22.岩穴の主③
「サフィー、否定は出来ないけど。災厄の女神と呼ぶのは辞めてくれないかな?」
ユウレイルの視線が鋭くなる。
「災厄の女神というと、ルーン=ルナティック様の事ですか?」
レクスルが少々訝しげに聞く。
「そうだ。あの女神は神にしては話の分かる部類には入るのだがな、如何せん関わった者の多くが不幸に見舞われる。死ぬか死んだ方がマシだと思えるような地獄を経験するか・・・ユウが死なないのが不思議に思えてくるほどだ」
「ルーンは誰かが死ぬ事なんて望んでいないし、それを防ぐために行動する。まあ、それが実を結ぶかは別の話だけど」
淀みなく答えつつも、ユウレイルの表情は固い。
「まあ、女神としての役割に死神とか破壊神とかもあったからどうしようも無い部分がある事は否定しないけど」
「一寸待て、死神とか破壊神は駄目だろ」
フーヤは思わず口を挟む。
「そうか?俺なら、ルーン=ルナティック様のような素敵な相手に魂を刈り取られるなら願ったり叶ったりなんだが」
「レクスル、命は大切にしろ。あと、必要な分だけだからな。世界の維持には破壊からの再生というものが必要というだけであって。世界の理というものは神でもというか、神だからこそ曲げられないみたいだし、そのためにも必要な事なんだよ。まあ、割とろくでもないことになってるのは否定しない。元々、ルーン自身変わり者だし」
ユウレイルが微妙に説教臭い事を言いつつ、頭をかく。
「充分過ぎる程、我が心配してる理由を分かっておるではないか。さっさと別れろ」
サフィーはそう言い捨てると顔を背ける。
「いや、好きだから付き合ってる訳だし、大体別れたら世界のひとつやふたつ滅びてしまう」
「脅されてるのと変わらないような・・・」
フーヤのそのつぶやきに、ユウレイルは眉をひそめつつも言う。
「僕はルーンのことを愛してるから。たとえ、世界の全てが敵に回ろうとも必ずルーンの味方で居る」
「そういう言葉は本人の前で言ってよ」
その言葉と共にルーン=ルナティックが現れる。
「古竜サフィー殿。協力感謝します」
「他ならぬユウの頼み故、快く引き受けただけの事。そなたが憂う必要はない。それで、何の用だ?」
「実は、別の世界が滅びそうになってて、人手が足りないからユウレイルに手伝って欲しいなと」
ルーン=ルナティックはユウレイルの手を引きつつ言う。
「ほう、何故滅びそうなのだ?」
サフィーの言葉にルーン=ルナティックは苦笑いする。
「新しめの神がやらかした出来事の後始末が全部回ってきてる。あの世界は滅ぶにはまだ少し早いし、救わないと」
「それなら仕方ない。レクスル、フーヤ、帰りは魔法の使用を許可するから。二人で帰ってくれ」
ユウレイルは物質にしていたフーヤの本を返すと、ルーン=ルナティックの手を握る。
「フーヤくんとレクスルくんの今後については予定を書いた紙をそれぞれの部屋に置いておいたから読んでおいて。それと、魔王倒せないとこの世界も滅ぶ危険性あるから」
「重要な事をさらりと言うな」
恨みがましく聞こえるフーヤの声を聞きつつ、ルーン=ルナティックとユウレイルは共に消え去った。
文字通り、光に包まれたかと思うと居なくなっていた。
「あの女神は行動が読めん。話が通じる分だけましではあるがな」
「質問してもよろしいですか?」
フーヤが口を開く。
「改めなくとも良い。何だ?」
「他の神に会った事、あるんですか?」
「あるぞ、何なら破壊神の奴とは呑み友達だ」
「予想以上に物騒な神だな」
「そうでも無いぞ?壊すの嫌だとか愚痴を垂れておった」
「向いてないだろ、破壊神」
「そういえば、創世教では神は唯一だとされていたけど、そんな事も無いんですね。ルーン=ルナティック様だけが特別なのかと思っていましたけど」
唐突に発せられたレクスルの言葉に、そういえばそうだったとフーヤも思い返す。
ちなみに、フーヤは前世の日本人の感覚が抜けていないせいで神が唯一という考え方に馴染めていない。
「嗚呼、あの創世神とか宣う女神は好かん。馬鹿過ぎるし、この世界を司る神と知って残念に思った」
「・・・各方面から嫌われてるなあの女神」
フーヤが苦笑いする。
ユウレイルといい、サフィーといい否定的な意見だし、フーヤ自身も良い印象は無い。
「まあ、神というのも色々だからな。一応、古竜という存在自体も神に近しい存在にあたる。それに、紛い物の神なんていう災いしかもたらさない者もおるし、それに比べれば神格がある分マシというものよ。神格持ちでも厄介な奴が居ない訳では無いが」
「だから、詳しいのか」
神との交流がある地点で、古竜という存在は特別なのだろう。
他の神とも交流があるところから察する事が出来る。
「さてと、レクスル。そろそろ帰るか」
「いいのか?フーヤの事だからもっと聞きたい事とかあるんじゃ」
「今のところはこれだけでいい」
「加護は既に授けておいた。お前たちの事は気にいったし、何時でも来るがいい。必要とあれば、手も貸そう。これでも人間の姿をとれたりするのでな」
「ありがとう。では、良い日々を」
フーヤが丁寧な別れの挨拶をすると、レクスルも頭を下げて感謝の意を示す。
「また、会おう」
フーヤとレクスルはその場を去り、崖のところへと行く。
「じゃあ、降りよう」
フーヤはレクスルの手を握る。
「フーヤ、まさかこの崖を落ちる気か?」
「大丈夫、魔法が使えるなら怪我しないよ?」
「そういう問題じゃない。大体、この前の二階とは違って高さの桁が違うのだが」
「いくよ」
「いや、ちょっと待て」
フーヤは問答無用でレクスルと落ちる。
崖にレクスルの悲鳴が響き渡った。




