37.研修②
「さて、まず狩猟ギルドについて詳しく話そう」
静まり返った部屋の中、ルーン=ルナティックが本の頁をめくる乾いた音だけが聞こえる。
ルーン=ルナティックはそもそも案内するためだけに此処に来ていたはずであるので真面目に話を聞こうとしなくても問題は無いはずである。
ギルドマスターのお咎めが無いのがその証拠だ。
だがしかし、それならば何故この部屋から立ち去ろうとしないのだろうか。
フーヤはそんな事をぼんやり考えつつも、ギルドマスターの言葉に耳を傾ける。
「狩猟ギルドには仮登録の者と本登録の者が居る。仮登録の者は簡単な依頼をやって貰っている。実力の無い者が死ぬ事が無いように危険な仕事が任される事は無い。仮登録でも充分家族の食扶持くらいは稼げる。だから、本来本登録なぞする必要は無いはずなんだが」
ギルドマスターの言葉からは、言外に本登録したがる奴らが多くて困るという事がにじみ出ている。
「まあ、憧れというのは時に安全とか安定した暮らしとかに勝るからね。それに、本登録した方が危険は伴うけど稼ぎは良くなるから。まあ、本登録しなければ旨味がほとんど無くなるお陰で仮登録のまま危険に突っ込む奴が激減してるから意味はあるよ」
ルーン=ルナティックの慰めるかのような言葉にギルドマスターは鋭い視線を投げかけつつも軽くため息をつく。
「偶に本登録試験を受けるのを嫌がって、本登録する前に危険に突っ込む馬鹿が居るから困る。せっかく、試験を設ける事で死ぬ者が少なくなるようにと取り計らっているのに台無しだ」
「・・・もしかして、ごたついてたのってそのせい?」
「嗚呼」
ギルドマスターは深々とため息をつく。
「つまり、自身の力を見誤った奴が死んだということか?」
「フーヤ、流石に無神経過ぎると思うぞ」
ルーン=ルナティックもフーヤとレクスルのそのやり取りを聞いて苦笑いをする他無い。
「というわけだが、まあお前たちは実力があると認められとるからな。本登録している者は本登録していないと受けられない危険度の高い依頼も受けられる。これが、本登録の証のギルド証だ。身分証としても使える」
ギルドマスターはそう言いながらフーヤとレクスルにギルド証を渡してくる。
ギルド証は薄い金属の板に番号と名前そして狩猟ギルドと刻印されているだけのシンプルなものであり、細い鎖がついていて首からぶら下げられるようになっている。
「とりあえず、肌身離さず持っておけ。次に魔物についてだ」
「魔物図鑑なら、読んで覚えました」
フーヤがそう言うと、ギルドマスターは僅かに首をふる。
「そうではない。魔物と普通の獣の違いだ。普通の獣は人間と遭遇しても、決して近づいてこようとはしない。だが、魔物は逆だ。人間を見ると敵対視して襲いかかってくる。だから、魔物は危険なんだ」
「つまり、それで見分けがつくということか。それに、危険だからこそ狩る必要があるというのも納得だな」
レクスルがうなずく。
「それで、話は終わりですか?ギルドマスターさん」
フーヤは何処か退屈げとも言える調子で尋ねる。
ちらりとルーン=ルナティックの読んでいる本を見ているところを見ると本を読みたいと思っていることはレクスルも察するところである。
「絶対に話すべきことは話終わったな。後は旅する時に役立つ情報が載っている冊子があるから餞別にあげよう」
フーヤとレクスルはそれぞれ冊子を受け取る。
それなりの分厚さで、パラパラと頁をめくってみると野宿の方法及び注意点、魔物の解体方法、薬草と毒草の見分け方、旅人を狙ったならず者への対処方などなど。
多種多様な様々な方法が載っている。
最も、フーヤとしてはあまり役立たない情報や既に知識として知っているものが多く、役に立つかと聞かれたら微妙なところだが。
「・・・この冊子、監修者にルーン=ルナティック様が居る」
レクスルはフーヤとは全く別の観点で感動していた。
「まあ、この娘は民草の安全と平穏のために尽力しておるからな。戦いの功績ばかりが評価されがちだが、治安維持等も評価されてしかるべきだ」
「急に褒められると照れるな」
ルーン=ルナティックが本をパタンと閉じて笑顔を見せる。
「安心しろ。レクスルは尊敬してるみたいだが、僕はしてないから」
「フーヤくん、それは何処にも安心しろって言う要素ないからね?」
ルーン=ルナティックがそう言いながら立ち上がる。
「まあ、もう帰っても問題ないよ」
「そうだな。帰っても問題はない。無事に帰れればの話だが」
ルーン=ルナティックとギルドマスターがにんまりと笑う。
「どういうことだ?」
首をかしげるレクスルと対称的にフーヤは顔が青を通り越して白くなっている。
「とてつもなく面倒なことになった」




