14.勇者①
その声の主は空からふわりと着地すると、ニヤリと笑う。
「・・・ヲタ女神」
「フーヤくん、私にはルーン=ルナティックという名前があるんだけど。ねえ、その呼び方いつまで続ける気?」
空から降りて来たのはヲタ女神──ルーン=ルナティックであった。
動きやすそうで地味な服を着ている彼女は何故か砂まみれだった。
「まあ、あれだよ。用事が終わって来てみれば嫌な予感的中というかなんというか。とりあえず、フーヤくんに頼み事した私の先見の明は正しかったという事だね」
服についた砂を手で払い落としながら何処と無くどや顔しているように見えるヲタ女神。
尚、この場所は先程まで主にフーヤとレクスルが暴れていた場所のため、死体が転がってたり、焼け焦げた部分があったり、恐らく肉片かと思われる謎の物体が落ちていたりとかなり荒れている。
にもかかわらず、動揺した様子ひとつない。
「もう少し早く来れなかったの?」
「複雑に空間が絡み合った魔法空間から出るのはそんな素早く出来ないから、これだけ早く来れたのを褒めて欲しいくらい」
複雑に空間が絡み合った魔法空間なんて、普通は存在しないだろう。
「何をやってたらそんな事に?」
「それは───」
ヲタ女神が答えようとした時。
「ルーン=ルナティック様ですね!?」
空から降りてきた彼女を見てピシリと固まっていたレクスルが勢いよくヲタ女神──ルーン=ルナティックの名前を呼ぶ。
「はい、そうです・・・で、いいのかな?」
その勢いに何処と無く気圧されているルーン=ルナティックの前にレクスルは跪くと手をとった。
「一目見た時からお慕いしておりました。どうかお付き合いしてはくれないでしょうか」
「レクスルくん、ごめんなさい。既に恋人が居るので、付き合う事は出来ません」
「そう、ですか・・・」
へなへなと地面に座り込み、端から見てても分かるほどに落ち込んでいる。
気のせいか元気無く垂れ下がる犬の耳と尻尾があるように見える。
友人が告白して振られる場面を見るなんてなぁと考えていたフーヤは一瞬硬直した後ルーン=ルナティックを見る。
「一寸待て、恋人が居るの?」
「居るよ?」
「監禁物同人誌書いてるような奴に?」
「それが居るのだよ。不思議な事に」
「本人が認めるんだ」
そんな会話を眺めつつも、立ち上がるレクスル。
「あの、ルーン=ルナティック様。何故こちらにやって来てくれたのでしょうか?件の襲撃者たちについてであれば教師の方へ向かうのが道理だと思うのですが」
レクスルのその言葉を聞き、手をパシリと合わせるルーン=ルナティック。
「忘れてた。レクスルくんに用事がある事」
「レクスルに?」
「フーヤではなく、俺ですか?」
ルーン=ルナティックは『異空間収納』から砂まみれの石板を取り出す。
「レクスルくん、触ってみて」
石碑に触れた者が勇者になる。
フーヤの脳裏にいつかルーン=ルナティックから聞いた言葉がよみがえる。
「これを触るのですか?」
ルーン=ルナティックが頷くのを見て、レクスルは石板───石碑に手を伸ばす。
レクスルが手を触れた途端、石碑は光を放つ。
そして、その光はレクスルに吸い込まれていった。
「これは一体・・・」
レクスルが謎の光に困惑していると、ルーン=ルナティックはわざとらしく頭を下げて敬意を表するとつげた。
「この素晴らしき良き日に、心からの御祝いを申し上げます、勇者よ」
「えっ!?」
レクスルはたじろぎつつ、フーヤにすがるような視線を向ける。
フーヤは数秒ほどレクスルを見つめると、そろりと視線をそらす。
「フーヤ、知ってたのか?」
「・・・不可抗力だった」
レクスルは暫く空を仰ぎ見ると、ルーン=ルナティックの方へ向き直る。
「勇者、という存在はどういう存在なのでしょうか?フーヤから『破壊の翼』の襲撃の目的が勇者の抹殺であるという事は聞いていますが、何分勇者も魔王も御伽噺として語られている存在故、知識が無いに等しいのです」
「魔王というのは、世に災いを振り撒く存在であるのと同時に滅ぼすべき存在。そして、魔王を滅ぼすための力が与えられし者が勇者という訳」
ルーン=ルナティックが澄ました顔で説明するのを聞いて、フーヤは首をかしげる。
「僕に説明した時より簡潔過ぎないか?」
「前にした説明、後で必要無い情報まで盛り込み過ぎたかなと反省したので短く要点だけ話したんだけど、もう少し詳しい方がいい?」
「大雑把ですけど、要点は分かりました。つまり、俺が勇者として魔王を倒すべき存在という事ですよね?」
「その通り!そして、レクスルくんとフーヤくんには勇者パーティーとして魔王から世界を救って欲しいと思います!」
ルーン=ルナティックは当然とでも言いたげにそう言い切った。




