3.試験③
昨日投稿予定でしたが、忘れていたので今投稿します。
フーヤは試験の問題用紙に目を通す。
講堂のルーン=ルナティックの演説の後、試験会場に移動して試験が行われていた。
今は筆記試験の最中である。
フーヤは半分ほど答えが埋まっている解答用紙を見る。
はっきり言って、フーヤにとってこの試験は簡単過ぎる。
目立たないという目標を達成するために正答数を抑えているが実を言うとほぼ満点に近い点数を取ろうと思えば取れるのだ。
伊達に、こちらの世界の言葉の読み書きを覚えてから家の書庫に入りびたっていた訳ではない。
ちなみに、書庫に入りびたっていた理由は単純に暇だったからであったりする。
娯楽などほとんど無い世界なのである。
前世のサブカルチャーが溢れる世界を知っている身としては、暇で暇で仕方なかった。
異世界でやりたい事などもすぐに思い至らなかったため、本を読んで暇をつぶしていたのだ。
父が書物を集めるのを一種の趣味としていたため、本は豊富にあった事が幸いした。
前世で嗜む程度にライトノベルなどに手を出していたフーヤにとって、活字を読むのはさほど苦ではなかったのだ。
そのせいで、書庫の書物のほとんどを読みきってしまったのは少しばかり誤算だったが。
読んでいないものは、まだ完全に解読されていない古語で書かれたものや、劣化が酷くて本の形を保てているのが不思議なようなものであるとかなので、全部読みきったと言っても過言ではない。
そして、気に入った書物はジャンルを問わず何度も読み返すのですっかり覚えてしまい、その知識で試験問題はほとんど解けてしまう。
ただし、目立たないためにも全力で手を抜いて平均点を目指している。
フーヤは念のために追加で数問解くと目を閉じる。
窓際の席なので日射しが心地よい。
うとうとしつつも、フーヤは試験終了の合図を待った。
◇ ◇ ◇
「・・・難しかった」
机に突っ伏すレクスルを見て盛大にため息をつきつつ、フーヤが声をかける。
「お疲れ様。まあ、実技試験これからだけど」
「・・・・・・実技は自信あるからいいんだよ。問題なのは筆記だから」
既に満身創痍といった感じでレクスルが言う。
はっきり言って、レクスルの魔法の腕は悪くない。
むしろ、魔法だけで評価するなら特別クラスに入れてもおかしくない実力なのである。
ただ、筆記試験の実力が底辺を這っており、その影響もあって結局今のクラスに落ち着いている。
フーヤとしては上のクラスに上がれば上がるほど目立ちやすくなるので試験に全力を出したくはない。
しかし、レクスルと同じクラスで居たいという思いもあるので、もしレクスルの実力が上がったとしたら自分もレクスルと同じクラスになれるように試験に力を入れてしまうんだろうなとも思っている。
なお、目立ちたくないのは変わらないのでレクスルの実力が上がらないのを内心で喜んでいるのはここだけの話だ。
「ところで、いつまでそうやってうなだれてる気?」
「そろそろ行かないと駄目か?」
「レクスルがのんびりしてるから、他の人はほとんど移動してる」
「・・・行くか」
レクスルが面倒そうに動き出す。
廊下に出ると、既に人はまばらといった感じだった。
最も、時間に少しばかり余裕はあるので急ぐ必要はない。
フーヤはレクスルと共に歩きつつも、とある疑問を口にする。
「いつも不思議なんだけど、レクスルって要領悪くないのになんで筆記試験出来ないの?」
「おもいっきり貶された気分なんだが・・・まあ、何故か出来ないんだよな。理由なんて分からない」
直球過ぎるその言葉に苦笑いするレクスル。
「・・・貶したつもりなんてない」
フーヤは首をかしげつつもレクスルの言葉を否定する。
フーヤの考え込むその様子は釈然としないと言いたげであった。
「・・・そんなに考え込む事か?」
「特に要領が悪くないのに、出来ないのは変だから」
「単純に勉強のやる気が無いからとかじゃないのか?」
レクスルがそう言った途端、フーヤが立ち止まる。
「フーヤ、どうした?」
急に立ち止まったフーヤを自身も立ち止まって怪訝そうに見つめるレクスル。
フーヤは目を見開いたままレクスルを見つめ返す。
「・・・・・・盲点だった」
「・・・何がだ?」
「要領が良くても、やる気がなければ出来ないってこと」
「・・・たまにフーヤの事がまったく分からなくなることがあるんだが」
レクスルがぼそりとそう言った時、ちょうど鍛練場に着く。
フーヤは、ぼんやりと集まっている生徒の群れを眺める。
「レクスル、ところで試験のやる気が出ないんだけど」
「いや、そこは頑張れよ」