15.勇者②
「待て、聞いてないぞ。ヲタ女神」
「フーヤくん、その名前いつまで続ける気?まあ、咎めるつもりは無いんだけど」
フーヤに詰め寄られつつも、ルーン=ルナティックは笑みを浮かべている。
「詳しい話は後日しようかと思ってたけど、今すぐの方がいい?」
「今すぐ」
「後日でお願いいたします」
フーヤとレクスルの声が重なる。
ちなみに、今すぐに聞きたいと答えたのがフーヤで、後日にしたいと答えたのがレクスルである。
「レクスル、どうして後日にしたいんだ?」
フーヤのその問いかけにレクスルは苦笑いする。
「いや、単純に服が汚れてるから着替えたいと思ってな」
「・・・確かに」
フーヤは改めて自身の服を見る。
これまで必死に動きまわっていたため気にならなかったが、砂ぼこり等の汚れが服に付いていた。
レクスルに至っては、分かりづらいものの返り血も付いているようで、早く着替えたいというのも理解出来るというものだ。
「それなら、着替える服と身体を清める場所は提供するから、その後で話を聞くというのはどうかな?私もその間に簡単に事後処理出来るしね」
◇ ◇ ◇
「さて、何から聞きたい?」
フーヤとレクスルはルーン=ルナティックが用意した飾りなどもない簡素な服を身にまとい、机を挟んで向かい合うように椅子に座っていた。
ちなみに、場所は魔法学校のすぐ近くにあったルーン=ルナティック所有の隠れ家である。
見た目は蔦に覆われた赤レンガ造りの廃墟といったところだが、暮らすのに充分な設備は整っており、この国ではお湯につかる文化が浸透していないはずなのに、家に着いた地点で既に湯ぶねがお湯が満たされた状態で用意されていた。
些か、ホラーのような気がしないでもない。
とにもかくにも、風呂でさっぱりした二人はルーン=ルナティックと向かい合って座っていた。
「ところで、事後処理はどうなったのでしょうか?」
レクスルの質問にルーン=ルナティックは微笑みながら答える。
「既に命を喪った襲撃者は安置室に運びこんで、生きている者は魔法等が使えないように拘束した後、私的な牢屋に放り込んでおいたから後で尋問して情報を吐かせる。教師陣には、襲撃者を預かる旨を伝えつつ、生徒の保護及び治療を頼んでおいた。生徒教師共に死者は居なかったので、そこは安心して」
「・・・そうですか」
曖昧な笑みを浮かべるレクスルを横目に、フーヤは立ち上がる。
「それで、何で僕とレクスルが勇者パーティーとして世界を救うことになってる?」
身を乗り出すようにしてフーヤが聞くと、ルーン=ルナティックはにやりと笑う。
「適任だからだよ。勇者となったレクスルくんはある意味当然として、フーヤくんはレクスルくんの友人であるわけだし、何より現地点ではレクスルくんより強い。逆に、何で自分は関係ないと思ってたのか疑問だよ」
「・・・確かにレクスルは友人だが、勇者パーティーとかいう目立つものに参加する意義を感じられないし、利点もない。大体、何で何の得にもならないのに世界を救わないといけないんだ?」
苦々しい顔つきで言うフーヤの横で真面目な表情のレクスルがうなずく。
「こんな事を言うのも良くないかもしれませんが、フーヤは目立つ事を徹底的に嫌います。いくら、俺の頼みでもこればっかりは断るのではないかと。むしろ、今回のような事態に進んで行動した事に驚いたくらいですので」
「フーヤくん、レクスルくんにこういう認識されてていいの?」
「・・・事実だから問題無い。それと忘れる前に、報酬貰わないと」
ルーン=ルナティックは無言で異空間収納から本を取り出す。
フーヤはひったくるようにして本を奪うと、最初のページに挟んであった店舗購入特典の書き下ろしペーパーを恐る恐る見る。
「待って、推しの新規絵!?」
ほとんど悲鳴のような声を挙げてフーヤはうずくまる。
かなり勢いのついた動きをした割には、本と書き下ろしペーパーだけは傷つけたり曲げたりしないように配慮していたりする。
舐めるように書き下ろしペーパーを見るその姿は鬼気迫る物を感じる。
「こんな感じのフーヤは初めて見た・・・いや、本に関してはこちらが稀に驚くような言動をしてたことも多かったか。ここまで取り乱すのは珍しいとは思うが」
レクスルは早速本の冒頭を読み始めたフーヤを眺めつつ、ルーン=ルナティックに尋ねる。
「もしかして、フーヤが喜ぶ報酬と引き換えに協力させる気なのですか?」
「この世界を魔王から救うにはそれが一番いいと思うからね」
ルーン=ルナティックはいつの間にか用意した紅茶を人数分淹れつつ告げる。
「目立つ危険があるので、恐らく生半可な報酬では引き受けませんよ?」
「レクスルの言う通り」
フーヤもレクスルの言葉に同調しつつ、話に加わる。
「フーヤ、もう本を読むのはいいのか?」
「生存確認出来たから。それに、こっちの話の方が重要といえば重要」
ルーン=ルナティックは紅茶をフーヤとレクスルの前に各々置くと、自身の分の紅茶を一口飲む。
「報酬は自由。これでどう?」
フーヤはそっと息を飲み込んだ。




