23.挨拶①
「顔を上げよ」
厳粛な雰囲気が漂う、王城の謁見の間。
綺羅びやかというよりは、赤で統一された落ち着いた部屋と言った感じだ。
王の前でひざまずいているのはレクスルとフーヤ。
何故、このような状況になっているかというと、ルーン=ルナティックが置いていった今後の予定に其々の両親に挨拶なる項目があったからである。
しかも、ご丁寧に行く日にちまで設定してあった。
要するに、各方面に既に話を通してあったのである。
そして、フーヤはすっかり忘れていたがレクスルは庶子とはいえ王族である。
となると、国王に挨拶という事となり、結果的に謁見といった形になったのである。
ただし、謁見の間に居るのはレクスルとフーヤ、国王の他には護衛の近衛兵が二人居る程度で他の人間は居ない。
形式ばっているように見えて、正式なものと比べると割と砕けている。
ちなみに、レクスルには母親が異なる兄が五人と姉が三人居るそうだがここには居ない。
それに関して更に言及するならば、正妻と側室を二人ほど王は従えており、妻同士の派閥争いが絶えないそうで兄弟仲は悪いらしい。
レクスルの母親に関しては、王付きの世話係の一人であったらしく、出産の際に亡くなっている事も相まって妻としては数えられていない。
故に、レクスルは庶子として扱われている。
「レクスルよ、我が息子が勇者として選定された事を喜ばしく思う。ただし、公に出来ぬ故、名の方は今まで通りヴェルトの性を名乗るがよい」
「ありがとうございます」
ただ、これで砕けているといっても普通であれば信じられないといったところだ。
親子の会話にしては、距離が開きすぎている。
「フーヤ=ロイホードだったか」
「はい」
「レクスルの事を宜しく頼む」
◇ ◇ ◇
「フーヤ、付き合わせて悪かったな」
レクスルが身体を伸ばしながら言う。
条件として、二人で行く事というのが付け加えられていたため、こうして二人で来ているのである。
ちなみに、レクスルもフーヤの両親のところへ共に行くことになっている。
「別に謝る事じゃない。それにしても、よそよそしい感じがしたが」
「・・・実際に顔を合わせる機会なんて、3回目くらいだからな。まあ、俺の事を煙たがっているんだろうから仕方ない」
フーヤはその言葉を聞き、目を瞬く。
「いや、愛されてると思う」
レクスルはフーヤのその迷いの無い言葉に動きを止めるほど驚く。
「何故、そう言い切れるんだ?」
「本当に煙たがってるのだとすれば、宜しく頼むなんて言葉は出てこない」
レクスルはそれを聞いて不器用に微笑む。
「そうだと、いいな」
それに、とフーヤは心の中で付け加える。
レクスルが何とも思われてないのであれば、あんな慈しむような顔見せないだろう。
◇ ◇ ◇
「それにしても、フーヤから家族の話なんて聞いた事無いが、どういう感じなんだ?」
これまで、フーヤとレクスルは其々の家族の話はした事が無かった。
レクスルの方の事情もなんとなく感じていて、フーヤが話を振らなかったこともあるが、フーヤ自身あまりそういった話題が得意で無かったこともある。
レクスルが知っているのは、ロイホード家は小さな領地を王都の直ぐ近くに持っているという事だけである。
「・・・愉快な家族だよ」
フーヤは少々ムスッとしたまま答える。
馬車に揺られつつも、フーヤは手元の閉じたままの本に目をやる。
「愉快って、家族に対して言う事なのか?」
フーヤは特に何も答えずに窓の外を見る。
そう、愉快なのだ。
前世とあまりにも違い過ぎる。
酷く居心地が良すぎるし、その暖かさに息苦しくもなる。
もしも、これが当たり前だとするならば、フーヤは前世の自分を憐れむことになるだろう。
◇ ◇ ◇
「フーヤ!会いたかったぞ!」
「兄さん、苦しい」
フーヤとレクスルが馬車から降りた途端、フーヤは抱き締められる。
フーヤを抱き締めているのは、ロイホード家の長男であるゾーン=ロイホードだ。
文武両道で、その優秀さ故に子爵という位に収まる器では無いと目されている。
既に外交方面の官僚として才覚を表しているそうで、王都の近くとはいえ小さな領地の領主になるのはもったいないとか言われているそうだ。
しかし、フーヤからしてみれば重度のブラコンを拗らせている面倒な兄である。
しかも、対象が何故かフーヤにしか向いていない。
「兄貴、その辺にしておきなよ。フーヤが嫌がってる」
その言葉を聞いて、渋々フーヤを離すゾーン。
声をかけた本人は、それを見届けると手に持っている短剣を磨く作業に戻る。
「アルム、せっかくフーヤが帰ってきたのにその態度は無いだろう」
「ところで、フーヤ。何か珍しい剣でも見つけなかったのか?」
アルム=ロイホード。
珍しい剣や槍、弓、武具などそういったものを収集し、眺めるのが好きである。
フーヤの前世風に言うのであれば所謂武器ヲタクといったところだろう。
筋肉の付き方からいって武闘派という訳では無いが、好きが高じて王立騎士団の指揮官のひとりに収まるくらいには優秀である。
「・・・アルム兄さんの収集物の中に入れるわけにはいかないけど、レクスルの持つ剣は珍しいものだったはず」
フーヤがそう言い終わらない内にアルムはレクスルの隣へと瞬く間に移動する。
ちなみに、レクスルの持つ剣は聖剣という訳では無く、例の私物の剣である。
有名な職人が作ったものなので、恐らくアルムの期待には答えられるだろう。
「見せてもらっても?」
「お、おう・・・」
凄まじい勢いに気圧されつつもレクスルが承諾すると、殆どひったくるようにしてアルムはレクスルの剣を手に取る。
「これは・・・素晴らしい!まさか、あの職人の作が見られるとは!」
「アルム、止せ。客人に対してみっともない」
「兄貴も、フーヤに抱きついた地点で同罪だろ」
「なんだと」
軽く口論が始まるゾーンとアルムを見て、ため息をつくフーヤ。
「なんというか、フーヤの家族って感じがするな」
「レクスル、それどういう意味?」




