マニュアル
シトシトと肌寒い霧雨が降る日だった。
5歳のエドは、遊び相手が昼寝をしていてとても暇だった。
レオンは餌を捕るための狩りへ。
リュイも寝ていてるが、起きていてもエドとは遊ぼうとしない。
しょうがないので、洞窟入口に引き締めた若葉のベッドに身を転がし、レオンの帰りを待っていた。
その時、ぷ〜んとエドの耳元で不快な音がする。エドは手を振って蚊の様な虫を自分の周りから追い払う。――すると、ちょうど左耳たぶに触れた時、『ブォン』という音と共に半透明の画面――自分のステータスが目の前に現れた。
どうやら、左耳たぶを触るのがステータス画面の発動条件だったらしい。
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エド(Lv.1 魔王)
HP:15
MP:5
初期パラメータ
腕力:10(成長率:E)
体力:10(成長率:D)
素早さ:10(成長率:A)
魔力:5(成長率:E)
魅力:5(成長率:C)
武器適正:なし
魔法適正:なし
祝福スキル:ぽかぽか
職業スキル:???
▶マニュアル
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数値は五年前に見た時と変わらなかった。
しかし、五年前と違う所があった。
▶マニュアル、だ。
エドはそこを人差し指でタッチしてみる。
すると、軽やかでさわやかな音楽がポロロロン♪ポロロン♪と鳴り始めた。
『初めまして、カームランドへ。これは転生者に向けたマニュアルです。
レベル、初期パラメータに関する事をお聞きになる場合は①を。
武器・魔法適正に関する事をお聞きになる場合は②を。
祝福スキル・職業スキルに関する事をお聞きになる場合は③を押してください
終了の場合は④を押してください』
録音らしき女性の声が聞こえ、まるで宅急便の再配達サービスセンターにつながった感じの事を尋ねられた。
とりあえず、エドは①を押す。
すると再び女性の声が選択肢を出す。
『レベルに関する事をお聞きになる場合は①を。
初期パラメータに関する事をお聞きになる場合は②を押してください』
レベルに関する①を押す。
『――「レベル」は、カームランドに住む生命を殺めたり傷つけた場合に経験値が加算されていきます。
僧侶や攻撃補助を主体とした職業の場合は、その貢献度によって経験値が加算されます。
どのレベルも100を上限とし、クラスチェンジは職業によりますが可能な職業の場合、ステータス画面の下部に『クラスチェンジする』と言うコマンドが表示されますので、そちらをタップし、クラスチェンジしたい職業をお選びください。
ただし、その場合、再びレベル1からのスタートとなります』
それを言い切るとまたレベルか、初期パラメータか聞かれたので今度は②を押す。
『――「初期パラメータ」はレベルアップ時に成長率に合わせて上昇します。成長率はS~Fまであり、それに応じて上がって行きます』
再びメニュー画面に戻り、武器・魔法適正の事を聞く。
『――転生し、与えられた肉体に最も適した武器や魔法を示します。
例えば、武器適正が「剣」でしたら、剣の才能に特化し、魔法適正が「火」でしたら火系に特化した魔法使いになるに適しています。
職業「戦士」で武器属性が「斧」の場合、斧を扱う戦士になる事が最も成長率が良いと言う事になります』
最後のスキルについて聞く。
先ず祝福スキルについてをタップする。
『――「祝福スキル」とは転生した者のみに与えられる特別能力です。レベルアップと共にその能力が強化したり、応用が使えるようになります。
使用したい時は、そのスキル名を読み上げれば使えます』
つまり、エドの場合「ぽかぽか」と言うと使えるという訳だ。
そして、職業スキルについて聞く。
『――「職業スキル」は生まれ持った職業に付与されるスキルです。例えば兵士でしたら攻撃を一度防ぐ「防御」、盗賊などは二回攻撃が出来る「ダブル」、魔術師などは「属性アップ」などがあります。これもまたレベルアップ時に覚えられるでしょう』
最後にエドは終了を押す。
――すると『最後に』とまろやかな音楽と共に女性が語りだした。
『――最後に。
この世界は前世界と同様、生き返る事は出来ません。死んだとしても元の世界に戻れる事はありません。命を大切に新しい人生をお楽しみください』
ガチャンと、マニュアルは切れた。