25.挨拶③
「ゾーン兄さん、それって僕が兄さんと剣で戦うって事?」
「そうだ」
「・・・ゾーンよ。確かフーヤは剣が苦手であったように思うのだが、それを承知の上で言っているのか?」
ロイホード公が呆れたように言う。
「でも、いいのでは無いかしら?」
そう言ったのは、これまでにこにこと事の成り行きを見守っていたロイホード夫人。
「確かにフーヤは剣は苦手ですけど、ゾーンの腕前くらいもいなせないようでは不安が残るでしょう?丁度いいではないですか」
「今日は遅いし、明日にでもやればいい。立ち会い人はする」
アルムがそう告げると、シェーンが笑顔で言う。
「フーヤ兄さんとゾーン兄さんの決闘だなんて、面白そうですね」
「全く、面倒ですがそれで兄様が納得するなら・・・ところで、フーヤは決闘を受けるという事でいいのですか?」
クリシスが米神を押さえつつフーヤに視線を投げかける。
「いいよ。面倒だけど」
◇ ◇ ◇
「フーヤ、ところで勝てそうなのか?」
食事が終わり、レクスルを客間に案内してる道中にレクスルはそう問いかける。
「そういえば、フーヤが剣を使っているのは見たことないのだが」
「普段手を抜いてるだけで、それなりには使える。まあ、会わない間に成長はしてるだろうけど、たぶん勝てる」
「・・・そういえば、師匠に特訓されて無かったよな。もしかして、もう特訓の必要がない熟練度なのか?」
「流石に上には上が居るだろうけど、特訓の必要は無いって判断されたみたい」
フーヤはユウレイルに言われた事を思い出す。
言われた通りに魔物図鑑を読んでいた時、ユウレイルは態々レクスルの特訓の合間にやって来ていたのだ。
その時に普段は手を抜いている事を見抜かれた上、剣の腕も魔法主体で戦っている者としては充分過ぎるくらいであると太鼓判を押されたのである。
最も、その後無理矢理引っ張られた先で行われた模擬戦で、フーヤは見事なまでに呆気なく負けたのだが。
ちなみに、その時のレクスルはユウレイルいわく疲労でぶっ倒れていたそうだ。
「師匠にその評価って、俺より強いって事じゃ・・・」
「そうとも限らない。レクスルの場合、剣主体で戦うだろうから求められる基準が高いと思う」
「・・・まあ、明日の戦い見ていれば分かるか?」
レクスルは考え込みながらもつぶやく。
「・・・期待しないでよ。そんな大したものじゃないから」
◇ ◇ ◇
「二人とも、用意はいい?」
アルムの言葉にうなずく二人。
模擬戦用の木剣を構える。
「では、始め!」
カーンと音を立てて、ゾーンの手から木剣が弾かれる。
「なっ!?」
驚くゾーンの動きが鈍くなったのを感じつつ、フーヤはゾーンを腕を掴み、ひねるようにして地面に押し付ける。
そして、喉元に剣先を突きつける。
「勝者、フーヤ!」
実にあっさりと決着が着き、茫然とするゾーン。
フーヤはさっさとゾーンの上から退き、身体を伸ばす。
「フーヤ、見事だった」
「レクスル、ありがとう」
フーヤとレクスルがそう言葉を交わす。
「まあ、こうなりますよね」
クリシスがうなずく。
「フーヤ兄さん、凄いですわ」
シェーンもフーヤの元へ駆け寄り賛辞の言葉をかける。
「私は、認めない・・・」
倒れたままのゾーンが呻くように言う。
「兄貴、流石に往生際が悪い」
アルムは無表情でゾーンを引っ張り起こす。
「フーヤ、腕を上げたな」
「流石私たちの息子ですわね」
ロイホード公とロイホード夫人が口々にそう言い、フーヤを抱き締める。
フーヤは無表情ながらにも柔らかい声で言った。
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
「そういえば、兄弟から見たフーヤってどういう奴なんだ?」
ロイホード公とロイホード夫人が職務に戻り、クリシスもそれを手伝いに行っている。
それ故にこの応接間に居るのはフーヤとレクスルの他にゾーン、アルム、シェーンの三人である。
其々椅子に腰掛けて、お茶とクッキーに似ているキュルというお菓子を食べている。
「嗚呼、フーヤは天才だよ。頭も良いし、剣技も素晴らしい。努力家だし、判断力もある、神に愛されし子と言っても過言ではない!」
ゾーンがそう答えるのを聞いて、フーヤは苦笑いする。
「兄貴の言葉はともかく、俺としては本が好きな奴という印象だな」
アルムがレクスルの剣を眺めつつ言う。
「驚くほど多彩です。私としては、もう少し弱点のようなものがあってもいいと思うのですが・・・」
シェーンはそう言うと、お茶を飲む。
「まあ、フーヤ兄さんは目立つのがお嫌いなのでそれは弱点と呼べるかもしれないですね」
「目立ちたくないから、成績わざと落としてもいいかって聞いてきた時は驚いたな」
アルムの言葉に思わずフーヤを見るレクスル。
「目立つのが嫌だからって、私の元で自堕落生活送るのも却下されたからなぁ・・・私としては全然構わなかったし、フーヤの性格的に働きたくなさそうだからいけると思ったのに」
「兄貴、そんな事言っていたのか」
「アルム兄さん、ゾーン兄さんのフーヤ兄さんが大好きでたまらないのは最早病気の域なので気にしても無駄だと思います」
アルムとシェーンが呆れたようにゾーンを見る。
「フーヤ、大変だな」
「レクスル、憐れむような目線辞めてくれ」




