違和感
三年が経った。
エドは三歳。
とっくに離乳をし、レオンが捕って来た獲物を食べるようになっていた。
しかし、母親が捕って来た獲物は大体が生である。
エドはその生の獣が食べられなくて困っていると、母親は口から炎を出して焼いてくれた。
(エドは焼かないと食べられないのね)
どんなに炎を吐き続ける事が大変でもエドの食事はしっかりと焼いてくれて、前足で器用に小さく切り分けてくれるレオン。
そして切り分けた肉をエドの口へと運んでくれた。
それを大きな口を開けてパクリと食べるエド。
――前世の最も過去の記憶を辿れば。
母親からスプーンで食事を貰っている兄を横目に、自分は慣れないスプーンで必死と白米を食べようとしていた。
しかし上手くいかず、手づかみで食べた瞬間、母親から頬を叩かれたのを覚えている。
行儀が悪いと。
レオンはエドが肉汁を零しても、肉が大きくて噎せて吐いても、優しくそれを舐めとってくれた。
(ごめんね、エド。大きかったわね)
と言い、次からは小さく食べやすく切られた肉を与えられた。
エドはその行為に、胸がざわざわとする。
慣れない扱いにどうしたら良いのか、分からないのだ。
とにかく怒らないレオン。エドやアデナが危険な事をすると叱るときは度々あったが、己の感情に振り回される事なく、なぜそれがいけないのか、という事を懇々と伝えていた。
過去の母親しか知らなかったエド。
何をするにも怒らずに、ニコニコと見守るレオンを見ていると、落ち着かなくてもどかしい気持ちになる。
◆
(あちょぼ!)
覚束ない足取りだが、歩けるようになった金のキメラのアデナ。
毎日エドを遊びに誘うようになる。
二人は洞窟のすぐ傍の原っぱならば、母親の監視付きで遊ぶ事を許された。
女の子なのにやんちゃなアデナ。
エドは毎日アデナと原っぱを駆けまわり、体を動かした。
リュイは洞窟から一歩も出ない。
正確には、以前に一度だけ三人で追いかけっこをしたがリュイは足が遅く、すぐに転んで怪我をしたため、以来怖がって遊ばなくなった。
洞窟の中でもエドとアデナがじゃれていても遊ばない。
何をするにもワンテンポ遅く、いつもアデナは呆れた表情をしていた。
口にはしないものの、リュイの事を少し面倒な子だと思っていたと思う。
けれど、そんな弟を優しく面倒を見るのもアデナであった。
レオンもアデナに対してリュイの成長の遅さに少し焦るものの、母親として根気よく付き合っていた。
――エドはそんな母娘を見ていて、意味が分からなかった。
過去はリュイの立場だった自分。
母親から疎まれ、父親に軽く見られ、兄から苛められて生きてきた。
なのになんでリュイは自分と同じなのに、こんなに待遇が違うのだろうか。
その答えが出ず、エドはリュイに対して優しくしてやる事が出来なかった。
しかし冷たくあしらっても、遠ざけても、エドの心は晴れる事はない。
――なぜ。
そんなエドの生まれ持っていた澱が心に沈んだまま、五歳になる。