20.岩穴の主①
「それにしても、フーヤがまさか転生者とは思わなかった。まあ、そうだとするならばあの強さは納得だがな」
「僕としては、レクスルが勇者とか聞いた時も驚いたけど。それに、転生者が伝説の存在とか知らなかった」
「まあ、書物に残されたりしない口伝の御伽噺にほんの少しだけ出てくる程度だしな。俺も城に来た吟遊詩人の唄で初めて知ったし」
「・・・レクスルもフーヤも緊張感ないな」
ユウレイルのぼそりと言った言葉を聞き、二人は話を中断してユウレイルの方に向き直る。
「そう言われましても・・・ちなみに師匠。この馬車って何処に向かっているのでしょうか」
フーヤとレクスルとユウレイルの三人は今、馬車に乗って移動中であった。
わざわざこの移動のためだけにユウレイルが用意したらしい。
質素な見た目と裏腹に乗り心地は驚くほどいい。
ちなみに、フーヤとレクスルは学校の寮でくつろいでいたところ、急にユウレイルに連れ出された。
行き先も告げる事なく連れ出されたため、この態度も仕方ないと言える。
「それは着いてからのお楽しみではあるが、あらかじめ言っておこう」
ユウレイルは馬車に置いてあった水の入った瓶から水を飲む。
「何者かに殺意を向けたくとも向けてはならない時というのがある。まあ、それの練習とでも思ってこれから会う者に殺意を向けてはいけないよ」
◇ ◇ ◇
「フーヤ、大丈夫か?」
「・・・・・・無理」
フーヤは体力が尽きかけつつもふらふらと歩き続ける。
馬車から降りて、目の前にあった山を登り初めて二刻程。
そもそも体力があるわけでも無いフーヤが音を上げるのも無理はない。
それに、今回は修行の一貫との事で魔法を使う事が禁止されている。
ちなみに、フーヤがこっそり使おうとしたところ速攻でバレて怒られた挙げ句、持っていた本を人質ならぬ物質としてとられた。
「一旦、休憩にするか」
ユウレイルは近くの岩に腰掛けると瓶に入った水を飲む。
フーヤとレクスルも岩に腰掛け、水分を取る。
「・・・レクスルは大丈夫なのか?」
「嗚呼、師匠の特訓に比べたらこれくらい散歩程度だな」
「・・・そうなのか」
何かを悟りきった目のレクスルにそれ以上追求するのは辞め、フーヤはそっとユウレイルを見る。
「そうか、それは大変だったね。うん、嗚呼上手くいってるなら良かった」
「何してるんだ、あれ」
肩に翠の小鳥を留まらせて、ユウレイルは会話のような言葉を紡いでいる。
「師匠は動物と話せるらしいぞ」
「そんな事ある訳・・・いや、そういえば女神の彼氏とかいう存在だしあり得ない訳ではないのか」
「一応、僕自身はまだ人間ではあるけどね。ほとんど眷属になりかけというか、ルーン以外の神からも加護貰ったりしてるから、人間枠だとかなり強いかもしれない。でも、神の力を使えるなんて事は無いけど」
フーヤとレクスルの話をしっかり聴いていたらしいユウレイルは、肩の小鳥にまたねと語りかけて別れつつも二人の方へ歩いてくる。
「第一、ルーン自身もこの世界に居る時はさほど力の行使は出来ないんだけどね。神としての仕事に力のほとんどを使ってるから。この世界で行使出来る力なんて本来の力のほんの僅かだし」
「そういえば、師匠。昨日は衝撃で聞き忘れてましたが、ルーン=ルナティック様は創世神様なのでしょうか?」
レクスルが首をかしげる。
創世神とは、神話で伝わっている世界を生み出し、司る神の事だ。
この世界の人々は、信仰の度合いは異なるものの大抵の人が創世神を祀る創世教に入信している。
信仰心など微塵も持ち合わせていないフーヤであっても、入信自体はさせられている。
とはいえ、御祈りの時間があるとかそういったものは聖職者でもない限り無いので、比較的自由な宗教である。
「違う。この世界の創世はルルイエッティのはずだし、ルーンは基本的に創世には関与しなかったはず」
「そうなんですね。俺自身創世教の信者ではあるものの、熱心な信者には程遠いので。それを聞いて安心しました」
レクスルはほっとしたように息を吐きつつ、立ち上がる。
「相手によって変わるんだ」
フーヤは立ち上がると身体を伸ばしつつ、つぶやく。
「まあ、あの女神は僕も好かないんだよな。苦手要素詰め合わせみたいな」
ユウレイルは思い出して顔をしかめる。
「まあ、僕に対しても不手際やらかしてたらしいですからね。胸については眼福でしたが」
フーヤは真顔のままそう告げるとレクスルが口を開く。
「フーヤに性欲がある事に驚いた」
「人のことを何だと・・・それ以前にそれって性欲に入るのか?」
「そろそろ行くぞ」
話題が明後日の方向に向かい始めた会話をぶった斬るようにユウレイルは縄を取り出す。
「縄?」
フーヤの戸惑ったような声にニヤリと笑いつつ、ユウレイルは上に──正確には目の前にある断崖絶壁に指を指す。
「登るからな」
「え」




