9.頼み事②
「え」
フーヤの動きが固まる。
ルーン=ルナティックは緑茶を飲み、茶菓子である饅頭を食べる。
「念のため言っておくけど、そうなるように仕向けたとかじゃないから。フーヤくんの友達が勇者なのはたまたまだから」
フーヤは緑茶をぎこちない手つきで飲む。
「・・・何で勇者って分かる?」
「勇者は『勇者の印』と呼ばれる石碑に触った時に認められた者が勇者になる。まあ、勇者に選らばれる者は触れる前からさっき話した魔王に殺されないという能力はあるんだけど。印を得ることで初めて勇者として魔王を倒すための力を得る」
ルーン=ルナティックはそこで言葉を切ると、少し声を小さくして言う。
「女神の力でちょっと覗き見たから特定出来たんだけどね。まだ、石碑に触ったわけじゃないから。ただ、何処で突き止めたのか知らないけど『破壊の翼』がこの学校に勇者が居ることを突き止めたみたいなんだよ。個人の特定まではまだみたいだけど、この学校の守護結界が壊されたら不味いかな。勇者特定の魔道具持ってるみたいだし、石碑に触る前は対抗する力も弱いから」
フーヤは目を閉じて思考した後、目を開けると真っ直ぐにルーン=ルナティックを見る。
「ヲタ女神、いくつか質問をさせてくれ」
「いいよ、ところでやっぱりヲタ女神の呼び方は決定事項なのかな?」
「石碑に触れることで勇者が得られる力って何の事?」
ルーン=ルナティックは自身の質問が無視されてあからさまに顔をしかめつつも、緑茶を飲む。
「魔王に殺されない能力があっても、魔王を倒せる力が無いと意味ないからね。だから、魔王を倒すための力として『身体能力強化』と『魔力制御補助』が石碑を触ることで与えられる。ちなみに『魔力制御補助』はフーヤくんのと全く同じ能力だよ。案外、魔力はあっても制御出来なくて魔法の威力が出ない人多いんだよ、この世界」
フーヤは緑茶を飲みつつ、ルーン=ルナティックをちらりと見る。
笑みを張り付けたようでいて、何処と無く真剣さも感じられる表情。
「・・・次の質問。勇者以外が魔王を倒す事は出来る?」
「可能だよ。ただ、勇者っていうのは魔王に立ち向かうための旗印の意味合いも深いし、それ以外の理由でも勇者が倒すべきだと思うよ」
「それ以外の理由?」
ルーン=ルナティックはがたりと立ち上がる。
「勇者以外が魔王を倒したことで、魔王を弱いなどと勘違いした愚か者どもが魔王を倒そうとしてあっけなく餌食となり、結果的に何十万もの死者を出す事態となった事が昔ありましてね。結局、その時は死者が多すぎて神々の大々的な介入の元で勇者が倒したんだけど。その悲劇を繰り返すわけにはいかない」
拳に力を籠めて力説するルーン=ルナティック。
フーヤは緑茶を飲むと饅頭を一口食べる。
「次の質問。学校の守護結界って何?」
「・・・話の流れで言ってしまったけど、一応秘匿事項だった」
ルーン=ルナティックは再び椅子にすとんと座る。
「じゃあ説明しなくていい」
フーヤはきっぱりそう言い切ると饅頭を食べていく。
「とりあえず、守護結界がこの学校を守っているって事さえ分かっていれば大丈夫。生徒が立ち入り禁止の塔があるでしょ?」
うなずくフーヤを確認して、ルーン=ルナティックは話を続ける。
「守護結界を壊して、使えるようになった勇者特定の魔道具で勇者を見つけて殺すのが目的らしいし、守護結界を壊すには塔の最上階に行く必要があるから狙われるのは塔だろうね。最も、勇者特定の魔道具は精度の低過ぎる粗悪品なんだけど。まあ、怪しい奴らを全部殺すつもりらしいし精度なんて関係ないんだろうね」
ルーン=ルナティックはうんざりした調子で告げるとフーヤを見る。
「それで、そろそろ引き受けてくれる気になったかな?」
「レクスルは友達だし、最初から引き受けないなんて選択肢はない。それで、最後に質問」
ツンデレっぽいセリフキターなどと小声で叫んでいたルーン=ルナティックは姿勢を正す。
「なんで、暫く来れなくなる?」
「それは、どう───じゃなくて、えっと、野暮用だよ野暮用」
「・・・・・・くだらない理由なら、代わりなんてやりたくない」
「いや、公に口に出せないだけでくだらない理由ではないから。まあ、仕方ない。最終手段を出すか・・・」
ルーン=ルナティックは懐から一冊の本を取り出す。
フーヤはその本を見てガタッと立ち上がった。
「・・・最新刊、だと!?」
フーヤが気に入っているシリーズの最新刊を掲げるルーン=ルナティック。
フーヤは無言で奪い取ろうと手を伸ばすが、軽々とかわされて異空間収納に仕舞われる。
異空間収納は各々別のものであるので、ルーン=ルナティックの異空間収納にはフーヤは干渉出来ない。
「生徒を誰一人として殺させなかったら、成功報酬としてこれをあげよう。ちなみに、店舗購入特典の書き下ろしペーパー付きだ」
「・・・卑怯だ」
余談ではあるが、前回の巻でフーヤの推しが生死不明となっている上に、主人公の仲間の一人が敵の手中に落ちるという続きが気になり過ぎる幕引きだった。
それ故に、続きを知るのはフーヤにとって死活問題である。
「そういう訳で、頑張ってくれたまえ」
その言葉にフーヤはうなずく事しか出来なかった。




