35.買い出し⑤
「案外あっけなかったな」
レクスルは色々考えたのである。
人質を危険にさらすことがないように、犯人を逃さないように。
そして考えた結果、部屋の中に入る前に全員を拘束してしまえばいいという結論に至った。
レクスルの電気ショックは一回使うごとに一人しか気絶させられない。
そこで、体重をかけるとギシギシ鳴りそうになる板張りの床に目をつけた。
要するに種の時と同じである。
そこから木が伸びて、男たちに絡みついて動けなくする。
そして、その想像した情景の通りになるように魔法を使用した。
結果は成功。
何が起こっているか分からない男たちの怒号が少しうるさいが、逃げ延びる者も一人もおらず、9人全員捕まえることが出来た。
「こんにちは」
レクスルが挨拶すると、水を打ったように静まり返る。
「誰だお前」
リーダーなのだろうか、頬に古傷がある男が問いかける。
「勇者、とだけ名乗っておこう」
「勇者だぁ?何をふざけたことをっ!?」
レクスルが黙らせる意味をこめて電気ショックを放ち、リーダーらしき男が気絶する。
誰かの唾を飲む音が聞こえた。
◇ ◇ ◇
「──という訳で無事に片付いた」
「そうか」
レクスルはフーヤに先程の出来事を椅子に座りながらも報告する。
フーヤは寮の自分の部屋で寝転り本を読みつつもなんだかんだでレクスルの報告を聞いていた。
「フーヤが居なくとも、なんとかなるな。工夫は必要だが」
「レクスル、何故か自己肯定感低いようだけど、既に充分なくらい実力あるから」
フーヤはそれだけ言うと小さく欠伸をする。
「そうか?俺は師匠には到底及ばないし、俺より強い人間なんて他にもごまんと居るだろう」
「・・・・・・ユウレイルさんは人間辞める一歩手前くらいだから。比較対象としては微妙だから」
フーヤはパラリと本のページをめくる。
「そうか?動きこそ早いが確実に不可能なことをやってる訳ではない。目標とするには悪くはないと──」
バタと音を立てて、仰向けに寝ていたフーヤの手から本が落ちる。
「どうした?」
「・・・・・・推しが、退場した」
フーヤの言う退場とは死を意味する。
ぼかして言うことでまだ生きているという希望を持てるとのことだが、フーヤが憔悴しているところを何度も見ているレクスルからしたらぼかして言うことに意味があるのかは分からない。
「またか?確か推しってフーヤの好きな登場人物のことだったよな?」
「死亡フラグ打ち立てても回避していくから安心してたら、フラグも無しに格好良く退場していった・・・・・・」
「・・・・・・そうか、そのふらぐとやらが何かは分からないが残念だったな」
なお、フーヤの推しが退場するというのは割とよくあることなのでレクスルも慣れてしまっている。
「なんで・・・」
フーヤに動く気配がないことを悟ったレクスルが立ち上がろうとした。
「フーヤくん!レクスルくん!居るかい!?」
テンション高めに部屋の扉を開け放ったのはルーン=ルナティック。
「居ません」
驚きで固まっているレクスルを他所に、ルーン=ルナティックを見るまでもなく即答するフーヤ。
「居るじゃん、返事もしてるし」
ルーン=ルナティックは部屋に一歩入ると柔らかい微笑みでレクスルを見つめる。
「聞いたよ。少女誘拐してた屑どもを一掃したんだって?」
「はい。しかし、つい先程の情報なのに何故既にご存知なのでしょうか?」
口元をほころばせながら、レクスルが首をかしげる。
「それは勿論、女神だからね。知ろうとした事は全て知る事が出来る」
「・・・・・・犯罪に使えそう」
フーヤが天井を見ながらつぶやく。
なお、気を紛らわそうと天井のシミを探してみたが流石に貴族が利用する寮にはシミひとつ無かった。
「フーヤくん、確かに何でも知る事は出来るが流石に犯罪はしないからね。私の事を何だと思って」
「ヲタ女神」
「フーヤくんはいつまでその呼び方・・・・・・まあいい。用事があって来たから要件を言う」
ルーン=ルナティックはわざとらしく咳払いをする。
「例の狩猟ギルドの研修の日が決まったよ。今日これから」
「急すぎ」
「仕方ないでしょ、私も知らされたのついさっきだから。超特急で知らせに来たよ、これでも」
ルーン=ルナティックはため息をつきながら告げる。
よく見たら髪が少し乱れているので急いで来たというのは本当のことだろう。
「だから、今直ぐ行くよ」
「分かりました。フーヤ、行くぞ」
「・・・・・・行かないという選択肢は?」
フーヤは起き上がる様子もなく、脱力したままつぶやく。
「ない。お望みなら引き摺っていくけど」
レクスルの言葉に顔をしかめるとフーヤは勢いをつけて起き上がる。
「行く。どうせ、傷心状態では続きも読めないから」
「よし、では出発!」
ルーン=ルナティックの声が響いた。




