見ることなくしゃがんで避ける。
勿論、攻撃を避け続けられるのは『万能感知』のお陰であるのだが、そんなことを知らぬ者たちは冷や汗を額に浮かべる。
一切攻撃が当たることはないのは異常である。
レクスルが異常であるというのは見れば分かることであるが、フーヤも徐々に異常認定されつつあった。
そんなことを知らぬフーヤは欠伸を噛み殺す。
「早く終わらないかな」
レクスルの方へ人が集まり過ぎないように調整するのも疲れたと思いながらフーヤはレクスルの方へ目を向ける。
レクスルの攻撃により人々が舞っていた。
◇ ◇ ◇
「さあ、飲め飲め飲めぇ!!!宴じゃあ!!!」
狩猟ギルドの隣にある酒場にて、フーヤとレクスルは宴に巻き込まれていた。
狩猟ギルドに酒場が併設されていなかったのは近くに酒場がいくつもあるからということらしい。
なお、フーヤとレクスルは一応まだ魔法学校の生徒という扱いであるため酒を飲むことはない。
というか、むしろそれを狙って制服を着てる節がある。
勿論、単純に着心地が良すぎるということもあるし、そもそも服にこだわりが一切ないフーヤとレクスルにとっては楽なのだ。
「しっかし、人は見た目によらないなぁ!」
そう言いながら酒をゴクゴクと喉の奥へと押し流す男はレクスルの攻撃を二回受けた男である。
一回目で懲りればいいのに、吹き飛ばされた後でもう一度向かっていったというのだから馬鹿といって差し支えないだろう。
なお、ルーン=ルナティック曰く一回レクスルの攻撃を受けただけでも骨が折れてる場合は多かったらしいのでやはり馬鹿であっているだろう。
なお、使い込まれた革の防具をつけているところからそれなりに腕が立つのかもしれない。
フーヤは名前を聞いてないその男の頭を見て心の中でスキンヘッド男と名付けつつも、酒場を見渡す。
集まって飲んでたりしていると思ったら、あちこちに渡り歩いていたりと人が入り乱れている。
それぞれが木の杯を傾け、騒いでいる。
フーヤとレクスルは遠巻きにされていたが、構わずに話しかけてくる奇特な者も居るようだ。
遠巻きにされているのは恐らく先程大暴れしてたレクスルが居るからというだけでないだろうとフーヤはちらりと視線を横に向ける。
「まあ、レクスルくんは特別だからね。というか、許可貰ったし言ってしまおうか」
ルーン=ルナティックはそう言ってニヤリと笑った。




