エドとレオンと
優しい音がエドの脳に直接語りかける。
(ほら、飲みなさい、坊や)
(……坊やって、僕の事……?)
エドが返事をしたことに、虎の母親は少し驚いた。
(まあ、お前はもうお喋りが出来るのね。うちの子と同じくらいかと思ったのに)
再びベロリと虎の母親に舐められるエド。
(さ、話が分かるなら、早く飲みなさい。お腹が空いているんでしょう?)
その優しい声に導かれて、エドは恐る恐る虎の乳首を含んだ。
すると赤ん坊特有の本能で、自然と舌をうまくしごいてチュッチュと乳を吸った。
(う、美味い! 甘くて濃厚なクリームの様だ!)
エドは夢中になってその乳を吸う。
すると、虎の母親の顔つきが一層優しくなった。
(ふふ、やっぱりお腹が空いていたのね。飲んでくれて良かった。たくさん飲んで、大きくおなり)
その日から辰次は子虎に混ざり、一緒に乳を吸う日々を送る。
こうして、人間の母に捨てられた辰次ことエドは、虎に拾われて育つことになる。
◆
一年も経つと、エドは二足歩行を始める。
しかし、同じころに生まれた子虎達はまだまだヨチヨチの赤ん坊だった。
母親の虎(名をレオンと言う)が、言うには自分達は虎では無く『キメラ』であると言う。
エドの知っているキメラといえば、一個体の中に様々な種族の遺伝子が混ざった獣だったが、レオンは一見虎にしか見えない。
だが、不思議な能力を持つレオンは間違いなく虎+の何かの遺伝子を持っている様だ。
そして、エドの知る虎の平均寿命は10年だが、レオン達は五百年は軽く生きるそうだ。その分、成長も遅いらしい。
金の子キメラは姉のアデナ。
銀の子キメラは弟のリュイ。
金のアデナは好奇心旺盛のやんちゃな子だった。
歩き出したエドの傍へとやって来て、興味津々とばかりにエドを突いたり、甘噛みして遊ぼうと誘う。エドもそれに応えて一緒にじゃれて遊んだ。
物覚えも良く、レオンが教えた事は一度で覚える子であった。
それに対して、銀のリュイは大人しくおどおどとする子だった。
じゃれて遊ぶエドとアデナに割って入る事が出来ず、いつも周りから二人の遊びを見ている。
物覚えも悪く、レオンが何度教えても失敗ばかり。
どうもリュイを見ていると過去の自分を見ているようで、気が気じゃなかった。
そして自分の経験からして、リュイはこの家族の『はじき者』になるのだと信じて疑わなかった。