21.岩穴の主②
「フーヤ、大丈夫か?」
レクスルの言葉に返事する事もなく、フーヤは倒れるように身体を横たえる。
いくら休憩したとはいえ、繰り返しになるがフーヤは体力がある方では無い。
しかも、特訓の一貫とのことで魔法を使う事も命に関わらない限り禁止されているため、魔法で負担を減らすという事も出来ず、崖を登るのは苦しい道程であった。
一方で、レクスルは息は切れているもののフーヤのように満身創痍というわけでもなく、ユウレイルにいたっては汗一つかいていない。
「息整えられるまで待つ。そしたら行こう」
ユウレイルは腰に巻いてあったポーチから布に包まれた何かを取り出す。
「師匠、それは何ですか?」
「手土産だよ。これから会う相手へのね」
レクスルの質問に手短に答えつつ、ユウレイルは布を外していく。
出てきたのは青い宝石。
原石に近い形ではあるが研磨等は行われているらしく鈍く光り輝いている。
かなり大きく、価値をつけるとしたらいくらになるか分からないような代物だ。
「綺麗ですね、どんな名前の宝石なのですか」
「サファイアだ。ルーンに手伝ってもらって探し出してきた。まあ、特別な力があったりはしないが、喜んでくれるだろう」
「ところで、誰と会うか教えてくれませんか?師匠」
「それは会った方が早い。そろそろ大丈夫そうか?フーヤ」
フーヤはよろよろと起き上がるとつぶやく。
「・・・なんとか」
「なら、行こう」
ユウレイルが歩き出す。
その先にあったのは、洞窟の入口。
場所は崖の上に着いた地点で明白であったため、四の五の言う事もなくついていく。
「サフィー、居るかい?」
中に入るなり、ユウレイルが声高らかに呼びかける。
洞窟と思われていたその場所は正確にはゴツゴツした大きな岩の中をくり抜いたもののようで、研磨されているらしき壁は滑らかで光沢があった。
奥の方には、宝物があるのが見てとれる。
そして、そんな場所の主である者は目の前に横たわっていた。
「久しいな、ユウ」
「そうだな」
首をもたげ、その顔をユウレイルに近づけるその者は口を開くことなく音を発していた。
その身体は光沢のある鱗におおわれ、人の何十倍も大きく、爪は鋭く鈍い光を放っている。
「フーヤ」
「古竜か。どうりで、敵意向けないようにとか散々言うわけだ」
古竜。
ドラゴンと勘違いされる事もあるが、まったくの別物である。
人の言葉を操り、魔法を操り、世界の行く末を占う。
討伐対象となるただ暴れるだけのドラゴンと異なり、人が行くのが困難な場所で暮らしている。
信頼出来る人物にのみ、自身の場所を知らせるとも言われており、その力を借りる際は土産として宝物を持参するとよいと聞く。
「ユウ、後ろの者が今代の勇者とその連れか」
「そうだ」
「二人か・・・まあ、旅の途中にでも自ずと増えよう」
ユウレイルにサフィーと呼ばれたその古竜はうなずきつつも、ユウレイルの手にある宝石に目をとめる。
「サファイアか!我のコレクションに相応しきものが加わるのだな」
ふわりとサファイアは浮かび上がり、サフィーの後ろの宝物の山に加わる。
「サフィー、頼む」
「分かっとる」
サフィーが目をつむり、力を籠めるとサフィーとフーヤたちの間にある地面が地響きと共に割れ、中から剣が現れる。
白銀のその剣は装飾はほとんどなく、柄の部分に赤い宝石がはまっているもので飾らない美しさを体現したような代物であった。
「聖剣だ。勇者レクスルよ、持ってゆくがよい」
レクスルが聖剣を引き抜くと、実にあっさりとレクスルの手に聖剣はおさまった。
ユウレイルが差し出した鞘に聖剣を入れたところ、驚くほどぴったりであった。
「聖剣って、こんな感じで手に入れるものなんだ」
フーヤの言葉にサフィーはカラカラと笑う。
「本来は人間が一日程儀式をして完成させる物なのだがな、技術が失われてしまっておる。それに、魔王は我らを殺し得る数少ない存在故、その消滅は早ければ早いほど良い。ついでに加護も与えてやる」
「え、いらない」
「フーヤ、失礼だぞ」
加護という言葉を聞き、反射的にそう言ったフーヤをレクスルがたしなめる。
「素直に受け入れておけ。特に体力のないフーヤはな」
ユウレイルは苦笑いしながらもそう告げる。
「何故?」
「体力切れで喘いでいただろ。『体力増強』と『身体強化』だから受け入れた方がいい」
確かに文字通りの効果であるならば、体力の無いフーヤにとっては願ってもない事だろう。
「・・・その『身体強化』はレクスルの持つ『身体能力強化』とは何が異なるのです?」
「確か『身体強化』はただ単に身体が頑丈になるだけだったかな。『身体能力強化』の方は反射神経とか筋力とかその辺りの強化だし、だいぶ違う」
「一寸待て、俺の持つ能力ってどういう事だ?」
レクスルのその言葉にユウレイルは目を瞬く。
「説明して無かったか。勇者には『身体能力強化』と『魔力制御補助』の能力が与えられる。まあ、僕の特訓も能力制御の意味合いもあったし、難なく使いこなせてるようだから何も心配しなくていい」
「なあ、前から思っていたが何故か俺だけが知らない事が偶にあるよな」
「気の所為だよ」
顔を明後日の方向に向けつつもフーヤはつぶやく。
「フーヤ、思いっきり目泳いてるからな」
そんな話をしていると、唐突にサフィーの声が響き渡った。
「ユウ、まだあの災厄の女神と共に居るのか?」
【ちょっと解説】
古竜は神と同等に神聖視されると共にその力から畏敬の念を持って祀られている。人間と意思疎通が出来るなどドラゴンとは異なる存在ではあるが、知識の無い者からすると大差ないらしく襲いかかられることも無いわけではない。圧倒的な強さを誇るが無敵というわけでは無く、子孫を残し難い性質や老衰により数を減らしている。まだ、個体が生き残っているのは寿命が長いからであり、子孫を残せる個体は既に死に絶えたらしい。




