27.卒業認定②
「39分54秒・・・結構保ったな」
ユウレイルはストップウォッチを覗き込みつつ告げる。
ちなみに、このストップウォッチはフーヤの前世にあったものと同じらしい。
「お茶してる時間、充分あった・・・」
フーヤは直ぐに消えると踏んでいたようで、かなり続いたことに驚きを隠せない。
番傘の上には巻き上げられた砂が降り積もりつつあり、日の光を避けるのが目的であった訳では無いと示している。
「とりあえず、このくらいのことは出来るという訳だ」
ユウレイルがフーヤを見る。
「後は、出力の調整だな。暇だし、今から見ておいてやる」
「・・・帰って本読みたい」
「ルーンみたいな事を言うんだな・・・というか、どうせ独学でこれまでやって来たんだろ?この先、生きていく事を考えたら必要なことだ」
フーヤの魔法の技術が独学というのは本当の事である。
魔法学校に入る前、本を読んでいて魔術書を発見するたびに試していた。
魔法学校でも、教わらなかった訳では無いのだが、独学でやってきたやり方の方が合っているようで結局独学のまま突き進んでいる。
「魔法学校で教えているやり方よりも余程効率が良いやり方ではあるが、多少直した方がいい部分もある。レクスルのように厳しい特訓をする必要こそないが、やっておいた方がいい」
フーヤは暫く無言を貫いた後、しぶしぶうなずいた。
◇ ◇ ◇
「レクスル、お帰り」
何故か満身創痍といった感じのレクスルを見て、フーヤは声をかける。
フーヤはユウレイルの指導を軽く受けた後、直ぐに寮の自分自身の部屋に戻してもらい、意気揚々と読書に耽っていた。
なお、最近のフーヤが読んでいるのはルーン=ルナティックに持ってきてもらったライトノベルばかりである。
「フーヤ、ルーン=ルナティック様って偉大な方だよな・・・」
「・・・とりあえず、休んだ方がいい」
完全に目が焦点を結んでいない。
フーヤはレクスルの肩を掴むと問答無用で放り投げるようにベットに倒す。
フーヤはシーツをレクスルにかけると、おやすみとつぶやきながら部屋を出る。
「優しいところあるね。まあ、私としてはベットに押し倒してくれても──」
「僕は面倒が嫌い。だけど、レクスルは友人だから、助けたいと思う。それだけだよ」
フーヤはほうとため息をつくとルーン=ルナティックに近づく。
ニヤニヤと笑みを浮かべるルーン=ルナティック。
後ろの窓から月の光が差し込む。
「僕は僕のやりたいようにやる。はっきり言って、誰かを助けたいなんて殊勝な心掛けなんてない。それでいい?」
「それを分かってて、話を持ちかけた。だから構わないよ。フーヤくんのやりたいようにやって・・・それはそうと、ベットはレクスルくんに貸しちゃったみたいだけど今夜はどうするつもり?」
「散歩でもするよ。寝ないくらいどうという事もないし」
寮の廊下は木張りの床なので、場所によっては軋んだりする。
そんな廊下音を立てずに歩くのは、中々にゲーム感覚で楽しめる。
何度か夜の散歩をした事があるが、夜間外出禁止の中バレないように抜け出すのは中々に面白く、フーヤの数少ない娯楽になっていた。
「睡眠は大事だから寝なさい。寝床はとりあえず私の隠れ家のものを提供するから」
隠れ家といえば、レクスルが勇者であると告げられた後に行った蔦に覆われた赤レンガ造りの廃墟のような家だろう。
「・・・嫌」
顔を歪めてそれだけ告げるとフーヤは歩き出す。
「夜間外出禁止のはずだし、告げ口しようか?」
「・・・卑怯では?」
苦々しい顔つきのフーヤに微笑みかけるルーン=ルナティック。
「どうとでも言えばいいよ。というか、フーヤくんは単純に寝るのか下手なだけでしょ?睡眠薬、特別にあげるから」
「・・・それなら」
フーヤは渋々といった風に頷く。
寝るのが下手という表現が正しいのかは分からないが、寝付きが悪いというのは本当である。
原因は分かりきっているが、前世絡みであるしどうしようも無い。
前世では頻繁に睡眠薬に頼っていたが、この世界で睡眠薬のようなものは、フーヤが調べた限りではどうやら存在しないらしい。
フーヤは、いつも持ってきてもらう本やこの前見たストップウォッチをぼんやりと思い出していた。
前世の物をあっさり持ってきていたことだし、今回も前世の世界から持ってきたのだろう。
そう思ったフーヤの前に出されたのは。
「はい。この世界にある薬草を混ぜ合わせて調合した薬。また、明日にでも作り方教えるね」
「・・・この世界にも、あったのか」
フーヤは微かに微笑みながら小瓶に入ったドロっとした緑の液体状の薬を受け取る。
「この世界、薬学の発展遅れてるからね。中々見つからなかったのも仕方ない。本当はこんな物に頼らずに寝れればいいんだろうけど無理でしょ?」
一応疑問形という形で問われたその質問は、問い掛けたルーン=ルナティック自身答えが既に分かっているようで。
なんとなく答えるのが億劫になったフーヤは、頷くと歩き出す。
「それにしても、薬を飲む事に忌避感は無いんだね」
この女神は何処まで知っているのだろうか。
そんな事を考えつつも、フーヤはつぶやいた。
「睡眠不足の方が厄介だから」




