31.買い出し①
いつもより早いですが、投稿を忘れそうなので今投稿させていただきます。
「フーヤ、わざわざ街まで来て何をするんだ?」
フーヤとレクスルは二人で街の市場まで来ていた。
狩猟ギルドの研修はもう少し先であり、卒業認定は認められたため、学校の授業に出る必要もなく、精々寮に置いてある荷物をまとめるくらいしかやることがなかった。
そんな中、唐突に街に行こうとフーヤがレクスルを連れ出したのである。
「買い出し。これから必要な物を買う」
「買い出しって、何を買うつもりだ?食料とかは買うの出立前でいいだろうし」
「いや、食料は買って問題ない」
フーヤの言葉に首をかしげるレクスル。
「食料は傷む可能性が高いから辞めた方が・・・」
心配そうなレクスルをよそに新鮮な野菜を眺めつつもフーヤは告げる。
「ルーン=ルナティックに与えられた能力に『異空間収納』がある」
ルーン=ルナティックの名前を出した途端、レクスルの顔つきが変わる。
「この『異空間収納』はわざわざ荷物を抱えて運ぶ必要が無いだけでなく、収納した物は劣化したり風化したり傷んだりしない。収納してる間は時間の経過が無い。つまり、新鮮な物を買っても何も問題ない」
フーヤは『異空間収納』について、イメージ通りの性能なのか検証していた。
これまでの人生で検証する機会は思う存分あったし、なんとなくしか性能を把握してないのはいざという時に困ることが予想出来たからである。
「ルーン=ルナティック様、そこまで見越してフーヤに能力を与えて下さったのかもな」
いや、何も考えてないぞあの女神。
そんな言葉が出そうになったが慌てて飲み砕く。
そもそも、フーヤの能力はルルイエッティが与えたものなのでルーン=ルナティックに与えられたというのは真っ赤な嘘である。
なら、何故そのような嘘をつく必然性があったかというとレクスルがルルイエッティに対して微塵も興味を抱いていないからである。
一応、ルルイエッティはこの世界の創世教の創世神ではある。
だがレクスルは完全にルーン=ルナティックを敬っているため、鞍替えするためにわざわざ創世教を脱教してきたらしい。
入信してようがしてなかろうが対して生活が変わらない宗教に脱教という概念があったことに驚きだが、フーヤ自身も宗教は苦手ではあるのでついでに脱教しておいた。
脱教の影響は精々教会が使えなくなる程度で、教会でやれることはといえばお祈りの他には怪我の治療程度である。
しかし、フーヤが治癒魔法を使えるため、教会を頼る必要性はない。
教会によっては薬草の栽培なども行っていたり、貧困層に向けた炊き出しをしているところもあるそうだがだからといって入信していようという思考にはならないだろう。
特に宗教に馴染みのないフーヤは。
閑話休題。
レクスルに話をする際にはルーン=ルナティックの名前を出すのが一番早く進むのである。
何故ここまで慕っているのかについては恐らく一目見た時の一目惚れだろうとフーヤは予測している。
とはいえ、フーヤからしてみればルーン=ルナティックが慕われているというのも何処か釈然としない。
「フーヤ、とりあえず日持ちのする干し肉とかも必要だと思うのだが・・・」
その言葉にフーヤは思考の海から引き戻される。
「何故?新鮮なものでも傷む心配はないから──」
「もし、他の人と行動を共にするとなった時に怪しまれるだろうからな。その『異空間収納』で物を運んでいること自体は誤魔化しが効くだろうが、食物に関しては誤魔化しが効かない。これから先、何が起こるか分からないから必要なことだろう」
「・・・こういう時、レクスルが居て良かったと思う」
純粋にその発想はフーヤには無かった。
確かに、一時的に他の人と共に行動する必然性が出てくることもあるだろう。
そういう時に怪しまれるような行動をしてしまうことは今後を考えると非常に良くない。
フーヤの最終目標である隠居生活にも支障が出る可能性がある。
新鮮な物だけを買うつもりだったので危なかった。
「・・・フーヤが素直に褒めてくれるのは珍しいな」
「うるさい、とりあえず食料を大量に買い込んでおこう。お金の心配はしなくていい、ルーン=ルナティックから貰ってる」
「ルーン=ルナティック様から・・・」
レクスルはルーン=ルナティックの慈悲の心に感激しているようだが、実際はくれるつもりなどルーン=ルナティックには微塵もなかった。
単に、いつもの本を届けるのが遅くなったことにつけいってフーヤがゆすっただけである。
多少これまでの恨みつらみを乗せてくどくどと詰め寄ったら観念したようにお金を渡してくれた。
なお、この世界にはその国だけで使える硬貨と全ての国共通の硬貨の二種類があり、ルーン=ルナティックがくれたのは勿論全ての国共通の硬貨である。
白金貨、金貨、銀貨、銅貨があり、全ての国共通の硬貨を基準として各国の硬貨の価値は異なる。
なお、フーヤの前世の円で硬貨の価値を計ろうとしたこともあったが物の価値が前世の感覚とこの世界では異なる部分も多く、未だに納得出来る比較は出来ていないので比較することは諦め気味である。
「とりあえず、手分けしよう。レクスルは日持ちするものをいくつか見繕ってくれ。僕はその間に大量に新鮮な食材を買い込むから」
フーヤはレクスルに銀貨を三枚渡す。
「少し多くないか?」
「まあ、日持ちするものは数はいらないけど、割と高めな値段のところが多いからね」
なお、ルーン=ルナティックから渡された分からすれば銀貨三枚は端金である。
ちなみに、具体的な数字にすると銀貨六百枚をルーン=ルナティックから渡されている。
これから、狩猟ギルドでの稼ぎもあることを考慮すると充分すぎる金額なのは間違いない。
「それじゃあ、それぞれ買ったら広場で落ち合おう」




