36.研修①
「視線が痛い」
フーヤが小さいながらもしっかりつぶやいたその言葉を聞き、レクスルが苦笑いする。
ルーン=ルナティック自身、この国で知らない者は居ない程のかなりの有名人なのである。
そんな人物に連れられている二人が目立たないはずが無かった。
魔法学校を出て、ルーン=ルナティックの用意した簡素な茶色の馬車に乗って移動している時までは誰にも会うことなく良かったのだ。
しかし、狩猟ギルドの前に着き、歩かざるおえなくなった途端に人も多くなり目立つ目立つ。
目立ちまくるごとにフーヤのルーン=ルナティックに殺意のようなものすら蓄積されていっている。
目立っているのは二人が魔法学校の制服であるという別の理由もあったのだが、フーヤもレクスルも服に無頓着であるが故にそこには気づいていない。
なお、狩猟ギルドの建物は石造りのくすんだ白色の建物であり、重厚な木製の扉はやけに古びている。
窓は扉と同じ素材であるらしい木の枠がはまっているだけで簡素なものである。
「それにしても、ここに居る人が皆狩猟ギルドに本登録してる人たちなのか?」
レクスルがそんな疑問をこぼす。
狩猟ギルドの建物の周りに居る人はざっと数えても百人近く居たのでその疑問も最もだろう。
「そうでもないよ。本登録は狭き門だからほとんどは仮登録という形で危険度が低い仕事を斡旋してもらってるし、採取依頼や討伐依頼でギルドに買い取られた素材をギルドから買い上げる業者とかも居るから」
ルーン=ルナティックは淀みなくそう話すと、狩猟ギルドの中へ入る。
中には受付があり、一箇所を除いて全ての受付に人が並んでいた。
フーヤは狩猟ギルドが前世の異世界モノによく出てくる冒険者ギルドに似ていると思っていたが、よく併設されていたりするパブとかは無いのかと至極どうでも良いことに思いを馳せていた。
ルーン=ルナティックは人々の視線を集めつつも、迷うことなく右端の誰も並んで居ない受付に向かって歩み寄る。
「やあ、ゼロイ。久しぶり」
「お久しぶりです。しかし、貴女ももの好きな人ですね」
ゼロイと呼ばれた男はくいっと眼鏡を上げると手に持っていた紙の束を横に置く。
受付の人間は皆一様に緑の服だが、ゼロイは何故か首元に水色のスカーフを巻いている。
口調から物腰の柔らかい印象を受けるが、同時に堅物そうな雰囲気も感じられる。
「それにしても、相変わらず人気無いね。ゼロイの受付」
「それはそうでしょう。皆様、女性の方がお好みですから」
「・・・・・・そんな理由なのか」
フーヤは長蛇の列と言っても差し支えない受付への並び列を眺める。
「まあ、列によって役割が異なるなんてことも無さそうだしな。男が多いし、案外そんなものなんだろ」
レクスルの口調からは少し呆れた様子が伝わってくる。
「ゼロイ、ギルドマスターに取り次ぎ頼むよ」
「分かりました。では、此方へ」
ゼロイは受付を離れ、簡素な扉を開けて奥へと招く。
何処からともなくざわめきが伝わる中、ルーン=ルナティックに連れられてフーヤとレクスルは扉をくぐる。
扉をくぐった先には、応接室といった様子の部屋があった。
机を挟むようにして置かれた長椅子の片方に案内されつつも、フーヤは部屋を見渡す。
特に装飾等も無い部屋の中で、申し訳程度に置かれた赤の幾何学模様が描かれた絨毯と机と長椅子ふたつがむしろ浮いている。
扉が三方向にひとつずつあり、それぞれが別の場所に繋がっているようだ。
「既にギルドマスターには連絡しましたので、私は受付に戻ります」
「いや、戻るまでもなくゼロイの受付には誰も並ばないよね?此処に居たら?」
ゼロイはルーン=ルナティックを睨みつけるように見ると、フーヤたちが入ってきたのとは別の扉に手をかける。
「偶に酔狂な方に声をかけられますので。それに、受付で他の業務も同時にしておりますから」
そう言い残すとゼロイは出ていく。
ルーン=ルナティックは去っていく背を見てため息をつく。
「全く、そもそも働く必要なんてない立場のくせに」
「それってどういう──」
フーヤがそう言いかけた時フーヤたちが入ってきたのともゼロイが出て行ったのとも違う扉がバンッと音を立てて開く。
「待たせたな」
「急に呼びつけておいて待たせるなんて、ギルドマスターくらいだよ」
「すまん、少々ごたついておってな」
ギルドマスターはフーヤたちが座っているのと反対側の長椅子にどかりと座る。
「さて、此処に呼び出したのはギルドにおいての必要事項を伝えるためだ。どうやら、知識に偏りがあるようだからな」
ギルドマスターはフーヤとレクスルの顔を順にジロジロと眺めると、ほうと息を吐き出す。
「まず、説明するのは狩猟ギルドの仕組みについてだ。あまり、知らない者も居るみたいだからな」
そのギルドマスターの言葉にレクスルとルーン=ルナティックの視線がフーヤに集まる。
「・・・・・・何故、此方を見る」




