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転生者は能力を隠したままで隠居生活を目指したい!  作者: 虹夢 なうみ
プロローグ
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プロローグ

前に投稿していた『転生特典チート隠してたけどバレました!?』を元として書き直したものです。

そのため、設定が被る部分もあるかもしれません。

週一ペースで投稿していこうと思います。


「ド、ドラゴン!?」


 頭にターバンを巻いた商人の男が叫ぶ。

 荷を積んである馬車から転げ落ちる。

 馬が錯乱状態になった馬車は商人をおいて行ってしまうが、それどころではない。

 ドラゴンなぞに遭遇して、生きて帰れる者がどれほどいるのか。


「ドラゴン出たけど、どうする?」


 尻もちをついてじりじり後退しつつも、商人が絶望しかけたその時、呑気そうな声がした。


「面倒そうだからパス。襲われてるのも男だし」


「メタリックドラゴンか・・・目立ちたくないからパス」


「お前らな・・・・・・」


 ガサリと音を立て、三人の男が現れる。

 各々、緑、深緑、薄緑のローブを着ている。

 緑のローブの男が背に背負っていた大剣を引き抜く。


「俺がやる。だから、手伝うくらいはしろ。フーヤ、カザヤ」


「りょうかーい」


「分かった」


 薄緑のローブの男と深緑のローブの男が次々に答える。

 緑のローブの男が深呼吸するとドラゴンに大剣を向ける。


「────無茶だ」


 商人がつぶやく。

 たかが、三人でドラゴンに敵うはずがない。

 ドラゴンなんてものは、国軍の精鋭部隊が相応の準備の上で挑むものだ。

 その上メタリックドラゴンは装甲も硬く、相当に手強い相手である。


「フーヤ、何処をまず狙うべきだと思う?」


「なんで態々僕に聞くのさ・・・尻尾」


 フーヤと呼ばれた深緑のローブの男は、ため息をつきながら答える。


「今回は確実に仕留めるのを優先したい。僕はドラゴンの炎の二次被害を防ぐから二人はドラゴンをお願い」


「よし、じゃあカザヤ行くぞ!」


「おう!」


 緑のローブの男が走り出すと、慌てたようにカザヤと呼ばれた薄緑のローブの男も走り出す。

 走り出したその先には、ドラゴンが迎え撃つ気満々といった様子で佇んでいる。

 鈍い銀色に輝く装甲を持ち、大きさは城ひとつ程はある。

 恐ろしい強敵に向かって突っ込む二人を見て、商人はその二人の死を想像して目をつむる。

 ドラゴンが炎を吐いたことが目蓋越しに分かる。

 商人は死を覚悟した。

 だが、覚悟した死は訪れなかった。


「・・・・・・嘘だろ」


 商人の前に立ったフーヤという名の男が炎を消滅させたのだ。

 いや、ドラゴンの炎を消滅させるなんてどういう事だと商人は瞬きする。


「「せーの!」」


 いつの間にかドラゴンの背後に回った二人が同時に技を放つ。

 緑のローブの男は大剣で、カザヤという男は風魔法で挟み込むようにして同時に尻尾を狙う。


「・・・・・・は?」


 尻尾は切り落とされた。

 商人が呆然としている間も事態は動く。

 尻尾が切られた痛みからか、苦し気な咆哮と共に炎を吐き続けるドラゴン。

 緑のローブの男とカザヤは炎を華麗にかわし、フーヤはひたすらに炎を消していく。

 まるで作業だと言わんばかりに。

 カザヤがドラゴンから距離をとって走りながら、出鱈目に小さな風の刃を飛ばす。

 いや、出鱈目ではない。

 ドラゴンの錯乱を狙い、あちこちから飛ばし続けているのだ。

 しかも、小さいながらもそれなりに威力はあるらしく、ドラゴンの体に小さな傷をつけていく。

 ドラゴンが風の刃に気をとられている隙に緑のローブの男がドラゴンの足元に滑り込む。

 グサリとドラゴンの右脚を大剣で刺し、ドラゴンが悲鳴のように呻いてよろけるのと同時にドラゴンの体を蹴って飛び上がる。

 緑のローブの男はドラゴンの上空に達すると、降下し始める。

 大剣を振りかざすその先は、ドラゴンの首。

 スパンと音を立てて斬られた首は呆気なく切断され、地面にゴロンと転がる。

 残響として残る断末魔の叫びと共に音を立てて崩れ落ちるドラゴンの体。


「よし!」


 緑のローブの男が握りしめた拳を天に突き上げながら叫ぶ。


「レクスル、おめでとう!見事だったよ、それに俺の手伝いも予想より少なくてすんだし」


 カザヤが軽くローブに付着した汚れを手で落としながら笑顔で言う。

 レクスルと呼ばれた緑のローブの男は大剣についた血をぼろ切れで拭いつつも満面の笑みを絶やさない。


「尻尾の切断面、二人がかりだったからか大分荒い。戦略も悪くはなかったけどドラゴンの体に小さな傷が一杯あるのは少し減点かな。まあ、初めてにしては二人とも上出来だったんじゃない?」


「いや、何処目線なのさ、フーヤ。というか、素直にレクスルを褒めればいいのに」


 カザヤがジト目でフーヤを見つめる。


「カザヤ、別にフーヤからの言葉は求めてないし、それに唯の照れ隠しだから気にすることないぞ」


「おい」


「・・・確かにフーヤってそういう所あるよな」


「お前らな・・・」


「さて、茶番はこのくらいにしておいて・・・大丈夫でしたか?」


 レクスルが商人に近づき、手を伸ばす。

 商人は震える手で伸ばされた手を掴み、立ち上がる。


「あ、あの、レ、レクスルってまさか・・・」


「嗚呼、自己紹介が遅れましたね。俺はレクスルと呼ばれています。恐れ多くも勇者を名乗らせてもらっています」


 ◇ ◇ ◇


「あの後の商人の反応凄かったよな。最初はドラゴンに会ったショックが抜けてなかったけど、緊張がとけるにつれて凄まじい勢いでしゃべり出すし」


 カザヤが少し呆けたように言う。

 こちらが少々引き気味になるくらいの勢いのマシンガントークを浴びせられたのだから仕方ない。

 商人と別れて歩いている今でも、こうして思い出すくらいには印象的であった。

 なお、ターバンを見てインド人を思い浮かべた者も居たが、敢えて言及するのは辞めておく。


「まあ、それがあの商人の武器なんだろうな。ところで、フーヤ」


「何?」


「あのドラゴン、俺とカザヤの二人だったからそれなりに時間がかかったが、フーヤなら一瞬で終わっただろう。なんで、俺たちにやらせたんだ?」


「・・・二人も経験積んだ方がいいかな、と」


「本音は?」


「目立つのが面倒!目立ちたくない!!!」


 渾身の叫びをあげるフーヤと苦笑いを浮かべるカザヤとレクスル。


「本当に、いつまで経ってもフーヤのこの主張は変わらないよね。せっかく、転生チート貰ったんだし無双してハーレムルート目指せばいいのに」


「・・・貰った転生チートを何故かちっとも上手く使いこなせていないカザヤにだけは言われたくない」


「それを言うなよ。結構気にしてんだからな・・・」


 カザヤが大分気落ちしたようにつぶやく。

 今の会話から察する事が出来るように、フーヤとカザヤの二人は所謂転生者である。

 最も、スペックや転生後の経緯等は当然異なるが。

 ちなみに、二人と行動を共にするレクスルは事情を知っているだけであり、転生者というわけではない。


「・・・いや、カザヤの能力もこちらからすると十分凄いからな」


 レクスルがそう告げるのも気にせず、カザヤはフーヤの方を向く。


「というか、フーヤ。フーヤの目標って目立たないだけど、無理じゃない?」


 レクスルもカザヤの言葉にうなずく。


「そうだな。勇者パーティーに参加している地点で相当目立ちやすいだろう」


「いや、それはそうなんだけど・・・」


「目立たないなんて無理なんだし、どうせならチート能力生かして可愛い女の子と仲良くなってハーレムルート目指せばいいじゃん」


「カザヤ、さすがにそれは下心ありすぎだし、第一カザヤの周りには女の子の影が一切見あたらないのだけど」


「うっ!そ、それは・・・これから出会うんだよ!!!」


「それに、僕の目標は目立つことなく隠居して自由気儘に生活する事だから。カザヤみたいにモテモテになりたいとかじゃないから」


「いや、そこはモテモテになりたい一択だろ。全人類の夢だぞ?全人類の夢を放棄するつもりなのか!?」


「別に、興味ない」


「なんだと!?」


「お前ら、いい加減落ち着け」


 口論が落ち着くどころかヒートアップする様子を見かねて間に入るレクスル。

 そもそも、何故目立ちたくないと言っているフーヤが勇者パーティーなぞに所属しているのか。

 それを語るには時を二年程遡らねばならない。


【簡単人物紹介】

・フーヤ=ロイホード

本作品の主人公にして、転生者。

目立つのが嫌い。(経験上面倒な事になるので)


・レクスル=ヴェルトヒェン

フーヤの友人で、勇者。

これから復活するであろう魔王を倒すため、修行の旅をしている。


・カザヤ

転生者ではあるものの、転生時に貰った能力を使いこなせていない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! まさかの隠居するという設定がいいですね [一言] これからも頑張ってください!
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